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第1話
普通の恋して、人並みに可愛い彼女がいて、充実してる高校生活を送る予定だったのに…… 俺、沼川光輝は今、体育の授業を抜け出してちょっとした事故で、保健室のベットで男を押し倒しているというカオスな状況にいる。
なんか顔赤いし、目うるうるしてるし、しかも誰もいない保健室だし、今にも始まるもんが始まりそうなんだよ。いや、そりゃね? 男子高校生なら想像するじゃん。女の子とこういうシチュエーションになって、んでなんか求められちゃって、入るもん挿れちゃて、って想像するじゃん?! でもなんで男?! なんで男っ?!!! しかもクラスで一番仲良いやつだよ。いつもだったらノリじゃん。でも反応がガチなんよ。どうしろと? 俺がそうこう考えてる間にも時間進んでいくじゃん? この状態で耐えてる俺たちを取り敢えず誰か褒めてくれ、いや誰も来んな。
「ぷっ、あははは。光輝どんな顔してんだよ。なに?なんかエロいことでも考えてた? このシチュ、エロいよな。憧れるよな」
俺の思考を強制的にストップさせたのは、真下にいる若月真夜だった。
「俺さ、昨日風邪ひいちゃってさ、病み上がりだったんよ。だから保健室連れてきてもらったの。絶対体育のせいで熱上がったわ。なんか顔も熱いし、頭も痛い。うー、だる」
「んあ、な、なんだよ。顔がガチだったじゃねえかよ。まじ超ビビり散らかしたんですけど。エロいことはじまるのかと思ったわ。てか風邪とか大丈夫かよ」
俺の考えすぎかよ。てか、真夜は俺のどんな顔見て笑ってるんだ? 顔が熱すぎる。
「はははっ。やば超ウケるんですけど。真っ赤だし。童貞くんには刺激が強かったかな? ってか、男同士だろ」
いつものノリだ。何も気にしなくていい。なのに、さっきから心臓がうるさい。
「は、はぁ? 童貞とか言うなよ。お前だって同じだろ」
「さぁねー。ああやべ、絶対熱上がってきたわ。わりぃ。今日はこのまま早退する。センセーに言っといてー」
そう言って、真夜は布団に包まってしまった。
「おー。わかった。お大事にな」
俺はそう言って、保健室を出て体育館に向かう。いつも通りを意識して。なのにさっき見た真夜の顔が忘れられなかった。
「あ゛ーーーーーーーー!!!!もうわっかんねーーーーーー!!!!!」
家に帰って俺は枕に向かって叫んでいた。俺はあの時、真夜に対して思ってはいけないことを思ってしまった気がする。ちょっと潤んでる目がかわいいなとか、顔が綺麗だなぁとか、なんか、エロいなとか……
「うわぁあああぁああああぁぁぁ」
「お兄ちゃんうるさい」
妹に怒られたし、こんな感情絶対おかしい。友達に、しかも男だし。うん。何かの間違いだな。そう、きっと気のせい。あいつの顔が忘れられないのも、こんなに顔が熱いのも。
「ふわぁぁ」
「おはよー。なに?寝てないの?盛大なあくびが聞こえたけど」
後ろから、真夜が飛びついてきた。ったく、誰のせいで昨日眠れなかったとおもってるんだよ。昨日のことがなかったかのように振舞ってるし、気にしてたの俺だけだったんだな……
いや、待て待て待て。なんでちょっとしょんぼりしたんだ俺。平常心平常心。
「おーい。沼川くーん。大丈夫そ??俺さっきから無視されてるんですけどー。あと顔がすごいことになってる。顔よ。顔」
真夜の声が耳元に響く。
「おお、ごめんごめん。ちょっと考え事してたわ」
「?? 何考えてたんよ。光輝が考え事なんてが珍しいな」
「俺だって考え事くらいするわ。馬鹿にすんな」
「そりゃあ悪かったて、何怒ってんだよ。あ、そいえば俺が昨日帰ったあとにやった教科のノート見せてくんない?」
「おー。任せとけよ」
「さっすが沼川君。頼りがいがありますわー。んん? お前顔赤くない? 俺の風邪うつった? 大丈夫?」
気づいたら真夜の顔が目の前にあった。あまりにも急で、俺の心臓が跳ね上がった。
「な、ばっか。急に覗き込むなよ。びっくりしただろ」
「んー。どしたん。今日機嫌悪い? まあいいや。ノート頼むわ、先行ってるね」
真夜が俺置いて走って教室に向かう。いつもだったら俺も追いかけるのに…… なんか今日の俺は変な意味で真夜を意識しまくってて、一個一個の真夜の言動に心臓がおかしくなってる。なんか頭も痛くなってきたし、真夜には悪いけど今日は帰ったほうが良さそうな気がする。
『悪い真夜。やっぱり体調悪いみたいだから今日は帰るわ。ノートはまた後でな。俺も頼むわ』
いつもなら直接言うのに、なんでだろ。真夜に直接言うことができず、メッセージだけ送って帰った。なんでこんなに真夜が気になるんだろ。
家には誰もいない。平日の昼だし。家に着いたら眠くなってきた、とりあえず寝てから考えるか。
あ、あれ? ここどこだ? 俺、部屋のベッドで寝てたはず…… っておい! 俺なんで服着てないんだ?! しかも真夜も!? なんで?! いや、なんで当たり前のようにここにいるんだよ!
「光輝、可愛い。もっと俺にしか見せない表情見せて」
真夜があの顔で迫ってくる。
「なっ、し、真夜ぁ?? え、これどうゆう状況。ま、ま、待ってそれ以上はぁぁぁ!!!」
怖くなって目を瞑る。うわあああ。真夜の息がかかってきがするよおおおお。怖い怖い。
「光輝、怖くないよ。大丈夫。俺を信じて……」
真夜の優しい声が耳元に響く。そんな声で言われたら恐怖なんてすっ飛んでってしまった。
「う…… し、真夜……」
恐る恐る目を開けると、裸の真夜はどこにもおらず、ただ白い壁が見えた。
いわゆる夢オチってやつか。はあ、ガチびびった。ん? んん?? なんか、下半身に違和感が…… って、え? は? う、そだろ…… 俺、真夜で興奮し、た? は? いやいや、信じられない。おかしいだろって。俺は、女の子と付き合いたいって思ってたよな? 今までだって普通に女の子が好きだったし。た、確かにな! 確かに、真夜の顔は綺麗だってみんな言ってるし、モテるのも知ってるけど、真夜は友達だし、そういう目で見たことなんて…… か、考えるのは後!! とりあえずどうにかしないと…… ああいつもので抜くか!? なんで真夜の顔が出てくるんだよぉ。てかほんとになんで萎えないの?! こんだけ男のこと考えてたら萎えるだろ! 普通!! 全然収まらないし……生理現象だし!! ぬ、抜くしかないよな……。
「ふっ…… うっ…… はぁ…… し、真夜……」
は?! いや出たけども、俺今真夜って言わなかったか?! 言ったよな?! い、いやおかしいだろ。真夜はなんとも思ってなかったんだぞ。俺だけが意識して、しかも…… さ、最悪だ。男で、しかも真夜で抜いてしまった。どうしよう。
「ぐぅぅぅぅ」
腹の音が強制的に思考を現実に戻しにきた。もう3時だ。そりゃ腹減るわな。よ、よし、飯。飯を食うぞ!! 真夜のことは忘れる! ……忘れようとしてるのに……なんで。
この気持ちは絶対おかしいって。友達だし、男だし。なのに俺は気づいてしまった。自分が真夜に抱いている感情がなんなのか。
全部真夜からもらった風邪のせいだ。こんなに心臓がうるさいのも、顔が熱いのも。こうして考えてしまうのも。ほんとに、最悪だ。
「今日も頭いたいから休むわ。母さん、ごめん。連絡しといて」
母さんに嘘ついて学校を休んでしまった。あんな夢を見た後に真夜にどんな顔して合えばいいのかわかんなかったし、何より自分の気持ちがより現実的になることがわかってしまったから。ううう。こんなんで悩んでるなんてらしくないし、とっとと解決して前に進みたいのにどう頑張っても解決策が一向に浮かばなくて頭が痛い。今まで好きな子はいたことあったけど…… 。お、男が好きなんて初めてだし、今まで通りでいるのは絶対にできっこない気がする。ああ、難しい。俺はどうするのが正解なんだ!?
「お兄ちゃん。真夜君が来てくれたよ。体調そんなに悪いわけじゃないんでしょ。お見舞いだって。お兄ちゃん友達に恵まれたねぇ」
妹の声が聞こえる。
「お?おお。あれ、俺寝てたのか」
起きて一番最初に視界に入ってきたのは、いつもの白い壁じゃなく、心配そうな顔の真夜だ。
「おおおっ。ビックリしたんだが?!」
近すぎる真夜の顔にびっくりして飛び上がってしまった。う、真夜だ。間違いなく、真夜の顔だ。
「妹さん、のぞみちゃんだっけ? 光輝と違ってしっかりしてんのね。ありがとね」
真夜の顔が俺の視界から消える。とりあえず一回落ち着く時間は取れたぁ。
「俺と違うってのは一言余計だっつーの」
いつもの俺ならこう言うよな。大丈夫、普通だ。
「はーい。お兄ちゃん大丈夫そうね。真夜君もうちのお兄ちゃんのためにわざわざありがとうございます! じゃあ私友達とデートして来るから。あ、これ、二人で食べてね」
妹がアイスを残して出て行ってしまった。つまりこの家には俺と真夜の二人きり。い、いつも通りだぞ俺。な、何も考えるな。
「へー。よく出来た妹さんだな。光輝とは正反対だ」
「はいはい。やかましいわ。今日はどしたの?」
よ、よし、いいぞ俺。何も変なこと口走ってないぞ。
「どしたのって、お前俺からの連絡全部未読無視じゃん。俺傷ついてたんですけど?」
「え。うっそ、ごめん。全然スマホ見てなかったわ」
ほんとだ。真夜からの心配してるような文面が溜まってる。
「いいよいいよ。多分俺が風邪うつしたんだし。今元気そうで良かった。熱は?」
「あー。多分ないんじゃないかな? 測ってないからわかんないや」
ちゃんといつも通りになれてる。いいぞ俺、偉いぞ。完璧だ。このまま乗り切ればっ……
「測ってないの!? 測っとけよ。じゃあちょっと失礼させていただきまーす」
ん!? 俺のおでこに真夜のおでこが?!! てか、顔、近っ!!
「はっ!?」
あまりの近さにビックリしてバランスを崩して、そのまま真夜を巻き込んでベットに倒れた。この体制はまずい。近すぎる。真夜の顔から動揺が伝わってくるし、俺、やばい。
「光輝?」
真夜の声が耳に残る。早く抜け出さなければいけないのに、なんで! 好きな人と近づけているって離れたくないって思ってしまった。きっとずっと前から俺は真夜のことが好きだったんだ。自覚が遅れていただけだ。真夜は動かない。いや、動けないのかもしれない。とりあえず、なんか言わないと!!
「真夜。俺、お前のこと好きかもしれない。」
は? え? 気づいたら口走ってしまったいた。真夜の表情が変わる。ああ、間違えた。言ってしまった。きっともう今まで通りには戻れない。ああ、これからどうしよう。どうしたらいいと思う?俺。
「こ、光輝、それって、マジ?」
きっと、真夜も引いてるんだろうな。そりゃそうだ。いきなりこんなところで友達だと思ってたやつに好きなんて言われたら誰だって戸惑う。ムードもない。あああ。ほんとに最悪。マジで何してんの。俺。
「なあ光輝、答えてくれよ。」
言ってしまったらもう後戻りできないじゃないか! でも仕方ないじゃん! だって好きだもん! こうなりゃもうヤケクソだ!!
「ううう。俺は真夜のこと好きみたいだぁぁ」
勝手に目から涙が出てくる。最悪だ。何もかも最悪だ。
「何だよ」
真夜はそう言って目を伏せてしまった。当たり前だ。わかってた。わかってたけど…… 。気持ちに気付いてからの失恋が早すぎる。
「光輝」
え? 急に名前を呼ばれて真夜の方に顔を向けた。唇に柔らかい感触が……? は? お、俺、真夜とキスしてないか?!
(ガタンッ!)
「いっ、いたたたた。いきなりとはいえ突き飛ばすんじゃねえよ。打ちどころ悪かったら死んでたぞ。」
「えっ、だ、だってキス…… え?」
唇にはまだ、熱が残ってるような気がする。
「あーごめん。なんか光輝が盛大に勘違いしてる気がして、体が勝手に動いてたわ」
「え、勘違いって?」
真夜の言ってることが理解できない。
「うーん。言葉で説明するのは難しいんだけど。簡単に言えば、そうだな。寂しそう、だった?」
「寂しそうだからってなんでキスしたんだよ」
てか、寂しそうって何?!
「え? ここまでしといて分かんないの。俺頑張ったのに?」
「ん?」
「俺も光輝のことが好きなんだよ。一緒に居始めた時からずっと」
「え?」
真夜も? 俺が好き??
「え、何で」
は? 信じられるわけがないだろ。俺、男だぞ?
「えー、恥ずかしいな。そうだな。光輝の無鉄砲なとこ好きだよ。あと誰も見てないところで積極的に動けるところも好きだし、何でもかんでも顔にでちゃうとことか、笑顔も可愛くて大好き。あとはー」
「ななな、ちょっと待て」
は? 急になんだ?
「えー、光輝が言えって言ったんじゃん」
「言えとは言ってないし、そうだけどそうじゃないだろ?!」
「まあいいや。とにかく俺は光輝のことが好なんだよ。保健室の一件ドキドキしたし、もしかしたら光輝、俺のこと意識したのかなって思ったのに、なんか拒まれるし、帰るし、学校来ないしで寂しかったんだからな」
真夜が本当に寂しそうな顔で見てて、嘘ついてないってわかる。
「う、ごめん。なんか変に意識しちゃって、避けてたかも」
俺は真夜に顔を向けられない。どんな顔したらいいのか分からない。
「え! マジ?! 光輝、俺のこと意識してたの」
今度はガチで嬉そうな声出してて、恥ずかしい。
「あんな顔されて意識しない方が無理だっての」
変じゃないよな? 強がりに聞こえないよな??
「あはは。光輝とめちゃくちゃ近くて正直やばかったわ。しかも光輝の顔、エロかったし、興奮しちゃってたわ」
「んなっ。そう言うこと軽率にいうなよ」
「ごめんごめん。でも結果オーライだったでしょ?」
確かに、あの出来事がなかったら俺は自分の気持ちに気づけないまま終わっていたと思し。ま、まあ悪いもんでもないだろうし。
「あー、そうだな。両思いだって気づけたし。でも、もう二度と体験したくないわ」
あーよかった。いつも通りの俺たちだ。なんとかなってよかったー。
「じゃあ、これからは恋人としてよろしくってことで。いいかね? 光輝君」
は? え? 秒でいつも通りじゃなくなったんだが? こ、恋人……?
「え? 何。光輝、フリーズした? おーい。生き返れー」
「恋人って言ったか? 今?」
「そりゃそうでしょ。だって俺たち両思いなんだよ。誰にも取られたくないし、デートもしたい。当たり前でしょ?」
あ、そっか両思いだもんな。付き合う。付き合うか…… そうか。そういうものだもんな。そういうものか……。
「あ、じゃ、じゃあ。あの。これからもよろしくお願いします」
「ん。かわいいね。よろしく」
真夜と付き合うなんて考えてなかった…… こ、これ現実だよな? 真夜の顔が眩しすぎて何も考えられない。真夜がこれから俺の彼氏になるのか? 俺が真夜の彼氏になるのか?? これから俺たちどうなるんだ? なんで、真夜はそんなにニコニコなんだ?! ま、まあいいや。また後で考えればいい。まだ何かが変わったわけでもない。とりあえずこれからも真夜の隣にいれるんだな、俺。よかった。
「光輝くーん。なんで無視?」
「ん、ああ。ごめん、嬉しいなって思って」
「ええ。なになに? 俺もー」
真夜があったかい。どうなるかはまだわかんないけど、俺はこのまま真夜の隣にいられるみたいだ。今はそれが何より嬉しいんだ。
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