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9.一緒に。

 あの後、電話したらおかんがまだ起きてたので、夕飯を用意してもらって、葵を家に連れて帰った。ご飯を食べてから、順番に風呂に入って。オレの部屋に、ひとつ布団持ち込んでベッドと並べた。  普通にご飯とか食べながら、でも心の中は、ふわふわして全然落ち着かない。  全部終えて、部屋に二人で入って。  普段はほとんどかけない、部屋の鍵をかけて。かけた所で立ち止まったまま。 「――――……」  いや、別に変なことしようと思うてる訳やない。おかんが入ってきたら嫌やし……って、決してやましいことしようとしてる訳やないけど……と、自分に言い訳をしていると。 「大和、何してんの?」  笑いを含んだ声で問われて、振り返る。 「――――……鍵……しめとく?」 「え」  固まった葵が、かっと赤くなった。  その顔を見て、うわ、と思って。 「あ、あけとくわ。オレ、別に、変なことしようとした訳やなくて」 「……しめて」 「え?」  今なんて?と、振り返ったら、葵は、布団の上で座ったまま、オレをじっと見上げる。 「閉めて、こっち来てよ」 「――――……」 「別に……変なこと、しようとしてる訳じゃ、ないよ……」  ちょっと恥ずかしそうに、オレが言った言葉を引き継いで、葵が言う。 「――――……ん」  頷いて、ドアから離れて、葵に近付く。  でも、布団の上、葵の隣に座らず、自分のベッドの上に腰かけた。 「……何で離れんの」 「んー――――……無理」 「え?……無理って??」  葵が下から見上げてくる。  ……ていうか。  パジャマ着て、布団の上で、この角度で見上げられるって。  ……めちゃくちゃ好きだと、思い切り確信したばかりなのに。  どないしよう、この状況。 「……オレそっち座ったら……触ってまいそう」 「さわ……っ……もー、大和……」  また赤くなった葵が、もう可愛くてしょうがない。  オレは、赤くはならないみたいだけど。  ――――……心臓、ドキドキして死にそうな気すらする位。 「……触るって……どんなの?」 「――――……分からんけど」 「…………ていうかさ」 「――――……」  大和は、膝立ちすると、そのまま移動してきて。オレの膝に触れて、真下に来た。 「……別に、触ってもいいのに」 「――――……ええの?」 「……好きだって、言ったじゃん……?」  綺麗な瞳。  ちょっと心細そうに、眉が寄る。   「葵」  ベットから降りて、葵の目の前に座って、肩に手をかける。 「オレな、ちゃんとはっきり認めたのはさっきやけど……ずっとお前の事好きやて思うてた」 「――――……」 「ずっとお前の事、頭にあって。ずっと――――……」  何て言ったらちゃんと伝わるだろうと、思いながら、少し言葉に詰まったら。オレをじっと見つめていた葵が。ふ、と笑んで。 「……大和が、好き」  ものすごくゆっくりと。  葵が言って、オレを見つめる。 「――――……葵」 「……ん?」 「オレと、付き合うて」 「――――……」 「……えっと――――……あれや、あれ」  すごく驚いた顔でじっと見られて、かなり焦る。 「……あの――――……『結婚を前提に』ってやつが良い」  ますます、目をぱちくりされて。  えーと、何や違う。いや違くはない……と困って後頭部を搔いた時。 「大和――――……あの……」 「ん?」 「……ほんとに、いいの? オレで」 「……いい、に決まってるやろ? 何で聞くん?」 「男、だし……」  少し視線を落とした葵に、 なんだかたまらなくなって。  ぎゅ、と抱き締めた。 「オレな、女と付き合うても、結局お前と居たくて別れてたんよ」 「――――……そう、なの?」 「……うん。そう。……おかしいんかなて、思うてたけど……」 「――――……」 「ずっと、ほんまに好きやったんやって、今は分かる」  ふ、と葵が少しだけ笑う気配。  少し腕を離して、顔を見ると。 「オレも同じ……結局、大和と居る方が好きだったから――――……」 「……同じか」 「……うん。そうだね……」  心細そうな顔が、少し、嬉しそうな笑顔に変わる。  それを見ていると、こっちまで嬉しくなって。   「オレ、葵の笑った顔が、いっちゃん好き」 「――――……」 「……受験とか、大学とか、全然決まってへんし。その後の事とかもまだまだ、分からんけど」 「――――……」 「……――――……どうなっても、一緒に居よ?」 「……どうなってもって?」  じっと見上げてくる。 「遠距離でも、ずっと一緒やし。……でもなるべく一緒に居られる方法考えよ? ……まあ、ぱっと浮かぶんは、大学一緒がええなっていう……オレ、東京の大学でもええし。そしたら、二人で暮らせばええし」 「……オレが大阪でもいいよ? 勉強なんか、どこでも出来るしさ」 「はは。……相変わらずそーいうとこ、カッコええな?」  葵の頬、摘まんでしまう。からかうなよ、と笑う葵。 「オレ、ほんま、ずっとお前がいっちゃん好きやった」 「――――……」  オレを見上げて、じっと見つめて。 「うん。……オレも。おんなじ――――……」  じいっとオレを見つめてる葵の瞳が、突然潤んで。びっくりしたオレは。  それが零れる前に、抱き締めた。 「――――……葵」  ぎゅー、と抱き締めてると。  少し笑う気配。 「……大和」  そろそろと、背中に手が回って。  きゅ、と服を握られる。    そのまましばらく無言で、ぎゅ、とくっついてた。

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