1 / 1
無意味な戦略会議
運命のドラフト会議...の前日。
会社の会議室をパブリックビューイングとやらにする!と慌ただしい親父やお袋と会社の人達、それに亮治のお母さんのコメントを真っ先に取りたい地元新聞社の馴染みのスポーツ部の記者さんなどが集まって妙に騒がしい中、俺の部屋ではある意味ものすごく重要な、しかしとんでもなくくだらない別の会議が行われていた。
「これは一体何だろうか、亮治?」
「はいっ! コンドームとローションとやおい同人誌です!」
やおい?
やおいって何だ?
「最近はボーイズラブとかいう言い方もあるんじゃって。俺らじゃったら、ほんまにボーイズじゃね! これはなんかねぇ、やまなしおちなしいみなし...とかって事らしいんよ。とりあえず、男の子同士がエッチばっかりしとる漫画の中でも特に激しそうなやつを厳選してきました!」
「厳然って...どこで?」
こういうん、学校で見た事あるわ。
生徒会の関係で文芸部に予算書類持ってった時に、部長以下諸々のメンツが真っ青な顔しながら慌てて隠してた。
後で文化部長に聞いたら、どうもあそこで俺と亮治のファン同人誌を作ってるらしいって事だったが...あの慌てぶりはもしかしてこういう事だったのか?
「えっとね、同人誌即売会っていうのに行ってきた」
「行ってきた!? いつ! どこに!」
「あー...んと、こないだの日曜日に、市内の商工センター?」
「お前はバカか! ドラフト上位指名間違いなしって言われてる地元の有名人のお前が、そのドラフト前に何をしよんな!」
想像以上の剣幕だったんだろうか、亮治の目にはみるみる涙が溜まっていく。
しまった!と思い、俺は慌ててその頭を抱き寄せた。
「悪い...言い過ぎた」
「俺、ちゃんと変装していったもん...」
「ほうか。バレんかったか?」
「バレとらんよ。メガネかけて、いっつも絶対着んようなテロテロのジーパン穿いていったけ。髪も、母ちゃんの毛糸の帽子借りて上手いこと隠せたし」
頭の中でそんな亮治の姿をイメージしてみて...あまりの珍妙さに思わず吹き出す。
例え亮治の正体がバレてなかったとしても、驚くほどの不審者ぶりでかえって目立っただろう。
「あのね、俺はやっぱり...たかちゃんとエッチな事したいん。二人で気持ちようなりたかったんよ。ほいでも俺、どうしたらええんかわからんし...何を調べたらええんかもわからんし...」
「ほじゃけぇいうて、なんでこんな本に行き着いたんな? インターネットでもなんでもあろうが」
「俺、パソコン持っちょらんもん...ネットカフェいうんがあるんも知っとるけど、どっちにしてもパソコンよう触らんし。そしたら、クラスの女子が俺がよう読みよった野球漫画のこういう本コソコソ回し読みしとるん見かけて、こういう世界があるん教えてもろうて」
「ほんでインターネットができんのなら、アナログで調べようと思うたんか?」
クーンと尻尾を垂らしてしょげてるみたいな亮治はメチャメチャ可愛い。
可愛くて仕方ない。
でっかい体して、マウンドに上がれば絶対の自信が揺るがないような不遜な態度を取る事もあるというのに、俺に怒られるかもしれないと思った途端にこれだ。
方法はともかく、俺と繋がる為の手段を知りたかったという事を、俺が怒るわけなんて無いのに。
「あのなぁ...まず、俺の部屋にはパソコンあるぞ」
「あっ...そっか」
「それに、エッチな事したいと思うとるんは...お前だけじゃないけ」
俺は引き出しの中から取り出した袋をポンと亮治に向かって投げる。
中身は...亮治が持ってきた物と同じだ。
「俺、ゲイビデオいうやつを調べて見てみたんじゃけど、やり方はわかってもそこまでどうしたらええんかわからんかったんよ。この本見たら書いてあるかのぉ?」
「...わからん。とりあえず、二人ともすごい気持ち良さそうに見える漫画だけ買うてきた」
「うーん...ほしたらまあ、読んでみようか? わからんかったら、ビデオじゃなしにやり方の手順みたいなん調べてみるわ」
素人が作ったという割にはやけに本格的な表紙の本。
二人してそれぞれ違う作者の漫画を読み始める。
「ん? いきなり突っ込んでもええもんなんか? 男は濡れんじゃろ。傷つかんのんかの?」
「あ、こっちもいきなり突っ込んどる。あ、そうか...赤ちゃんできるわけじゃないし、コンドームはいらんのか...」
「いやいやいや、ちょっと待て。ビデオ見た時には、みんな出とる人コンドーム付けとったで。付けんにゃいけんじゃろ。それより、どのタイミングでどんな感じでケツ洗うたらええんな?」
「えーーーっ!? そんなん洗うとか出てきちょらんよ。洗わにゃいけんもんなん?」
「いけんじゃろ。ケツの穴で!?」
「あ、そうか...ほしたらこの漫画じゃったら...全然参考になりそうにないねぇ...わざわざ行ってきたのにな...」
またちょっとシュンとする亮治の肩をトントンと叩く。
涙目でこちらに顔を向けたところでチュッとキスを仕掛けてやった。
「まあ細かいやり方は、パソコンで調べてみようや。ただ、上手い事やったら...この漫画のキャラクターみたいに気持ち良さそうに、幸せそうになれるってわかったんじゃけ、まあ良かろ?」
「たかちゃん...たかちゃ~ん!」
そのまま大きな体にのしかかられる。
よしよしと頭を撫でてやれば、下半身をすり寄せながら、亮治が俺の首筋をクンクン鼻をくっ付けて匂いを嗅ぎだした。
「たかちゃん、ええ匂い」
「するか、んなもん。まだ風呂も入っちょらんのに」
「するよ、する。ほじゃけ俺のチンチン元気になったもん」
「漫画読んだけじゃろ。ほんまに、どんだけ溜まっとんな」
「溜まっとらんもん。昨日もたかちゃんの事考えながら抜いたもん」
「自慢気に言うな!」
呆れながらも亮治の熱を感じてるうちにだんだんと俺の下半身も重怠くなってくる。
そっと右手を下に伸ばし、亮治のそこをムニュムニュと揉んでやった。
「...っふ...ん......」
甘えてだらしなかった顔が何かに耐えるような、少し憂いを帯びた大人っぽい物に変わる。
いつもより鼻にかかった小さな声が吐息と共に首筋に当たり、体がぞくぞくと震えた。
「どうせお前、明日は取材やらなんやらで忙しかろ?」
「...たぶん...嫌じゃけど」
「どうせしばらくは二人きりでのんびりするんは難しいじゃろうけ、その間にもうちょっと勉強しようや...あの漫画みたいに気持ちようなれるように」
「ちゃんとお守りはくれる? 俺の全部たかちゃんにあげるけ、たかちゃんも全部俺にくれる?」
「心配すんなや。離れるんが嫌なんも、一人で頑張るんが不安なんもお前だけじゃないんで? 俺こそお守り欲しいんじゃけ。ただ、慌てて嫌な思い出にしとうないけ...ちゃんとまた改めて勉強して、ほんで二人だけの時間きちんと作ろうや...な?」
「わかった...」
寂しそうに俺の上からどこうとする大きな体をしっかり抱き締め、目の前にある耳朶をパクンと口に含んだ。
「たっ、たかちゃん!?」
「お前も風呂入っとらんじゃろ? ちょっとぐらいドロドロになってもすぐ流せるし...今から二人で風呂入ろうか?」
聞くが早いか、亮治は『ほら、見てくれ!』とばかりにその場でいきなりスポーンとズボンを脱ぎ捨てた。
パンツの中心にうっすらとできているシミに胸がドキドキする。
俺もズボンを脱ぎ、まだ会社の電気が煌々と光っているのを確認すると、二人で手を繋いで風呂場までダッシュした。
ともだちにシェアしよう!