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【あと数センチ】第1話
金曜の夜。
賑わう居酒屋の1席に、4人の男の姿があった。
「 でさぁ?俺の失敗じゃねぇっての!あ"〜ッ、くそ!」
___楪 奏多 (26)___
・顔は悪くないのにモブっぽい社会人
・総合商社の児童向け玩具部門主任
・割と何でもそつなくこなす
・イカとタコが大好物
・機嫌が悪い時は酒に弱い
・友人は多い方で、よく人から頼られる
・旅行好き
・あまり感情が大きく顔に出ない
・天然S
・イメージカラーは青
「 まぁまぁ、落ち着けって奏多」
___榊原 直哉 (26)___
・少しチャラついた社会人
・イベント運営会社企画部主任
・体格は良いがマッチョまではいかない
・人をからかうのが好き
・ホラー系は苦手
・甘い物大好き
・好きな子には常に笑っていてほしいタイプ
・据え膳は大体喰うけど好きな人が居たら絶対他には手を出さない
・精神がすり減ると子供っぽくなる
・イメージカラーは赤
「 同じ立場として、その上司はクソですね」
___文月 律 (26)___
・誰にでも敬語の社会人
・ホテル経営会社の課長
・スタイルが良く、スーツが良く似合う
・仕事ではコンタクトだがプライベートは眼鏡
・美人顔
・料理が得意
・油断したり余裕が無いと敬語が取れる
・冷静に人をからかうのが好き
・エッチな事は好き
・イメージカラーは緑
「 うわぁ、会社勤め...社畜大変そ〜」
___秋水 俊介 (26)___
・ほぼ100%実年齢より若く見られる社会人
・フリーWebデザイナー
・身長が低い事を気にしているが、今更伸びてほしいとは思っていない
・時々、物凄く口が悪くなる
・運動嫌いで在宅ワークの為、体力が無い
・酒に弱い
・俗に言うツンデレ
・照れるとリアクションがでかくなる
・ホラー系は苦手
・イメージカラーは黄
4人は大学からの付き合いで、所謂イツメンだ。
定期的に飲み会を開いている4人は、今日も仲良く酒を酌み交わしていた。
「 お前も社畜になれよぉ!アホ俊介〜!」
「 は?急に何、ひっどいなー」
酒が回った奏多は、酔っ払いよろしくなテンションで俊介に絡んでいく。
そんな奏多を俊介はいつもの様に軽くあしらった。
「 俊介は在宅のWebデザイナーですもんね」
「 そっ!」
俊介は大学時代から独自の人脈を拡げ、卒業してからフリーのWebデザイナーを職としている。
4人の中で、唯一在宅ワークをしている俊介は少しドヤ顔で律に答えた。
「 良いよなぁ...自宅で仕事できるって」
「 会社行けよ〜!」
「 嫌だよ...外出なくて良いように自分のペースで出来る仕事をわざわざ選んだんだから」
不満そうな表情の直哉と奏多に、俊介はベッと舌を突き出して笑う。
直哉は「ケッ」と面白くなさそうに酒を煽った。
「 僕もゆくゆくは在宅ワークを目指してるんですよ」
熱燗を空にしながら、律はポツリと呟いた。
その言葉に真っ先に反応したのは直哉だ。
「 へぇ、叶いそうなの?それ」
「 まぁ...後2年くらいですかね?」
律の在宅ワーク計画が順調に進んでいると分かり、奏多は分かりやすい嘘泣きを始める。
「 うあ"〜!律の裏切り者ぉ〜」
「 安心しろ奏多。俺はずっと出勤する社畜だ」
「 なっ、直哉〜!天使かよぉ!」
べそべそと嘘泣きする奏多の発言に、その場に居た3人はほぼ同時に吹き出した。
「 きっしょ!天使とか言うな!鳥肌立つわ!」
「 直哉が天使...」
「 有り得ませんね」
「 おい、お前ら!俺はいつも天使だろ!」
「 ふっ、無いです」
「 無い無い」
「 悪魔だ、アクマー!」
「 言い出したのお前だろ、奏多!」
それぞれにグラスを開けながら、4人はいつもの様に言葉を交わす。
少しして、よく耳にする電話受信のメロディが4人の間に流れた。
直哉は机の上にスマホを置いており、チラッと画面を確認して自分じゃないと分かると他3人の様子を伺う。
律と俊介は各々服のポケットに入れているようで、ゴソゴソとスマホを探していた。
奏多には着信音が届いていないのか、項垂れて机に顔を伏せたままおしぼりを握力増強器具の様にギュッギュッと繰り返し握っている。
「 あ、僕だ。ちょっとごめん」
どうやら俊介のスマホが鳴っていたらしく、ガタッと音を立てて俊介は椅子から立ち上がる。
急に立ち上がった俊介に疑問を抱き、奏多は何だ?と顔を上げた。
「 あん?何してんの?」
「 電話してくるの。で、ん、わ!」
「 例の彼女か〜?」
「 残念でした!ちっがいま〜す」
彼女が居るなんてこの3人に一言も言った事は無いが、俊介はあえて訂正はしなかった。
律に「電話、行ってらっしゃい」と言われ、俊介は店の外に急いで向かう。
俊介が居なくなってすぐ、奏多は再び机に突っ伏した。
「 良いなぁ!俺も彼女欲しい〜癒されたい〜彼女〜」
「 奏多に彼女なんかいらねーだろ」
「 おぉい、どーゆー意味だそれぇ」
「 そのまんまでーす。まぁ、分かったから一先ず呑もうな?ほら、律の熱燗ですよ〜」
ニヤニヤと嫌な笑いを隠しもせず、直哉は奏多の目の前に酒を置く。
奏多は下唇を尖らせつつ、差し出された熱燗を迷い無く口へと運んだ。
「 あ、こら直哉!もー、奏多も...呑まなくて良いんですよ」
「 酒が...酒が美味いよぅ」
律が止めに入るも一歩遅く、奏多は一気に酒を飲み干してしまった。
ヤケ酒の様な感情任せに酒を煽る時の奏多は、いつもいつも酷く酔っ払っている。
今日も誰かが介抱しなければ駄目だろうな...と律は呆れて溜め息を吐いた。
「 帰れなくなっても知りませんよ?」
「 俊介に介抱頼めば良いだろー」
「 ...全く、俊介が居ないからって勝手に」
「 居ない奴が悪いんだよ〜だ」
「 そーだ、そーだ!」
「 直哉も結構酔ってますね?」
「 酔ってません〜」
「 俊介はどこ行ったんだよぉ...俊介ぇ〜」
「 ははっ、やっぱり奏多に彼女はいらねぇよ」
「 だから、どーしてだよ〜!」
「 ...やれやれ」
付き合いきれない...と律が額に手を置いた時、パタパタと俊介が戻ってきた。
「 たっだいま〜」
「 あー!俊介〜!」
俊介が席に着くや否や、奏多はその細い腕をガッチリと捕まえる。
突然の事に驚き、俊介はビタッと体を固まらせた。
「 なになになに!?」
「 俊介ぇ!便所なら連れてけよぉ!」
「 えぇ?僕、トイレ行ってないんですけど...」
突拍子も無い奏多の言葉に、俊介は律と同じ様に頭を抱える。
俊介の前の席で、直哉はゲラゲラと笑い出した。
「 夫婦漫才してんじゃねーぞ、奏多」
「 はぁ?」
「 ちょっと、直哉!変な事言うな!」
「 奏多、俊介は電話しに外に行ってたんですよ」
「 つーれーてーけーよー!」
「 嫌だよ」
奏多の手をバシッと払い除け、俊介は自分のグラスに残っていたレモンサワーを飲み干す。
明らかに出来上がっている奏多と悪ノリが止まらなくなってきた直哉を見て、律はふぅっと息を吐いて腰を上げた。
「 さぁ、そろそろお開きにしましょうか?」
「 だなぁ〜...奏多がヤバそうだし」
「 直哉のせいですよ?」
「 俺は何もしてませ〜ん」
「 なになに?直哉何かしたの?」
それぞれに帰り支度を始めるが、奏多だけは一向に動こうとしない。
そんな奏多に上着を着せながら、俊介は疑問を口にした。
直哉は分かりやすく口角を上げて俊介を見やる。
「 奏多をお持ち帰りして本人に聞いてくださ〜い!」
「 うっわ、嫌すぎる」
ここまで酔ってしまった奏多を相手にするのは、この場に居る3人の誰もが避けて通りたい道である。
それでも、何故かいつも俊介が面倒を見る役目に回ってしまっている。
それは俊介が避けたいと思っても、律と主に直哉が避けられないように仕組んでいるから無理な話だ。
ヨロヨロと立ち上がってフラフラと1人で歩き出す奏多の後ろに続き、4人は会計を済ませて店を出る。
まだ解散するには早い時間と言うのもあり、外は人通りが少ない。
「 俊介の家まで競走だな!」
「 何言ってんの?」
いきなり振り返ったかと思ったら、奏多はとびきりの笑顔で言い放つ。
間髪入れずに俊介は冷たく返した。
「 誰も参加しませんよ、それ」
「 俺は自宅に帰りまぁす」
「 同じく」
「 じゃあ俺が1番で優勝だな〜!」
「 え、待って...奏多、家に泊まる気!?」
当たり前の様に俊介の家に行こうとする奏多の肩を、俊介は慌てて掴んだ。
その拍子に奏多が倒れそうになったが、横に居た直哉が難無く支える。
「 こんなんじゃ帰れねぇだろ、奏多」
「 そうですね。申し訳ないですが...頼みましたよ、俊介」
「 うえぇ〜...酔った奏多は面倒臭いのに〜ッ」
「 ぁんだと!?」
こうして、結局最後には奏多の付き添いをさせられる俊介。
口では「嫌だ」と否定するも、俊介の想いを察している直哉と律には満更でもない表情に見える。
直哉は奏多の左腕を俊介の肩に回させ「奏多、ちゃんと歩けよ?」と耳打ちした。
「 歩くのやだ〜」
「 歩かないと俊介の家行けませんよ?」
「 確かに、酔った奏多は面倒臭いな」
「 うわ〜...僕の静かな夜が...」
「 そうは言っても、もういつもの事じゃないですか」
「 俊介イカ〜!」
「 ...はいはい、いつものね」
イカ、とは飲み会の後にほぼ必ず買って食べているコンビニのさきいかの事だ。
奏多が酔って潰れた時は大体俊介の家に転がり込む為、俊介は既に把握済みだった。
「 その"いつもの"が俺らには分かんないし」
「 奏多の事は俊介に任せるのが1番良いですから」
「 む〜...はぁっ、分かった分かった」
俊介は完全に諦めたのか、深い溜め息を吐いて奏多の体をしっかりと支えてあげる。
「 よ〜し!じゃあまたなぁ〜!」
「 俊介、家に着いたら一応連絡下さいね?」
「 はいはーい」
「 奏多〜、俊介に迷惑かけんなよ〜?」
「 もう既に迷惑だよ...」
「 俺いい子だから、大丈夫で〜す!」
右手を挙げてヘラッと笑う奏多を見て、俊介は溜め息を吐き、直哉は吹き出して笑った。
そんなやり取りを見て、律も思わず笑ってしまう。
「 ふふっ、頼みましたよ俊介」
「 はーい、頼まれましたぁ」
「 んじゃあなぁ〜」
「 おー、またな〜」
「 また集まりましょうね」
「 ん、じゃあねー」
4人はそれぞれに手を振って目的の場所へと歩き出す。
律と直哉は駅へ。
俊介と奏多は俊介の家へ。
2人と充分に距離が取れた事を確認し、律は直哉に棘のある声で話しかけた。
「 直哉...いつもいつも、わざとでしょう?」
「 んー?何の話〜?」
絶対に分かっているだろうに、直哉はとぼけた風に返事をする。
律もそう返されると分かっていた為、特に突っかかる事はしなかった。
「 きっと、そろそろ俊介にバレますよ?」
「 俊介も割と鈍感だし、大丈夫っしょ!」
「 後で怒られたって知らないですよ?」
「 そん時は律が慰めてくれるもん...でしょ?」
「 ...やれやれ」
ニィッと悪戯っ子の様に律の顔を覗き込む直哉。
その表情があまりにも無邪気に見えて、律は毒気を抜かれて肩を落とす。
2人は絶妙な距離を保ったまま、人通りの多い道に消えていった。
_____あと数センチ【第1話】
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