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第77「バカ彰」* 寛人side

 仁からの着信。  ……なんな訳。  オレは、思わず、深くため息をついた。 ◇ ◇ ◇ ◇  金曜に彰と飲みに行った。土曜に彰から電話がかかってきて、めちゃくちゃ謝られて、大丈夫だと伝えた。また今度な、と電話を切った。  で。今日は日曜。日中、また彰から電話がかかってきた。 「……ん?……仁が怒ってる?」 『多分』 「……何でそう思うんだ?」 『……だって、全然ちゃんと目あわせてくれないし、笑わないし。 なあ、寛人、オレ、なんか暴れてたりして、仁に迷惑かけてた??』 「んー……いや? とりあえず仁に、お前を部屋までは運ばせたけど、勝手に服脱いですぐ寝ちゃったって言ってたし……」 『……じゃあなんで、あんなに怒ってるんだろ。聞いても何にも言ってくれないしさ。全然話してくれない訳じゃないんだけど、笑わないしさ、声低いしさ』 「――――……仁に聞いてみた方がいいのか?」 『……ん? 連絡先、知ってるの?』 「こないだ悩み相談の後、聞いた」 『あ、そうなんだ。……んー……でも…… オレが聞いても、怒ってないしか言わないし……』 「今仁は?」 『道場に行った』 「聞いた方がいいか?」 『いや…… オレが、寛人に告げ口したみたいになるから、聞かないで。ただ、暴れたりしてなかったかなーと、思って、聞いてみただけ」  彰は、大丈夫、何とかする、と言って、電話を切った。  んー……どうすっか。  なんて、思っていたら。その数分後。  仁からの着信。  ……なんな訳。  オレは、深くため息をついた。 「もしもし仁?」 『……あ、どうも……こんにちわ』 「……どした?」 『……んー……あの……』 「お前、彰に、怒ってんの?」 『――――……何ですか、それ』 「彰が、自分が暴れたりしてたのかとか、気にしてたからさ。……って、彰が言ってたのお前には言わなくて良いって言われてたんだけど…… はー。 何でこんな事言わなきゃいけない訳……」  はー、とため息。 「……んで、お前は怒ってんの、怒ってねえの?」 『……怒ってはないですけど…… 楽しく話したい気分でもない、てとこです』 「……彰が何かしたの?」 『……してないですけど……』  すこし仁が、声のトーンを下げる。 『あの日、水、飲ませたんですよ』 「……ああ。もしかして、口移しで飲ませちまったとか?」  思いついたことを口にして聞いたら、少し無言の後、不機嫌そうな声が聞こえた。 『してねーから。……んなの虚しいし』 「……んで?」 『……寝たままだと飲めないから、肩抱いて起こして、飲んでって言って飲ませたんですよ』 「んで?」 『……飲んではくれたんだけど、口から少し零れたから、唇を拭って…… あの時たぶん彰は……キスされてると、思ったんだと思う。なんか、動作っていうか……』 「んー……で?」  しばしの無言。  嫌な予感。 『……りょうや、て言った』  大きく漏れそうになったため息を、何とか押しとどめる。  ――――……りょうや。  ……こないだ、聞いた名前、だな…… 。 バカ彰……。 『……女の子の名前なら分かるけど。何でそこで男の名前な訳。つか、ムカつきすぎて、聞けないし。……聞かないけど、でも……なんかムカついて、全然楽しく話す気なんか、全然しないし』 「――――……」  話し始めたら、たまってたのか、まくし立てていく仁。 「……キスされたと思ったかどうかなんて、分かんねえんじゃねえの?」 『……そうだけど』 「つか、寝てたんだろ。 別に深い意味のない寝言じゃねえの」  ……違うだろうけど。仁の言ってることが、あってるんだろうけど。  ほんと……バカ彰。 『……ですよね……――――……だめだ、オレ』  はあ、とため息が聞こえる。 「仁?」 『……分かってんのに。 なんかこんな事で――――……彰に笑いかけられなくなるなんて』 「――――……バカ」  思わず言ってしまうと、仁が、無言のあと。 『……バカだよ、ほんと――――……』  どこまでも沈んでいきそうな仁に、ため息。 「じゃなくて…… そんな、酔っぱらって寝てる時の彰の寝言なんかに、んな悩むなよ」 『――――……』 「酔っ払ってない時の彰をちゃんと見ろよ。……彰が今、お前のこと、気にしてンの分かってんだろ」 『……分かってる』 「……じゃもう、そっちのが大事だろ」 『……はい』 「――――……仁」 『……はい?』 「――――……彰、中高、彼女居たし、こっち来てからだって、そういう関係、持ってたと思うし。そこらへんにいちいち反応してたら、キリねえぞ」 『……分かってますよ。オレだって、付き合ってたし。 文句なんか言えるはずない。そうちゃんと分かってたんだけど……』 「――――……」  ……まあ。  男の名前だったから、だったんだろうけど。  オレは絶対そこには触れねえぞ……。 『……落ち着いたから、もう大丈夫です。すみません』 「――――……できたら、優しくしてやって」 『……何それ』  苦笑いの仁の気配。 「……なんか弱ってる気がするから。 あんなに酔っぱらったのも初」 『……了解です』 「まあ。弟のお前に言うのも変だけどな」 『大丈夫。――――……剣道行って、発散したら帰ります』 「おう。 頑張れ」  落ち着いた声で、すみません、と言って、電話が切れた。 「――――……はー……」  バカ彰、バカ彰。  寝言とは言え、アホか。  ――――……彰に言ったら、ものすごい焦るだろうから、言わねえけど。言っても仕方ねえし。言って、ぼろ出されても困るし。  仁からは、それには突っ込まないだろうし。    ほんと、マジでもう――――……。  言ってもしょうがねえけど、バカ彰……。  

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