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第28話働くこと
ジュリは訓練が終わる少し前に、出来上がったばかりのスープとスープ皿を食堂の前方にセッティングし、着ているエプロンの裾を握りしめながらその時が来るのを手のひらに汗をかきながら待った。
ー-初めてだけどレベッカさんには合格もらえたし、食べてもらえたらいいな。
そう思っていると、午前の訓練が終わった騎士団員が続々と食堂に入ってきた。
その中にもちろんショウの姿も。
汗をタオルで拭いながら入ってきたショウと目が合うとすぐにショウはジュリのそばまでやってきた。
「どうだった初仕事?」
「ま、まぁ大丈夫だよ。今日はこのスープとカツサンド揚げるの手伝った……。それより!訓練、見てたから……。ちゃんと汗吹いて水分とりなよ!」
「おっ楽しみだ!・・・・・・見ててくれたんだな、ありがとう」
頭をポンポンと優しく撫でるとショウは食堂のテーブルに向かった。
ジュリはその後姿を見送ると照れた顔を隠すようにグルグルとスープをお玉でかき回した。
ー---
「うまい!これあんたが作ったのか!?」
「本当だ、おいしいな……」
「レベッカさん、いい人来てくれて良かったですね!」
「ジュリちゃん!サンドとスープおかわりある?」
「あっ、はい!あります!」
さっきまでの静けさはどこへ行ったのか。食堂に騎士団員総勢四十名ほどが入るとそこはいっきに戦場と化した。
お茶を入れたポットは一瞬で空になり、スープもあれだけ作ったのに、お代わり行列ができてすぐになくなった。
ジュリは注文を聞きながら厨房と食堂を行ったり来たりと走り回った。
ジュリの中で働く=体を売る、ことしか出来ないと思っていたからか自分の作った物に喜んでくれたり感謝してくれる人がいる事に感動を覚えていた。
ー-走り回って汗かいて疲れるけど、こんな充足感初めてだ……。騎士団の人も全然怖くなかったし、働くのって楽しいな。
初日はあっという間に時間が過ぎた。昼食が終わると大量の皿洗い、そして最後に夕食の仕込み……と気が付けば既に夕方になっていた。
「レベッカさん、今日はありがとうございました。あの、レベッカさん凄いです!毎日一人であの量こなしていたなんて……」
「こちらこそ、明日からもよろしくね!まぁ、慣れよ!前はね、もう一人いてくれたけど、あんな事があったら辞めたくなるのは当然よ。……さぁ、いくら王宮が近いと言ってももう暗いからね。気を付けて帰りなさい」
「はい!・・・・・・あっ最後に、一つお願いがあるんです……」
そう言うとジュリはレベッカの耳元に近づき、こそこそと誰にも聞こえないように小声で話し出した。
その内容を聞いたレベッカは、にやにやと手で口を押えながら笑った。
「なぁんだ、勇者様から友達だって聞いてたけど……。そういうことね」
「ちょ、誰にも言わないでくださいよ!」
「わかってるわよ、ほら早く帰んなさい」
最後までニタニタと笑い続けるレベッカにもう!と文句を一つ言うと屋敷に向かって歩き出した。
空を見上げるとちょうど日が落ち始める時間で空は夕焼けの赤と夜の黒が混じり合っている色をしていた。
今まで夜が来るのが憂鬱だった。
それが、今では夜が来て朝が来るのが待ち遠しくなった。
「早く、ショウに会いたいな……」
ジュリはエプロンが入っている鞄をぎゅっと握りしめるとショウが待つ部屋に向かって走り出した。
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