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二人の出会い✦side蓮 1

 ――――半年前。     「蓮、おまえに主演の話が来てるんだけどな……」  社長が珍しく硬い表情で、歯切れの悪い物言いで台本を一冊渡してきた。   「俺が主演、ですか?」  今まで数々のオーディションに落選しながらも、どんな小さな役でもチャンスをつかみ取ってやってきた。  今ようやく知名度が上がってきたところで、まだまだ端役ではあるけれど、ありがたいことにドラマの仕事が途切れたことはない。  でも、主演となると、まだ自分には荷が重いと感じる。  俺が主演……?  どうしても喜びよりも戸惑いが大きい。  いつもの社長なら笑顔で「やったな!」と喜んでくれるはずの大きな役。それなのに、この硬い表情。  社長もまた、俺にはまだ主演は早いと感じているんだろうか。  それはそれでちょっと落ち込む。  社長室のソファに腰を下ろし、受け取った台本を開いた。  学園ドラマでW主演。もう一人の主演は役名を見ると男性だった。  ということは恋愛ドラマではないんだな、と少しホッとしつつ先を読み進めた。でも、なにか違和感を感じる。   「……社長、もしかしてこれ……」 「ああ。ボーイズラブだな」 「ボーイ……ズ……」  まさか思いもしていなかったから、社長に断言されて思考が一瞬停止した。  ボーイズラブ? 男同士?  最近になって、BLという言葉をたびたび耳にするようになり、意味を覚えたばかりだった。  恋愛ドラマの主演でも戸惑うところに、まさかBLドラマの話がくるなんて。 「多少待ってくれるみたいだから、家でゆっくり考えてきていいぞ」 「あ……はい……」  台本の上で両手を握りしめて考えた。  主演の話は正直嬉しい。夢みたいだ。  自分を選んでもらえたのなら答えたい。そんな思いで、今まではどんな役でもやってきた。  でも、今回はBL。つまり、同性愛のドラマだ。  はたしてどこまでやるんだろうか。キスシーンはあるだろうなと考えて、相手は男か……と戸惑った。  学園ドラマだから、あってもキスまでだと思いたい。  俺に演じきれるだろうか……。まったく想像することができない。  恋愛ドラマは初めてではないけれど、キスシーンの経験はない。  それどころか、愛を表現する役を演じたことすらない。  それがまさか、いきなり主演で演じなければならないなんて、かなり荷が重すぎる。 「まぁ、せっかくの主演だけどな。BLのイメージがついて回る危険がな……」  社長は深いため息をついて、トレードマークの顎ひげを撫でながら眉間にシワを寄せた。  社長の表情が硬い理由がやっとわかった。  確かに、そんな固定イメージが付いてしまえば、俺を売り込むのはきっと難しくなるだろう。  なるほど、と納得した。  この話が俺に来た理由がようやく分かった。  そうやって、きっと何人もの俳優が避けた役なんだ。  俺はいったい何人目なんだろう。  もし俺が断れば、また次の俳優に、そのまた次の俳優にと、決まらずに話が回っていくんだ。  そう考えたら、なぜだか迷いが吹っ切れた。  

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