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旦那さまはスーパーアイドル
午後八時が回って、セノオ体操教室の看板から灯りが消える。最後の生徒を見送った夕哉は、体育館の戸締りを始めた。
ほかに誰もいないのを良いことに、お気に入りのラジオを流す。毎週金曜日、人気アイドル『Re:starts!』 のメンバーが交代でMCを勤める番組だ。ちょうど今日は、夕哉が担当している松瀬アカリが出演している回だったから間に合ってよかった。
聴き慣れたジングルから番組は始まる。
『いやぁ、入ってきたねえ新人ちゃん! 入ってきたんですよ、うちの事務所に! アカリはもう誰かと喋った?』
『この前事務所行ったらちょうど全員揃ってたからちょっとだけ挨拶した』
『マジ⁉︎ いいなぁ。僕も早く会いたい!』
『初めての後輩だからね、ちょっとテンション上がるよね』
オープンニングトークは、『Re:starts!』が所属するアイドル事務所の新人グループについて。五人のうち三人がまだ十代の『Re:starts!』は、事務所でも一番後輩な立ち位置だったのだがこの度ついに先輩になったのだ。
それからも番組はいつも通り楽しく進み、次は今日の一曲のコーナー。この番組では毎回、メンバーおすすめの楽曲と『Re:starts!』の楽曲をそれぞれ一曲ずつ流している。
『それじゃあアカリ、タイトルコールお願いしまぁす!』
『本日お届けするのは、5月20日発売、Restarts初のソロ楽曲アルバム『一番星』より、松瀬アカリで『スペクタクル』。それではどうぞ』
ベースソロで始まるイントロにゾクリと鳥肌が立つ。もう何度も聴いた曲だけど、まさかアカリのソロ楽曲が流れるとは。片付けする手を止めて、置きっぱなしにしていたスマホの前に来る。
じっくり聴こう、とアカリの伸びやかな歌声が響いたところで、雑音が入ってきた。
「夕哉! 片付け終わったか!」
「……親父。もう少しだよ」
なるべく不機嫌が顔に出ないように返事をする。
「そうか、おれぁ先に帰るからな! あと頼んだぞー」
「はーい、お疲れ様」
普段、勝手に帰るくせに。こういう時に限って何故か声をかけてくる。良い歳してそんな親に反抗する気にはならないけども。
気を取り直して、せめてサビからだけでも、と思ったのに、視線を感じる。振り返れば、先に帰ると言った父親がひょっこり顔をのぞかせていた。
「どうしたの」
「この曲アカリくんのだろ、上手やなって伝えとけ!」
「はいはい」
今度こそ本当に帰ったのを確認してアカリの声に意識を戻す。とっくに一番の終わりで、フェードアウトにかかるところだった。
落胆のため息を吐かずにはいられない。いや、もちろんCDは持ってるし、なんなら帰宅途中に車で聴けるのだけども。
仕方がないのでさっさと戸締りを終わらせる。
ラジオが終わる頃には、家に着くはずだ。
✳︎
コンビニに寄って、取り置き予約をしていた雑誌を受け取る。アカリが、初めてソロでグラビアページをもらっているのだ。雑誌の告知アカウントがチラ見せとして載せたワンカットの頸から漂う溢れんばかりの色気。毎日眺めても足りなかったのだ、この雑誌で一年はご飯が食べられる気すらする。
周りに誰もいないのを良いことに、スキップすらできてしまう。
意気揚々と玄関を開けば、真っ暗だと思っていた部屋はしっかりと灯りが点いていた。
「あれ」
足元には、まだ無いと思っていた見慣れた靴。
部屋の奥から、静かな足音が近づいて来る。
「おかえり、夕哉さん」
「アカリく……っ⁉︎」
先ほど受け取った雑誌の表紙を飾る男が、無加工にも関わらず誌面と変わらぬクオリティで立っている。
松瀬アカリは、人気アイドル『Re:starts!』のメンバーであり、夕哉の夫でもあるのだ。
「ンンッ。ただいま、アカリ」
うっかりファンの気持ちで「アカリくん」と呼びそうになったのを正す。今は松瀬アカリのファンではなく、松瀬アカリの夫の時間だ。
「今日は早かったんだな」
「うん。ダンスの先生がこの後用があるって、レッスン早めに終わった」
出会いは、夕哉の実家が経営しているセノオ体操教室の門をアカリが叩いたところから始まる。当時のアカリはまだ小学生で、夕哉も高校生。指導者ではなく生徒として在籍していた。
それからなんやかんや、アカリがアイドルになったり、夕哉が『Re:starts!』にどハマりして大学受験に失敗したり、付き合ったり別れたり復縁したり、本当になんやかんやあって、結婚に至ったのである。
アカリの若さを考えて、まだ世間では公表していない。夕哉も旧姓のまま仕事をしているし、知っているのは事務所とメンバーと両家だけ。いつか発表することを思うと気が重くなるのだが、今はちゃんと幸せにやっている。
もちろんアカリという人間に惚れ込んでいるのもあるけれど、アイドルをしているアカリのことも好きすぎて、正直身が持たない毎日だ。
帰ってきたら推しが待っている。死んだ先が地獄でもおかしくない日々である。
「ちょっと待ってな、いま晩メシの用意するから、」
「夕哉さん」
荷物を玄関に置いて、台所で手を洗う夕哉の背中を暖かい温度が覆う。
体操教室で汗をかいてきたばかりの頸に、アカリがキスを落とした。腹に回った腕が、ぎゅ、と夕哉を抱きしめる。
ダンスレッスンで同じく汗をかいているはずなのに、アカリからはどこか甘ったるい色気のある香りが漂ってくる。何度ハグしたって慣れない。耳元で囁かれる低い声が夕哉を腰砕けにしようとしていた。
「エッチしよ」
今すぐ仰せのままに! と身を差し出したくなるのをグッと堪える。
年上の夫として、ちゃんと手綱を握っておかなければならない。アカリはつい半年前、十代を卒業したばかりなのだ。性欲旺盛で欲望に忠実なのも良いことだけれど、二人で決めたルールはちゃんと守ってもらわなければならない。
「ダメ、翌日が二人とも休みの日だけって約束だろ」
「明日の打ち合わせ無くなった。体操教室もお休みだよね」
返事を聞く前にシャツの下から手が滑り込んでくる。
「め、メシを食ってからでも、風呂も入りたいし……!」
「コンビニの袋持ってた。絶対買い食いしてきたよね?」
図星で動揺していたら、いたずらな指に胸の突起をきゅむ、と摘まれる。アカリと結婚して、すっかり性感帯にされてしまった蕾は簡単に甘い痺れを呼んだ。
「んっ」
すり、と中指が突起の下をさする。気にしないふりをしながら手を拭いて、もう一度「ダメ」と訴えようとした瞬間、指の間に挟まれた突起を思い切り引っ張られる。
「ひぐッ!?」
痛みか快楽か曖昧な衝撃。アカリのせいなのに、刺激を労るように乳輪を優しく撫でるから、じんわりと広がる熱に体が溶けていく。
「……ん、っ、ぁぅ」
「夕哉さん」
大好きな音で、いやらしい吐息で、焦ったそうに名前を呼ばれる。きゅう、と胸がしまって逆らえなくなっていく。
胸をいじる両手に自分の手を被せた。剥がしてやると思っていたはずなのに、甘い空気に負けてどうにもならない。どうしたものかと迷っていたら、自分から胸を弄ってくれと誘っているみたいになっている気がする。
腰に、硬いものが当たる。
「……ぅぁ、んっ」
わざと擦り付ける、品のない仕草。ふと後ろを振り向けば、そんな下品な行為とは正反対の、端正な顔が夕哉を覗き込んでいた。
(くっ、カッコいい……!)
思わず目を逸らしたくなったのに、許されないまま唇を塞がれる。言葉を奪われた夕哉の胸を、アカリの指が蹂躙しはじめた。
「ンッ、んっ、ふっ、ンンッ、くぅ、ンッ、ンッ!」
夕哉のために切り揃えられたつま先が、すっかり勃ちあがった突起を根本からなぶり倒す。カリカリと何度もこねくりまわされて、腰が重くなっていくのを感じた。
アカリの好きなように作り変えられた体は簡単に溺れていく。足が震えて、少しだけ体重をアカリに預ける。
「んっ、んっ、んっ、んーんっ!」
舌を押し込まれて、大きく開いた口の端から涎が垂れ落ちた。
じわじわと快感に追い詰められる。
あ、やばい、イくかも。まだ胸だけでイッたことなんてなかったのに。
じゅるりと音を立てながら舌を吸い上げられる。同時に、突起を強く弾かれた。視界がチカ、と点滅する。
「んあっ、んっ、んんんッ……!」
瞬間、インタホーンが部屋の温度を一気に下げる。
責めが止まった隙に、アカリの腕から抜け出す。ナイロン生地の安いシャツが、熟れた突起に擦れて甘く痺れるけど気にしない。
アカリを台所に置き去りにしたまま、モニターを覗くと見慣れた宅急便の制服があった。
『宅急便でーす、瀬尾様宛で来てます』
「いま開けまーす」
マンション入り口のドアを開錠する。しばらくすればまた、玄関のインターホンが鳴るだろう。
さて、なにか頼んだだろうか。夕哉は記憶にないけど、アカリはよく通販を使う。本名で活動するアカリの家バレ防止のために、すべての配送物を夕哉の旧姓でお願いしているからどちらの荷物か判別付かない。
「夕哉さん、俺のかも」
「また何か頼んだのか」
「うん。イイやつ」
「最近お金の使い方荒くないか?」
「夕哉さんから言われた通り、ちゃんと毎月の貯金はしてるもん」
もん、って、可愛いな。
「……なら、いいけど」
「な、なんか顔険しくない?」
「険しくない……」
あまりの可愛さに蕩けそうな表情筋を引き締めていたら変顔になったのかもしれない。アカリが心配そうに見つめてくる。でもいま緩めたら、溶けて消えてしまいそうだから……と逡巡しているうちに、宅配のお兄さんが玄関に着いたらしい。
「置き配でお願いします」
『はーい、じゃあこちら置いておきますね。ありがとうございました』
「ありがとうございますー」
ドア越しに、足音が遠ざかったのを確認する。
玄関ドアを避けるように置かれた箱は、片手で持てるくらい小さめで軽かった。トレーニング用品ではなさそうだし、日用品……マグカップとかだろうか。
一番心当たりのある「線」をあえて外しつつ予想してみる。
箱を受け取ったアカリは意気揚々と開封した。
「じゃーん、新しい尿道パール。これ、電動なんだよ」
「やっぱり……」
「やっぱりって、新しいオモチャ、期待してた?」
「してない」
「でも好きでしょ」
言葉に詰まったのは別に図星だったからではない、と自分に言い訳する。
アカリは成人してから、馬鹿みたいにアダルトグッズを買い漁ってくるのだ。押しに負けて使われてしまう夕哉も夕哉だけど、せっかくアカリが頑張って稼いだお給料がこんなところに消費されていると思うとなんとも言えない気持ちになる。
(あとファンのみんなにも若干の申し訳なさがある……。結婚した俺が言えることじゃ絶対にないんだけど……)
アカリの手の中で、尿道パールがウィンウィン音を鳴らしてうねりだす。尿道内でしていい動きには思えなくて目を逸らした。
「夕哉さん」
ウィンウィン動く尿道パール片手にアカリが近付いてくる。そのさますら絵になるから不思議だ。
アカリの手が、夕哉の背後にある壁に着く。俗に云う壁ドンは、体躯の良いアカリお得意の追い詰め方で、夕哉が一番絆されやすいシチュエーションだ。だって完璧な男がこんなに至近距離で見つめてくるから!
「夕哉さんは買い食いでそんなにお腹は空いてない。俺も夕哉さんも明日はお休み。新しい玩具もあるし、俺は今すぐ夕哉さんとエロいことがシたい」
「い、言うな言うな、全部言うんじゃない」
「言わないと分かってくれないでしょ。……夕哉さん、俺の言うこと、聞きたいよね」
なにを言っているんだと反論したいのに、その通りだから頷くしかない。
アカリの言いなりになるのは、好きだ。
被虐趣味があるわけではないはずだけど、従者のようにアカリの言いなりになってめちゃくちゃにされるのは、たまらなくクセになっている。
寝室に連れ込まれて、アカリはベッドに腰掛ける。
「夕哉さん、ズボン脱いで」
アカリの目の前に立たされた夕哉は、命じられた衣服だけを脱いでいく。どこで覚えてきたのか、少し歪な性癖があるアカリは最近、夕哉のストリップがお気に入りだ。
体が火照るのを自覚しながら、アカリの次の言葉を待つ。視線に犯されているような心地が堪らなくて逃げ出したくなった。こうして、夕哉が立ち尽くしていることすらアカリは楽しんでいる。
夕哉に被虐趣味は無いはずだけれど、アカリには絶対加虐趣味があると思う。
そういえば最近、『Re:starts!』の動画チャンネルでメンバーにいたずらを仕掛けては楽しそうにしているアカリの動画が上がっていた。夕哉の前ではカッコつけた表情をすることが多いアカリの、貴重な悪ガキっぽい笑顔が良かった。
「なに考えてんの」
「えっ⁉︎ あ、いや……っ」
「他のこと考えていい、なんて言ってないよ」
唇を尖らせたアカリが、夕哉の太ももをぺち、と叩く。アカリの視線は立派にテントを張る夕哉の中心部に向いていた。
「もうこんなに勃ってる。夕哉さんのおっきいから目立つね」
触れてしまいそうなほど顔を近づけられて、思わず腰を引く。すかさず脚を掴まれて、吐息を吹きかけられた。
「うぅあっ」
生暖かい風が下着越しに夕哉自身を包む。
「パンツの上から自分で触って。扱いちゃダメだよ、触るだけ」
手を伸ばして自身の形を縁取るように指をそわせる。扱くなと言われて、自然と揉み込むような手付きになっていた。
「んぅ……、ふっ、……っ、ぁ」
弄る手の甲を唇でくすぐられる。もどかしさに揺れる腰も、アカリにはバレている。羞恥と気持ち良さで体が火照っている。
でもアカリが「もういい」と言うまではやめられない。そういうセックスだ。
「んっ……、っ、っぅあ、……っ」
「じゃあ、これ、脱いで」
ぐい、とパンツの裾を引っ張られて少しだけずれる。履き口から亀頭がマヌケに顔を出した。
「残りも、全部、脱いで」
シャツを脱ぐ夕哉を視線で犯しながら、形のいい指が膨れた玉袋を挟む。根元を擦って先走りをあふれさせたら、少しだけ脚を開かされた。間に滑り込んできた中指で、会陰を突かれる。
「あっ……! ん、ッ」
「……、しゃがんで」
まだ靴下が残っているのに次の言いつけ。気まぐれに変わるのはいつものことだから、素直の従う。
アカリの、ベルトを外す手が焦っているのか、金属が擦れてカチャカチャと音を上げる。手を貸すほどは時間もかからず、夕哉の眼前には立派に育ちきった御子息があらわになった。
熱気が顔を覆う。どこを嗅いでもイイ香りがするアカリから、ほんの少しだけど青臭さが漂ってきて興奮する。喉が鳴る。
いやらしい体が雄を欲して、無意識に顔を近づけさせた。
「夕哉さん、オナホの用意できる?」
酷い言い方に体が熱くなりながら、大きく口を開く。
頭を掴まれて、砲身が一気に喉奥まで犯した。
「んぉおッ、ごっ、……、んっ、おッ♡」
噛んでしまわないように、でもちゃんと気持ちいいように。窄めた口を出入りする肉棒は、唾腺を刺激されて溢れる涎を巻き込んでじゅぼじゅぼといやらしい音を立てる。
イカ臭さが鼻を突き抜けていく。
アカリが気持ちいいように、アカリの好きなように、文字通りオナホとして扱われている。息苦しさとは裏腹に、下半身は熱を持ったままだった。
「はっ、んっ……! 夕哉さん、出す、よ……!」
ごきゅ、と喉奥を閉めてやる。一瞬、大きく膨らんだ肉棒に、どろりと粘ついたものを注ぎ込まれる。
「おッ、……ッ、う、ぉ、ぉえっ」
張り付く感覚にえずきながら、美味しいソレを飲み込む。喉が動いたのを見たアカリが、夕哉の頭を撫でた。
射精の余韻で、とろりと惚けた瞳で見下ろされる。どんな雑誌にも乗ることのない極上のグラビアに見惚れて、差し出された水に気付かなかった。
「夕哉さん」
「っ、ありがとう……」
喉に残る精液を流し込んで、ついでにうがいもする。用意のいいアカリは、最初からこのつもりで水もコップも、部屋に持ち込んでいたらしい。
「夕哉さんの口、気持ちよかった」
頬を撫でる手に誘われて、今度はアカリの隣に座る。肩を抱かれたままゆっくりと押し倒された。
「脚、開いてて」
みっともなくガニ股に開けば、ヒクつく後孔に空気が触れる。ローションに浸された指に、入り口をくちゅくちゅと音を立てながら掻き回されて、焦らされる。
「んっ、……ふぅ、ンンッんっ、ぁ」
くぱ、と小さく開いた後孔が指先を飲み込んで、そのままずふずぶ侵されていく。
「はっ、んッ、あっ……ふぅうっ、んっ」
「夕哉さん、舌、べって出して」
「……んっ、んっ、んぁっ」
突き出した舌を吸い上げられる。少し息苦しさを感じた瞬間、緩やかなピストンを繰り返していた中指が激しい抽挿へと動きを変えていく。
「ンン! んっ、んんっ、んっんんッ!」
見下ろしてくる瞳から目を離せない。舌を突き上げて、マヌケな顔を晒しているのに見つめるのをやめられない。恥ずかしくて、気持ちよくて、はしたなくされていく。
いつの間にか増えていた指が、腹側の気持ちいいところを押し上げた。瞬間、全身に熱が迸る。ほんの少し触れられただけで目眩がするほどの快感。疼き始めたソコを指から逃すように腰が揺れる。
「んッ、ん〜〜! んっ、あっ、ぁ、んっ、ぅう!」
「逃げないで」
「は、あっ、あっ、うっ、ああっ! 〜〜ッ!」
執拗に気持ちいい一点を追い回されて、ナカがきゅうきゅうにしまっていく。開いた足の先がピンと伸びて、もっと指を感じたいと力が入った。
「ぁああッ! ん、ぅう〜ッ! はあっ! あっ、ああっ、あっ、イく、イくっあっ、ああっ!」
逃しきれなかった快楽が溜まり切って、絶頂は目前。張り詰めた夕哉自身の奥底で溜め込んだ精子たちが早く飛び出したいと疼いている。
それなのに、指はピタリと止まった。気持ちいいところを優しく撫でる。
「ふあっ、あっ、ぁあっ、あっ?」
ぞわぞわと全身を蝕む甘くてもどかしい痺れ。
戸惑っていたら、アカリが美しく微笑んで、あろうことか指を引き抜いた。
「ぁ、なんでぇ……?」
「イキたい?」
あたりまえだ。こんなに気持ちよくされて、あとちょっとだったのに。済んでのところでイけなかった自身も、散々愛でられた後孔も、ずっとその瞬間を待っていたのに。
イかせてもらえなかった体が無意識に動き出す。欲しい。あともう少しだけ触ってくれたらとびきり気持ちよかったのに。
引き抜かれたアカリの手を追って、引き寄せる。
「んっ……、イかせて、ほし……い……!」
恥ずかしいことなのに、蕩けた頭がそうさせるのだ。後孔まで招いて、綺麗な指をまた奥へと誘う。
「夕哉さん、勝手なことしちゃダメ」
力の入らない手から、アカリの指はあっという間にすり抜けていった。
「ごめんなさい、は?」
汚れた手で頬を掴まれる。
冷ややかな視線が夕哉を突き刺した。蔑んだふりをして、夕哉の服従を望んでいる。今はアカリの言いなりになる時間なのに、逆らった。ベッドの上で夕哉に意思などないのに。
「ごめ、なさ……っ」
謝っているはずなのに、声がうわずってしまった。ドキドキと高鳴り出す胸の鼓動、ありきたりなリズムが部屋に響く。
数秒、夕哉を見下ろしたアカリは満足げにキスをしてくれた。許してもらえた。
「夕哉さんは誰のもの?」
「アっ、アカリく、アカリの……っ」
もう視界にアカリしか映らない。くらくらとバカになった頭は、アカリしか認識しない。脳も体もアカリで満たされていく。
アカリが好きだ。
「かわいよ、夕哉さん」
枕とクッションと、掛け布団で山を作る。こういうことをするために買った、少し硬めの大きなクッションが芯になって夕哉の体を受け止めた。
結局イけなかった夕哉自身からは、カウパーが溢れ出している。大きく開いた脚の中心で、ぷるぷると可哀想なほど震えていた。
届いたばかりの尿道パールを丁寧に消毒して、それからローションに浸していく。犯されるまでの短い時間すら耐え難くて腰が揺れた。
「痛かったら言ってね」
「う、んっ」
ぷちゅ、と尿道パールの先端が鈴口を押し拡げる。何度か異物を受け入れたことのある狭い場所は、痛みより快楽の記憶を呼び起こさせた。
「はっ、ぁあッ! あっ、ひっ、あっ、アアッ♡」
夕哉自身の半分ほどまで埋め込まれて、それからゆっくりと引き抜かれていく。ずっと出たがっていた精子たちがブジーを追いかけ始めた。
「ぁああッアッ、アアッ!」
また押し戻されて、もどかしさに足がカクカクと震えだす。
「ほら、顔隠さないで」
「ぅあっ、ひっ、……ッぅふうぅッ! あ! あア!」
「夕哉さん」
パールの一粒が行き来するたびに鈴口がぱくぱくと開閉する。狭い尿道が押し広げられて、パールを締めつけた。じゅぶ、と音を立てながら擦られる感覚にのぼせていく。
じわじわと体を蝕む快感が全身から力を奪っていった。
「ぁああッ、んっ、あっ、きもち、い、ッ……♡ ぁ、ぁ、んぅっ、う♡」
ぴく、と足が少しだけ跳ねる。
「ちょっとイッた?」
「イッ、た……、あ、あぁ、んっ! んん……♡」
でももっとイキたい。さっきから焦らされ続けたおかげで絶頂に飢えていた。
「もっと気持ち良くなろうか」
尿道パールがずぶずぶと埋まってくる。今まで一番深いところ。これ以上、侵されたらおかしくなってしまう。頭の中で、この先を許すなと警報が鳴り響いている。
「あっ、……ふ、ふか、い……、あ、だめ、アカリ♡ あっ、あっ」
気持ちよくて、全身が震える。汗か涙かわからないものが頬を伝った。
埋まっていく尿道パールを見つめていたアカリの目が、長い眉毛の隙間から夕哉を除いた。色っぽく頬を上気させて、熱のこもった吐息を漏らす。アカリの喉仏が動いたのが見えた。
「だめ、って言った? そんなの、俺が決めるんだよ」
一番深い場所を尿道パールの先端が突く。
目の前が真っ白になった。
「ぁッ…………!」
次の瞬間、尿道パールが震え始める。
「〜〜〜〜〜ッァ!?!?」
気持ちいいところ、前立腺を直接揺さぶられて暴力的な快楽を叩きつけられる。腰が重くなって、射精を許さない深い絶頂に飲まれていく。
「……ッぁあ! はっ、……ッ、アア♡ あ、ひ、あ、あ、ぁ、ぁ、ふ、ぅうッ! あっ、アアッ♡」
アカリの手が、夕哉の腰を撫でる。
触れるだけで夕哉をおかしくする掌は媚薬と言っても過言ではなかった。
「ひっ、……ぉぉッ、ひ、あ、ああッ♡ あか、り……! や、ら、ずっとイッて……っ! ふぅうッ♡ ふっ、ぁ、ああっ、アアッアッアッアッ!」
逃げようのない快楽が、夕哉を落としていく。気持ちいい場所を直接震わされるから、目の前が白黒点滅してわからなくなっていった。
腰を振ってもアカリがしっかりと掴んでいるせいでどうしようもない。
「あっ、あっ、あっ、ああっ、こわれるっ、はっあッ、ああッ、あっ♡ ああっ! ああっ♡」
手足を痙攣させながらアカリに訴えても、アカリは意地悪くかっこよく笑うだけ。強すぎる快楽は本来苦痛と遜色無いはずなのに、アカリから与えられていると思うと多幸感にも溺れさせられていく。
息をするために必死にはくはくと開閉する唇を、容赦なくアカリがふさぐ。
「ンン……!! ふ、ッ、……ぅ!」
アカリの腕に抱かれながら、意識がとろけていく。触れるだけのバードキス、真っ赤な舌が滑り込んでくる。上顎を愛でられて、ぞわり、背中が疼いた。
「ふ……ッ♡ ぅ、……ッ! ……ッ!!」
「夕哉さん、苦しい? 気持ちいい? 俺に好き勝手されるの、好き?」
教えて。
口内を貪られながら、前立腺を刺激されながら、痙攣する体じゃロクに思考もできない。それどころか、ゆっくりとまともな意識が遠くなっていく。
「すき……、アカリくん、すきぃ……っ♡」
溢れたうわ言は、自分でも何を言ったか分からない。でも、アカリから綺麗な舌打ちの音が聞こえた。
「……やっぱアカリくんの方が好きなんだ?」
尿道パールの振動が止まる。
息をするまもなく、お腹の中を質量が貫いた。
「…………ッお!?」
太い雄肉棒のカリが腸のヒダをひっかけながらずるりと出て行く。そのまま、またどちゅんッと深い場所に叩き込まれる。
「アッ♡ ひっ♡ ……っ、ぉお! っお! あっ、ああ♡」
ひと突きされるたびに、奥から全身に深い快楽が伝わる。
滲んだ視界で見るアカリは、睨みつけるような、それでいてしっかりと情欲の熱を孕みながら夕哉を見下ろしていた。
あまりの激しさに伸ばした手を絡みとられる。クッションで出来た山に背中を沿わせるように体を押し付けられた。収まりの悪い体制のままひたすらに突き上げられる。みっともなく開いたガニ股の中心で、夕哉自身が揺れるたびに尿道パールの先端が気持ちいいところを抉った。
アカリ自身と、尿道パールと、両側からこねくり回される前立腺が悲鳴を上げている。快楽を叩きつけられるたびにナカが締まるから、余計に絶頂から抜け出せない。
「あう……ッ! ぅん! あっ♡ あっあっあっ! イぐっ! イ、イッて……おぉうっ! ん、あっ、あっあっ、またっ、きちゃ、アカリくんっ♡ アカリ、く、あっあっイくっイくっイくっ♡ ぁ、ぁあ! あ! アア♡」
イキ続けながら、じゅぼじゅぼと摩擦される。体のどこが気持ちいいのか分からなくなるほど快感の海に溺れさせられていた。
「アカリくんは、こんなっ、意地悪じゃ……、っないでしょ……!」
一瞬、ナカでアカリ自身が膨らんだ。ただでさえ大きいのにこれ以上なんて、と思った次の瞬間、入っちゃいけないところを勢いよくぶち抜かれる。
「ッ、〜〜〜〜ぉッ!?」
ずぽッと音を立てて入ってきた亀頭から、びゅるると精液が吐き出される。雄子宮に直接注がれたアカリの欲にすら感じる体が、小さく痙攣して身悶えした。
「ぁ♡ ぁーっ、……っ♡ ぁ、ぁ……っ♡」
「はあ……っ、夕哉さんのこと愛してるのは俺なんだよ……?」
すぐにまた膨らんだアカリ自身は、雄子宮を押し拡げたまま。もっと拡げるようにぐりぐり腰を回される。甘い絶頂が止まらない夕哉を抱きしめて愛でるように掌を這わせるから、触れられた場所からまた溶けていく。
「はっ、アカリくん、おれ、もう……っ、あ、あ、イく……ッ♡ はあ、……ぁ、んっ、あ、あぁん……♡」
「ほらまた言った……!」
遠くでカチリと音がして、また尿道を犯すパールが震え始める。アカリの太い根元に圧迫されている前立腺を尿道パールの先端が直接ぐりゅぐりゅと抉り始めた。
「ぁああああンッ、あっ、あっ、なんれ、アカリく、ああっ! あっ、あっあっあっ、イぐぅ♡ イぐぅううッ♡」
「ねえ今日こそ覚えて、夕哉さんを犯してるのは誰? アカリくんはこんなひどいことしないよ? ねえ、夕哉さん、間違えないで」
アカリの心地いい声が耳から脳を犯してくる。まっしろな頭じゃ言葉の意味も分からないけど、アカリの声は夕哉にとって毒でしかない。
長い舌が耳の中を這う。じゅぷ、じゅぽ、と卑猥な水音が響いてくらくらした。
いつイッたのか分からなくなるほど深くて大きな快感がとめどなく夕哉を襲う。完全に飲み込まれてしまった体は、ナカに埋まったままのアカリを締め付けて気持ちよくすることしか出来ない。
「あー、あー♡ っ、は、ひ、……おっ、ぉお、ふ、……ッぅうん、ぁ、ぁかり、くん……っ♡」
「……夕哉さん、次こそは俺のことだけ考えてね」
アカリの体温が離れていくのが、飛びかけた意識の片隅で分かった。名残惜しいけど手を伸ばす力もない。
「それじゃあ尿道パール取っちゃうね」
夕哉自身から顔を出している輪っかのとってに指がかかる。一個、ゆっくりとパールを抜かれるだけでぶるりと体が震えた。
ようやく外してもらえる。でも、この枷がなくなったら、溜め込んだ欲はどうなってしまうのだろう。ピンク色の頭で、期待のこもった視線で見つめてしまう。
アカリは、夕哉の頬をひと撫ですると、一気に尿道パールを引き抜いた。
「ッんぉ、ぉおおおおおッ!? ……おッ、……ッ! ぉ、ぁ、はひっ、……ぉ、ぉっ♡」
ぶしゅッ、と激しい音を立てて、潮か精液わからないものが噴水みたいに溢れ出す。びゅるびゅると止まらない射精に、みっともなく腰がカクカクと震えた。
「あっあっあっとまんないっ♡ こわれちゃうっ、やだっ♡ やっ、とめてっ、ちんちんおかしくなって……っああ、あっあっあっあっ♡」
目の前がチカチカして、気持ちいい以外分からない。みっともなく腰が揺れるのを止めたいのに体がいうことを効かない。
おかしくされてしまった。アカリに体を壊されていく。
びゅく、びゅく、と最後の一滴まで、体を跳ねさせながら吐き出していく。アカリも夕哉も、アカリの精液でびちょびちょになっていた。
「あっ……♡ あ♡ ……ッ、は、あっ♡ ……ッ♡」
「可愛かったよ、夕哉さん。ナカも気持ちいい」
バードキスのくすぐったさを甘受しながら、頑張ってアカリの手を握る。自分も、気持ちよかったと伝えたいのに口が上手に動かない。
「あ、……んっ、お、れ……っ」
「ん?」
優しく聞き返すアカリが髪をすいてくれる。そのうちようやく呼吸が整った。まだ、変に動けば埋まったままのアカリの肉棒で壊れてしまいそうだけれど。
「おれ、も、きもちよかった……♡」
「よかった」
「アカリくんっ♡ ……っ、すき……♡」
「………………」
ぐぽん、と音を立てて、鬼頭が雄子宮から出ていった。そのままずるずると引き抜かれていく。
「? ……っぁあ、あ、ああっ? あっ、えっ、あっ」
痛いほどしっかりと腰を掴まれる。瞬間、勢いよく雄子宮の奥までぶち抜かれた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?♡」
ぐぽっぐぽっと熱い竿で腸壁を摩擦しながら鬼頭が結腸をいじめる。開かれるたびに絶頂が夕哉を襲った。拡がりきった後孔もアカリを必死に締め付ける。最奥を貫かれるたびに、びゅる、と透明な精液を撒き散らした。
「だめえッ♡ あっ、あっあっ♡ イぐっ♡ でちゃうのとまんないぃいッ♡ おっ、〜〜ッ! はひっ、おッ……♡ ……ッ♡ おく、だめ、だめ、アカリくんっ、アカリくんッ♡」
「夕哉さんがっ、悪いんだよッ……! ねえっ、気持ちよくしてるのは誰っ? 夕哉さんの夫は誰っ!?」
「だめっだめっ、あっやら、あっ、あっあっあっ♡ アカリくんッ♡ おれっ、も、あっあっあっ♡ イってうっ、イったぁっ、アカリくんっ、アカリくん……ッ♡♡」
「もぉ〜〜〜!!」
肌と肌が激しくぶつかり合う音が部屋に響く。二度目の絶頂を迎えたアカリの白濁を注がれながら、アカリの思うがままに口内を犯された。
アカリのキスは乱暴で、夕哉をダメにしていく。一方的に貪られながら、多幸感に溺れた。気付けばアカリ自身は引き抜かれていて、キスと愛撫を繰り返されながら、そのうち意識を手放していた。
✳︎
夕哉が気絶したように眠っている間……というか気絶している間に、アカリが用意してくれた風呂で体を清めて、いまはリビングでぼうっとくつろいでいた。
先に夕哉の体を綺麗にしたアカリは、送れて自分の体を洗っている。さすがアイドルというべきか、お風呂もコンディションを整えるツールの一環らしく、結構長風呂になる。
まだ快楽が体に残っているような違和感が続いていたのだが、それもようやく収まってきた。コーヒーを用意して、アカリがいない間に買ってきた雑誌を開いた。
(アカリくんが……まぶしい……!)
黒いシャツの隙間から覗く鎖骨。目にかかる前髪からこちらを射止める瞳。長い御御足がソファから余って持て余している。
めくるたびにアカリに魅せられる。心臓がバクバクしてたまらない。やっぱり、アカリにとってアイドルは天職なのだ。
(ダウナー系なのは見た目だけって云うのがまた最高なんだよな)
夕哉の夫であるアカリは、少しわがままで子どもっぽくて、でも愛情表現が上手な子だと思う。愛しさに負けてつい甘やかしたくなってしまう。
対してアイドルのアカリは、どこまでも夢を見させてくれるような存在だ。歌とダンスと美貌でこちらを魅せてくれる。よそ見できないほど夢中にさせてくれる。
「……雑誌、買ってくれたんだ?」
いつの間にか風呂から上がっていたらしく、後ろから顔を覗かせてくる。髪から水滴が滴っているのに気付いて、慌てて雑誌を非難させた。
俺のアカリくんがよれてしまう。
「コンビニに寄ったらたまたまな、たまたま、見かけたから!」
「へえー?」
お高いシャンプーを使っているアカリから甘ったるい香りが漂ってくる。一度夕哉もお高いシャンプーを借りたことがあるのだが、髪がサラサラになりすぎて逆になんか気持ち悪かったので、御用達の格安シャンプーに戻した。
「頑張ってるなぁ、と思って」
「……『Re:starts!』の俺と、プライベートの俺、どっちが好き?」
「違いなんかないだろ。どっちもアカリだ。頑張ってるアカリが好きだし、頑張れない日のアカリも好きだよ。俺のことが好きなアカリも、ファンのことを大切にしているアカリも、俺の好きなアカリだ」
アカリはアカリだ。
区別をつけているのはあくまで自分のためだ。家で『ファンとしての夕哉』が顔を出せば、アカリにプライベートがなくなってしまう。
そういうことにはしたくない。
だからファンの自分を隠して、アイドルではないアカリで居てもらうために、呼び捨てにしているのだ。どっちも大好きなアカリには変わらないのだけど、これは夕哉なりのケジメである。
「……ほんとかなぁ」
「疑ってるのか」
「……べつにぃ」
グッと顔が近づいてくる。ご尊顔が、眩しくて浄化されそう。
耐えられなくて顔を逸らせば、唇で頬をくすぐられる。
「明日は一日えっちシようね、夕哉さん」
「どうかお手柔らかに……」
体力があってよかったと、アカリと一緒に休日を迎えるたびに思った。
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