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3.一目見ただけで

 さっきまで多くの友達と居たのに。  全然違う、この、心臓の動き。  嬉しくて、速い。  ――――……ほんま、もうこれ。  距離置くとか……そんなの、悪あがきすぎて、笑えてくる。  連絡減らしたって、距離置いたって、何の意味もない。  遠距離を良い事に、少しだけ遠くなっても。  一目見ただけで、こんなに強く、惹かれてしまうって。  ため息を付いてしまいそうになりながら、葵を玄関まで引っ張ってきた。 「おかん!」 「おかえり――――…………って。葵くん?」  おかんを呼ぶと、玄関まで出てきて、葵を見て、驚いてる。 「久しぶりやねえ、大阪来てたん?」  おかんの声と、それに答えている葵の言葉を聞きながら、自分の部屋に直行。バイクのキーとヘルメットふたつ、上着も持って、玄関に戻った。 「大和?」 「ちょお出てくる。 飯いらん、帰り遅うなると思う」 「どこ行くん?」 「葵と花見してくる。遅うなるかも。寝ててええよ」  言いながら、靴ひもを結び終え、オレは立ち上がった。 「気ぃつけてな? あ、葵くん、泊まるとこ決まってなかったら、うち来てええよ。お正月、大和が押し掛けた時はほんまありがとね?」  おかんの声に、葵が笑顔で頷いている。    バイクを停めてある車庫に行き、葵にヘルメットを渡して、自分もヘルメットを被った。 「バイク寒いからこれ着て」  言って上着を渡すと、葵は「ありがと」と笑って袖を通した。  それから、オレの後ろに跨る。 「どこ連れてってくれる?」 「内緒や。……ちゅうか言うても分からへんやろ?」 「……まあ、そうだけど」  穏やかに笑う気配。 「――――……二十分位で着くから」 「ん」 「そこ、あんま人居らんで綺麗やから――――……楽しみにしとって?」  振り返って、そう言うと、葵は嬉しそうに笑って頷いた。  葵の腕が自分に回った事を確認して。ちゃんと捕まっとけや、と声を掛けてバイクで走り出す。  ――――……どないしたんやろか……。  連絡もせえへんで突然訪ねてきて、桜が見たいなんて。  何やあったんとしか思えへんのやけど……。  混んでる道から裏通りに入って。少し奥まった所にある、静かな公園。  葵を降ろしてからバイクを停めた。  公園の内回りにぐるっと、桜が植えられている。 「わ、すげ――――……。 ほんとに花見の人、居ないね。なんで?」  数人が桜を見ている程度で、すごく静かなのを見回して、葵が笑う。   「昼間は子供らがいっぱい居んねんけど……近くの川沿いで桜祭りやってるから、皆そっち行くみたいやで。静かでええやろ」 「――――……うん」  葵が、一番大きな桜の樹の下に歩いて行って、見上げる。 「この樹、すごい」 「せやろ」 「うん。今日、月も綺麗だな……」  葵が静かに呟いて、桜を見上げている。

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