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最終話 本当の気持ちを君に
卒業式の後のことを考えたら、式はあっという間に終わったように感じた。
教室へ向かうクラスメイトの流れに逆らって、燎の姿を探す。
渡り廊下に来たところで、中庭にいる燎をようやく見つけた。
桜の木の下に立ち、何を考えているのか分からない顔つきで、静かに桜を見上げている。その横顔に束の間見入ってしまっていると、先に燎がこちらに気が付いてくれた。
「あ……大晴……」
「……うん」
今日はお互い、避けないで話ができそうだ。
少しぎこちない空気はありながらも、俺が歩み寄ると、燎は僅かに笑みを浮かべて見せた。
「綺麗なもんだなあ」
「そうだね」
一緒に桜を見上げて、何でもないその言葉を交わすこの時間さえ、酷く愛おしい。
「ねえ、燎……」
「うん?」
燎が、呼びかけに応えて顔をこちらに向ける。その途端、猛烈にキスがしたい衝動を抑えるのに苦労した。
「今まで、いろいろとありがとう」
「……何かしたっけ、俺」
照れたように笑う燎は、何のことか分かっていて分からないふりをしているに違いない。
「いろいろだよ。俺、お前にいっぱい救われたから。それと、ごめん。俺、お前に嘘ついた。本当はお前が好きなのに、自分が傷つかないために必死で……」
「え、好き?」
燎の目が見開かれ、俺の顔を凝視する。驚きの色はあっても、苛立ちやら、怒りやらはそこから感じられない。
それどころか、どこか嬉しそうな……。
「うん。燎が好きなんだ。でもほら、俺は梶原先輩でいろいろあったからさ。お前はもう知ってるんだろうけ……っん!?」
話している最中だというのに、燎はいきなり唇を奪ってきた。
「ちょ、まだ……ん、途中……っ」
「話は後ででもゆっくりできるだろ?」
「ここ……人がっ……んぅ……」
俺が何度止めさせようとしても、燎はキスの雨を降らせ続けて、いつまでも止めなかった。
「りょ、燎……っ」
「俺も、今でも大晴が好きだ。なんたってずっと好きだったんだからな」
「ずっと?でもお前、谷村と付き合っているとか噂が」
「ああ、あいつは俺の弟の彼女で、一回送ってやっただけ」
「え、そう、なの?」
「そうそう。それよか、俺がいつからお前が好きか聞いてくれ」
そうして始まった燎の俺がどれだけ好きかという話は、全身が羞恥で赤くなっても続き、目眩がするほどの幸福感をもたらした。
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