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たくみ先生の診察室
今日も小児科外来は忙しい。
午前の患者さんが多くて、お昼の時間を過ぎても診察が終わらないなんてよくあることだ。
今の時期アデノウィルスとかで熱出してる子もいるし、喘息の子も結構来るからなぁ。
そんな中来た今日最後の患者さん。橋本明良くん。カルテを見る限り、小さい頃はよく来ていたけど、大きくなってからはそんなに通わなくても大丈夫になってきている。予防接種は毎回うちで受けてるようだ。
小児科にかかるにはギリギリな年の中学3年の男の子。小さい頃からこの病院がかかりつけで、俺ともすっかり顔見知りだ。
看護師の話では、「たくみ先生と話したいから最後にしてください」って言ってたみたいで、わざわざ最後まで待っててくれたんだって。
「おまたせ。どうしたの?待つの長かったでしょ」
「あの、診察じゃなくて、たくみ先生に相談したくて…でも、その、迷惑かもしれない…」
「俺に話したくてこんなに長い時間待ってたんでしょ?迷惑なんかじゃないから、ゆっくり話してごらん」
「じゃぁ聞くけどさ、翠先生ってさ、たくみ先生の事好きなの全然隠してないけど、たくみ先生としてはその状態恥ずかしくないの?」
「うん?恥ずかしかったら、とっくに別れてるな~。えっ、それ気にしてくれてたの?」
「そういうわけじゃなくて………僕も……学校で気になる奴がいて……女の子じゃなくて、その、同性でさ……こんなこと話せる友達いなくて……そしたら、たくみ先生と翠先生の事思い出して…少しでも話して気持ちが軽くなればいいなって……思って」
なるほどな。そういうことだったんだ。
思春期真っ只中の子が、すごい勇気出して来たんだろうな。どうしたら楽にしてあげられるんだろう。
他人事じゃなく思えるし、何か力になってあげたいな。
その時いつものバタバタと騒がしい翠の足音がした。
「たくみせんせーーい!」
「翠先生、まだ患者さんいるから待ってて」
俺が早めに声をかけたから、診察室までは入らず、入る手前で立ち止まった翠。裏は扉なしで繋がってるから、そこに立ったら話の内容丸聞こえなんだよね。でも翠そこから動く気ないでしょ。まっ、いっか。
改めて明良くんの方に向き直る。
「翠先生はこんな感じだから、俺に話したかったんだね」
「そう、です。可愛い女子だって、そこそこいるのは分かってるのに、そいつばっかり気になっちゃって。話すとドキドキして嬉しくなるし、気がつくと目で追ってる。僕おかしくなったのかと思ったんだけど、先生達の事思い出して…」
「うん、そうだね。俺らはかなりオープンにしてるっていうか、翠先生があんな感じだからね。でもね、俺はそれを恥ずかしいって思った事はないし、むしろ素直に好きって表現してくれる翠先生に感謝すらしてるんだ。性別関係なく、ずっと好きでいてくれて、毎日一緒なのに、あんな嬉しそうに会いに来てくれるってスゴい事だと思わない?」
「うん、思う…」
「じゃぁさ、自分の気持ちを否定する事はしないであげて?今だけの気持ちがずっと変わらないかなんて、そんな未来のことは分からないけどさ、今その子と話すと嬉しいってのは事実なんだからさ」
「うん……」
「とりあえずさ、まだ思春期で難しい年頃だから、うっかり伝えるのだけは避けた方がいいよ。相手も戸惑って、思ってもいない酷い事言っちゃう可能性高いから。もしさ、こういう事話して嬉しかったとか、人に話したくなったら、いつでもおいでよ。ただし診察時間外でね。友達として話聞くよ」
「たくみ先生…優しい…ありがとう。将来、先生みたいな人好きになれるといいな」
「ほら、明良くん、泣かない泣かない。話すまで緊張してたんだよね。分かるよ。俺も、そんな時があったから…」
「うん、うん、ありがとう」
「泣き止むまでいていいからね」
「たくちゃん~~~~」
「うわっ、翠どうした?」
「たくちゃんをぉぉ好きで良かっだよぉぉぉ」
「お前まで泣くなって」
「翠先生、良かったね、たくみ先生みたいな素敵な恋人がいて。僕、邪魔しちゃ悪いから帰るね」
「おぅ。お前もがんばれよ~~」
相談というか、話を聞いてたのは俺だったのに、なぜかグータッチする2人。急な意気投合?
「お昼行こう、たくちゃん」
涙でぐしゃぐしゃな顔で満面の笑みを浮かべる翠。ぐしゃぐしゃになろうとカッコいい顔してるんだよな~、ちょっとズルい、とかたまに思う。
「うん、行こう翠」
「ご飯ささっと食べて、仮眠室行こうね。早くたくちゃんを抱きしめたい気分」
「そんなのいつもでしょ?」
「それもそうだけどさ。さっきの話聞いて益々愛しさ増したっていうかね、毎日毎日、どんだけたくちゃんの事好きになるんだろうなって思うよ」
「翠」
仮眠室以外では、翠先生で通してるたくちゃんが二人きりの時の呼び方してきたと思ったら、そのまま抱きしめてくれた。
俺よりちょっと小さい背で頑張って俺を包み込むように。
「診察室でこんな事、今日だけ特別だからね?」
「うん」
「少しだよ?そしたら、お昼行こ。お腹すいちゃったね」
「うん」
尻尾振ってる幻覚が見えるんじゃないかってくらいの嬉しそうな声と笑顔。
まったく、翠の素直さには敵わないよ。
FIN
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