30 / 85

第30話感謝の気持ち

「ジュリ、どうしたんだ?体調が良くないのか?」 「あっ、いや大丈夫。……あっこの、緑色のスープ美味しいね!」 ショウの部屋に並べられた料理。昨夜と同じくその豪華な料理は机に入りきらないほどの量だ。 ショウは初めて寮母の仕事をしてきたジュリを労わるためにスイーツを多めに出したのだが、ジュリのフォークはなかなか進まない。先ほどのレミウスの言葉が堪えているのだろう、どことなく顔色も悪いままだ。 「無理しなくていい。疲れているんだろう?もう休んだ方がいいな」 ジュリは、メイドを呼ぼうと立ち上がったショウの服の裾を慌てて引っ張った。 「無理してない!ちょっと疲れたけど……でもここでショウと話ししてる方がホッとするし、まだ話したいことあるるんだ。……だから、まだいていい?」 「っ……!もちろん!そう言ってくれると嬉しい。大丈夫、ゆっくり話そう」 そう言ってジュリを見つめる瞳は優しく温かい。 その瞳を見つめ返したジュリは、自分の心も熱くなるのを感じた。 ー-大丈夫。感謝の気持ちを伝えるだけなら何も問題はないんだから。 「あ、あのさ。ショウには感謝してるんだ。僕の過去も全部聞いたのに、それでも変わらないでいてくれて……。自分にはオメガの体しか取り柄がないって思ってたからそういう行為なしでも好きって言ってくれたことも本当は嬉しいんだ」 「ジュリッ、それなら・・・・・・!」 「言わないで。……今日ここに来る前にレミウスさんと話して、やっぱり僕はショウの将来の相手にはなれないってわかった。それと、ショウがそういう行為を出来るまでのサポート役だってはっきり釘も刺されちゃった。でもさ、感謝の気持ちは伝えたいんだ……。一か月後に僕のヒートの周期が来るんだけど、ヒートきちゃったら部屋に籠らないといけないから、その前に良かったら僕が作った料理食べてくれないかなぁ……?」 ジュリは言っているうちに恥ずかしくなったのか、ソファの上で膝を立てるとそこに頬を押し当てるように体を丸めた。 今日の仕事が終わった後、レベッカにお願いした事・・・・・・。それは、『ショウの為に料理を作りたいから教えてほしい』という内容だった。レベッカに教えてもらいながら作った料理は思ったよりも楽しく、それを美味しそうに食べてくれる人を見ていると知らず知らずのうちにジュリの心も満たされていたのだ。 ー-今はまだへたっぴだけど、料理が上達したらショウに食べてもらいたい……。 ぎゅっと目を瞑り、ショウの言葉を待っていると温かい腕がジュリの体を包み込んだ。 「ありがとう。ジュリが俺だけの為に作ってくれるなんて、俺は幸せ者だ。……ジュリごめん。君を傷つけてしまったんだな。王宮の人たちの事は俺に任せて、信じてくれ。誰に何を言われようが俺はジュリを諦めるつもりはないんだから」 ショウの温かい体温と心地よい香りに思わず涙が出そうになったが、それをぐっと堪えるとメイドが皿を取り下げに来るまでショウの体にそっと身を預けた。 ー--- 「じゃあ、僕行ってくるね。ショウも訓練頑張って!」 「あぁ、ジュリも無理するなよ。いつもより顔が赤い……。今日も遅くなるのか?」 「大丈夫だよ!・・・・・・いつもよりかは遅くなるかも、でも寝る前に会いに行くね」 あれから三週間がたった。 ジュリはあの日から朝食をショウと食べてからレベッカの仕事を手伝いに行くのが日課になっていた。 昼食作りを手伝い、片付け、夕食の仕込みが終わった後、レベッカ先生の料理レッスンが始まるのだ。 「そうそう、だいぶ手際が良くなってきたわね。味付けも完璧!」 「そう、ですか…?」 「そうよ!これなら勇者様も喜んでくれるんじゃない~?」 出来立ての煮込みハンバーグを前にレベッカはニヤニヤと笑いながら指先でジュリの背中を突いた。 きっとレベッカにはジュリの気持ちもショウの気持ちもお見通しなのだろう。 それを分かった上でいつも揶揄ってくるのだ。 「もう!これは感謝の気持ちなんですよ」 そう言いながら煮込みハンバーグを、タッパーに詰める。 手作りのデミグラスソースのいい香りが鼻腔を刺激すると、思わずジュリのお腹がグルグルグル……と鳴った。 「お腹減っちゃったわよね、それもう渡すの?」 「いいえ、これは自分で食べます。もうすぐここに騎士団の人が帰ってきちゃうし、部屋で食べます」 「そう……なら気を付けて帰んなさいね」 レベッカはジュリが詰めたタッパーを大きめのランチクロスで優しく包みそれをジュリに手渡した。 「はいっじゃあまた明日!」 ジュリは笑顔でそれを受け取ると手を振りながら駆け足で帰っていった。

ともだちにシェアしよう!