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第35話 番外編 家族団欒

「ほらニコ、ミルクだよー」  ある日の休日、私とショウ様とニコは、屋敷の庭に出て昼食を摂ろうとしていた。  ニコは首がようやく座り、ミルクも数時間おきに安定してきて、夜はしっかり寝てくれる。産まれた直後の慌ただしさが少しだけ軽減されて、私たちの生活もほんの少しだけ、落ち着いてきた頃だ。  ショウ様はさすがにお乳は出ないため(出産はできるのに、というツッコミは受け付けません)魔族の粉を配合した特別な粉ミルクで、すくすくと順調に育っています。  あっという間に哺乳瓶の中身を飲み干す我が子に、成長の著しさと生命力を感じ、微笑ましくなる。ショウ様はニコの背中を優しく叩いてゲップを促すと、それはそれは盛大な音を出してニコはゲップをした。 「よくできたね」  ショウ様は微笑みながらニコの小さな額にキスをする。……もちろん二人とも愛しい大切な人なので、嫉妬なんかしていませんよ?  そのままウトウトとし始めたニコを、ショウ様はそっとカゴ型のクーハンに寝かせた。ショウ様は優しい笑顔でニコを見つめている。そんなショウ様を、私も見つめていました。  するとショウ様は私の視線に気付き、はにかんだように笑う。甘い香りが鼻を掠め、私はハッとしてショウ様から視線を外した。 「リュート、夜に。……ね?」  そう言われて、何もかもお見通しなショウ様には敵わない。私の欲情に反応するショウ様の魔力は、些か特殊ではあるものの、やはり王族なだけあって、その威力は凄まじい。 「さあ、ニコが寝ているうちに食べましょう」  私は誤魔化すように食事を促すと、ショウ様は何も言わずに微笑んで、シェフに作らせたサンドイッチを取り、頬張った。 ◇◇  そして夜。私は少々……いやかなり期待してこの時を待っていたのですが、こういう時に限って上手くいかないもので。いつもは寝たらなかなか起きないニコが、グズって何度も起きてしまっていた。 「んー……どうしたのかなー?」  ショウ様は少し困った顔をしながら、原因を探っている。親として奔走する姿は素敵ですが、……正直少し嫉妬してしまいます。しかし、そんなことを思っている場合じゃありません。  私はニコのお気に入りのおもちゃを持ってこようと、少し席を外した。そして戻って来ると……ニコの機嫌がもう戻っている。しかも何ですか? キャッキャと声を上げてまで笑っているじゃないですか。  見ると、ショウ様がニコのお腹に顔をうずめてくすぐっている。……私が持って来たおもちゃは必要なさそうです。  私は少し寂しさを覚えながら、おもちゃを元の場所に戻しに行った。男親というものは、なかなか役に立つのも難しいですね。ショウ様の方が、ずっとニコのことを分かっています。  寝室に戻ると、やはり寝付けなかっただけらしい、ニコは早くもスヤスヤと寝ていた。そしてショウ様はベビーベッドの中を覗きつつ、ニコの胸をトントンして、「ニコは可愛いねぇ」と呟いていらっしゃいます。 「あ、リュート見て。ニコの寝顔って最高に可愛いよね、起きてる時も最高に可愛いけど」  んー、とニコの頬にキスをするショウ様。私はそんなショウ様に後ろから抱きつき、ショウ様の可愛らしい耳にキスをした。 「……っ、リュート?」  分かりやすく肩を竦めたショウ様から、甘い香りが漂ってくる。私の欲情に反応して出てくる、ショウ様の誘惑の香りだ。 「ニコも可愛いですが、私も可愛がって下さいよ」  拗ねたように言うと、ショウ様は振り向いて、改めて私に抱きついてくる。柔らかくて温かい体温を感じて、ホッとするのと同時にもっと触れたいと身体が反応するのだ。 「……寂しかった?」 「ええ……」  クスクス笑うショウ様の笑い声が、私の耳をくすぐる。私はたまらなくなって、ショウ様に口付けをし、シャツの中に手を潜らせた。 「んん……」  ショウ様の肌は、やはりお菓子のように柔らかくて滑らかだ。その感触を楽しみながら脇腹や背中を撫でると、ショウ様はくすぐったそうに身を捩る。 「リュート……ベッドに行こう?」  はあ、と熱の篭ったため息をついたショウ様は、私の手を取ってベッドに乗った。

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