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あなたに出会えた俺 1

長い長い夢を見た気がする。 例えば、留置所で化け物と言われなかったら。 例えば、あの時路地裏で殴られなかったら。 例えば、自分が女を殴れていたら。 例えば、少女を助けることができたら。 例えば、馬に嫌われていたら。 例えば、別の雇い主に買われていたら。 例えば、孤児院で優秀でいられたら。 例えば、両親の顔を覚えていたら。 例えば、両親が生きていて 例えば、自分がただの人間で 普通に暮らせていたなら。 自分を守った結果がこの地点であるのならば それが良いのか悪いのか 間違っていたのか正しかったのか それを分る術は持たない。 きっとずっと重たい記憶を持ち続けるようにと 夢の中まで追いかけ回されて 忘れようとした罪を何度も責め立てられて 苦しんで飛び起きるに違いない。 だけれど一つだけハッキリと言えることがある。 心を引きずる重たい歴史の そのどれもが、一つでも存在していなければ 今ここに自分はいない。 彼が目の前にいる世界には。 彼の逞しい腕に喉を絞められながら、ツツジは小さく笑った。 ああ、なんて自分は世界に愛されているのだろう。 そんな資格などないはずなのに どうしてここに居られるんだろう。 誰が自分を許してくれているんだろう。 許されるわけないのに、どうして? 叶わない望みなど抱いてはいけないとずっと思っていた。 叶えられていいはずがない、とも。 それなのに、 許されなくてもいいとか 叶わなくてもいいとか そんなわがままな事は 考えたこともなかった。 彼の姿が滲んでぼやけて、暖かい涙が溢れ出る。 柔らかくて暖かい風が部屋の中を泳ぎ始める。 そよそよと、ボサボサになった彼の黒髪に触れて揺らし 無邪気に戯れているようだった。 ねえ、そうだね、確かにそうだ。 許されなくてもいい 最低の下衆野郎で、卑怯者でいい 怒るのであれば今すぐ俺を八つ裂きにしてくれても構わない 罪を重ねた上にこの人との時間があるのであれば どんな化け物にでも喜んでなるよ。 嫌われてもいい。 憎まれても構わない。 俺の存在は今この瞬間のためにあるのだろうから。 世界一嫌いな俺 この人に会わせてくれてありがとう。

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