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第9話
ドオォォオーン!!
「なにっ?」
突如、低くうなる。床がうねるように大きく揺れて、地響きが大地を穿った。
窓がガタガタ震えている。
「オルフェ」
「大丈夫です。ここは強力な結界に護られています。勇者様に危害を加えるものは入れませんよ。ですが念のため、警備を強化しましょう」
「うん」
こくりと小さく頷いた俺の体を、たくましい腕が包んだ。
(……あれ?)
俺の手……
「オルフェのナニから離れてるー★」
なんで??
「魔法が解けてしまいましたね」
「えっと……どうして解けたんだろう」
だって、今の俺は……
「残念。でも嬉しいですよ」
ぎゅっ
オルフェに抱きしめられて、胸がドキドキ、悲鳴を上げた。
「勇者様。私にこうされて嫌ですか」
「……嫌じゃない」
でも苦しい。
胸がドキドキ、はち切れそう。
だけど、ぎゅうっと抱き寄せる両腕の力のせいじゃない。たぶん。
「では勇者様は見事、解呪に成功されましたね」
「でも俺ッ」
……しっ。
唇に人差し指が当てられた。
「成功されておりますよ。私のかけた魔法は呪いの類いにあたります。離れようとすればする程くっつきます。では……」
「では?」
「その逆をしたならば?」
カァッ
俺、どんな顔をしてオルフェを見れば……
「まるで熟れたさくらんぼのようです。勇者様のお耳、美味しそうですよ」
はむ
「ひゃ」
オルフェが俺の耳、食べてる★
「ほら、ふごふぁないで」
「喋らないで」
舌がにゅるにゅるする。耳のひだをチュルチュル這う。
「ひんっ」
「ほや、ほうされましたか?ふるへてふぉりますね、ゆうひゃさま」
「喋らないでって〜」
にゅるにゅる
チュルチュル
「フフ、勇者様の精気はとても美味ですよ。お忘れですか?私が淫魔だという事に」
ぷるぷる
首を横に振るのが精一杯だ。
オルフェがようやく離れた今もまだ、ドクドク悲鳴を上げる左胸の鼓動が止まらない。
ドクドク
ドクドク
「だけど俺は……」
俺の精気が美味しいなんて噓だ。
オルフェにはもっと相応しい相手がいる筈だ。
だって俺は……
「魔力0勇者だよ」
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