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村の中心から少し離れた広場、誰もいない静かなところで、少年が一人泣いている。
目の前には丸い的があるが、全く使われていないようだ。
少年はその的をちらりと見るなり、顔を背けて再びわんわんと泣き出してしまった。
「おや、どうしたんじゃ、レオ?」
そこへ一人の老人がやって来た。心配そうに見つめながら、レオの方へと近寄っていく。
自らの名前を呼ばれたレオは、声の主へ顔を向ける。ずっと泣いていたようで、涙でぐしゃぐしゃになっている。
「どうして……どうして俺は、魔法が使えないの……? これじゃあみんなを守れない」
魔法。それは人間に秘められた魔力によって使える技能である。炎を操る能力、ものを壊す能力、傷を癒やす能力。
持っている魔力によって使える技能は異なる。
幼少期にどのような魔法が使えるか判明し、こつこつと魔力の制御を覚え、魔法の意のままに使えるように鍛錬していくのが当たり前であった。
しかし、レオはいつになっても魔法が使えなかった。どんな特訓をしても、何もなかった。
同年代の友人たちはどんどん使えるようになっていき、レオ一人がぽつりと取り残されていた。
同じ空間にいることさえ、レオにとっては心苦しいものとなっていった。
「大丈夫じゃ、レオ」
そう優しく声を掛ける老人の顔は、優しさに満ちあふれている。
しかし、レオは首を振って否定する。
「だめだよ。強くなって、みんなを魔物から守るんだ! そのためには、俺だって魔法が使えないと!」
人とは異なる姿をした、害を為す存在を魔物と呼び、人々は恐れていた。
襲い掛かってきて恐怖を与える存在に立ち向かうため、レオは魔物を倒せる魔法がどうしても使えるようになりたかった。
「そんなことはない。全ての魔法が魔物をやっつけるものではないし、時には魔法以外の技能だって必要なんじゃ」
「えっ? どういうこと、じーちゃん……?」
「だからレオ……」
そう言いながら、老人の背中から何かが取り出される。
「お主は剣の腕を磨くのはどうじゃ?」
鞘まで丁寧に磨き上げられた剣は、レオのために用意されたのであろう。
それを見た途端、レオはさらに大声で泣き叫んだ。
「うわーん!! 俺はそんなんじゃなくて、魔法がいいのーー!!」
どこまでも遠くに響き渡る声を出すレオは、いつまでも泣き続けていたのであった。
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