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第53話住む場所、働く場所

「おっ、いたいた。ジュリはここで待ってて」 内装はワインレッドを基調としたレトロで可愛らしい雰囲気の店で若い女性やカップル、家族連れで賑わっている。 クリスの視線の先・・・・・・ホールの中央、細身の体に白のエプロンを着け白髪交じりの長い髪を後ろに纏めている女性がトレイを持って接客している。 クリスは女性が接客から帰ってくるとすぐさま手を上げながら声をかけにいった。 ー-なんだかレベッカさんに雰囲気が似てる人だなぁ……。雇ってもらえるように頑張らなくちゃ。 背筋をピンと伸ばし話している二人を見つめるジュリ。 しばらくすると話し終えた二人がジュリの方をちらりと見ると女性はクリスにトレイを渡しジュリに向かってずんずん向かってきた。 そのまま近づくと女性は拳を手に当てながらジュリに尋ねた。 「あんたが、ここで働きたいっていう子かい?」 「は、はい!ジュリって言います。クリスさんから紹介してもらって……」 勢いよく答えると女性はジュリの体を値踏みするように下から上までジロジロと見てきた。 ジュリはその視線に不安になり、つい首に巻かれているチョーカーを触ってしまう。 「じゃあジュリ、面接をするから着いておいで」 女性はジュリの肩にポンと手を置くと厨房に向かって歩き出した。 ジュリも慌ててそのあとを追う。 厨房の奥には階段があり、それを上がっていくと廊下があり左右にはそれぞれ二つずつ部屋があった。 「ここは、住み込みで働く従業員の部屋。トイレと風呂は共同だけど今は誰も使ってないから貸し切り状態だけどね。それと・・・・・・あの奥が私の書斎だよ」 指差したのは廊下の突き当りの部屋。金のドアノブのその部屋は女性の仕事部屋のようだ。 「普段は下で働いてるからここに来るのは開店する前と閉店してからだけど、ここで面接するよ。ほら入って入って!」 押し込まれるように入ったその部屋は、窓辺に書斎机が一つ、部屋の中央にローテーブルとソファ、そして壁にある本棚にはたくさんの本が収められている。 女性はソファにジュリを座らせると自身も向かいのソファに座った。 「私はマグノリア、この店のオーナーだよ。それでジュリ、クリスから聞いたけどマルシャン村に来たばかりなんだろ?」 「は、はいっ・・・・・・!今日着いたばかりで弟たちもいるので働く先を探してて!どうしても住むところとお金がいるんです。何でもします、働かせてください!」 ジュリは座ったまま頭を下げる。どうか働けますように、と心の中で祈りながらいると向かいの席から「はぁ……」とため息が聞こえた。 ー-やっぱりだめなのかな……。 落ち込んだまま顔を上げられないでいると、「顔をあげて」とマグノリアは少し怒ったような声でジュリに言った。 「そのチョーカー、ジュリはオメガなんだろ?そして、妊娠してるんだね」 「えっどうして……」 「気づかない?あんたずっとお腹を庇うようにしてるよ。身重のオメガが弟と、なんて……病院には行ったのかい?」 「それは、えっと・・・・・・まだ」 「っ……!行ってないのかい!?」 言いにくそうにだんだん小さくなる声に被さるようにマグノリアの声が部屋に響いた。 あまりの声の大きさにジュリの目はまん丸に見開いている。 「なんてことだい!今すぐ行きな!病院の場所はわかるかい?あー地図を渡すから……。帰ってきたら・・・・・・簡単な仕事から覚えてもらおうかね」 「えっそれって、ここで働けるんですか!?」 「詳しくは知らないけど苦労している子を簡単に見捨てるわけにはいかないよ。うちの従業員はベータだけだから大丈夫だろうし。弟もこんなところで良ければ一緒に住んでいいから」 優しいマグノリアの言葉に思わずジュリの頬はピンク色に染まり笑みがこぼれる。 勢いよく立ち上がると思い切り頭をさげた。 「よ、よろしくお願いします!」

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