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みーちゃんにドキドキするなんて

 付き合って下さいと申し込まれ、よろしくと返してしまったその日の仕事あがり。  同じ時間にあがれた俺とみーちゃんは一緒に帰ってた。  一緒にっていうか、みーちゃんの愛車に乗せてもらってる状態なんだけどね。  ただこのまま送ってもらうだけってのも去りがたい。久しぶりに会えた幼なじみで、付き合うことになったんだから。  運転席でハンドルを握るみーちゃんは、いつもと同じもさ男スタイルなんだけど、あのもやっぽい前髪の下には、俺の好きなあの綺麗な瞳があると考えると、もさ男スタイルなのにかっこよく見えてドキドキとして話しかけづらかった。  きっとみーちゃんは小児科医になるために勉強勉強の毎日だったんだ。喘息で学校に行けない間に少し遅れただろう勉強をするのに一生懸命で忙しくて、そんなに身なりを気にしない風になってしまったんだ。ならきっと、恋愛も初めてなんだろうな…。俺が小児科医になってたら交際を申し込むつもりだった、みたいな事言ってたから、俺一筋で生きてきてくれたんだ。  ちょっと感動する反面、俺はみーちゃんの事だけすっかり忘れてたし、その上高校の担任にヤられてから、所謂ビッチって呼ばれてもおかしくない生活をしていた。  釣り合うかな?自分がしてきたことはもう消せないけど、誠実なみーちゃんと、不誠実な俺。これから真摯に向き合っていけば問題ないだろうか。 「たくちゃん。あんまりずっと見られてると緊張するんだけど。どうしたの?」 やばい、ずっとみーちゃんの横顔ガン見してたみたいだ。 「あっ、そう、あのさ、みーちゃん、俺の行きつけの美容院がここから10分くらいなんだけどカットしてもらわない?担当さん、手早くやってくれるからさ、その前髪、目に悪そうだから切ってもらおうよ」 「たくちゃんの行きつけのお店?」 「そう。どうかな?」 「行きつけとか教えてくれるの嬉しいな。じゃぁ、お願いしようかな…」  早速、電話帳から美容院の番号を出し、かけてみる。俺が高校の時から通ってるから、ほんと昔馴染みって感じなんだ。  ちょうど店長さんと気が合ったってのもあるし、わざわざ新しいとこ探す理由もないしでずっと定期的に通ってるお店。おまけに、俺が小児科医で忙しいって分かってくれて、手早く切るよう心がけてくれてる。 「じゃぁ、10分くらいで着きます。はい、よろしくお願いしますね。 みーちゃん、ちょうど予約の人が遅れるって電話あったらしいんだ。だから今からすぐ来られるんなら、ササッとカットしてくれるって」 「そうなんだ。タイミング良かったんだね。じゃぁ、たくちゃん道案内よろしくね」  助手席で、お店までの道を案内してたら、さっきまでの緊張はなくなった。

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