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第1話 プロローグ

 赤い月が昇る。  ここは人間が住む世界とは違う場所。  どこまでも枯れた土地と、辛うじて生きている植物だけが広がる世界。常に夜かのように薄暗く、その空気は紅く染まっている。  はその乾いた地面に(ひさまづ)かされ、両手両足には重たい鎖が巻かれていた。その身体には無数の傷痕があり、彼の目は腫れて殆ど塞がっていたけれど、その奥にある赤い瞳は爛々(らんらん)と輝いている。  ああ、と彼は空を見上げて呟いた。今日も禍々(まがまが)しい良い月だ、と。  その言葉に周りがザワついた。  自分が何をしたか分かっているのか!  お前は禁忌を犯したんだぞ! 「最期に言い残すことは?」  彼のそばにいた、大柄な男が言う。その皮膚は浅黒く、女性の腰ほどはあろうかという太い腕を組んだ。  彼は笑う。 「俺を殺したら、指輪の在処(ありか)は分からないままだぞ」 「──殺せ!」  大柄な男が叫ぶと、周りにいた人間ではないものが一斉に彼に飛びかかった。  彼は目を閉じる。  ああ、最期に一目見ておきたかった。  私の愛する──。

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