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一緒に観る?✦side秋人✦1

 今夜から台風が来るということで、予定よりも早く撮影が終わった。  スタジオに閉じこもっていると、外の様子が全く分からない。  蓮と一緒にスタジオを出て休憩所に移ると、窓に殴りつけるように当たる雨風の音が響いていた。 「うわ、すげぇな……」  窓ガラスを水滴がどんどん流れていく。遠くで雷の音も聞こえてきた。  明日のロケも中止になり、突如仕事がオフになった。 「美月さん、明日はさすがに他の仕事は入らないよね?」  蓮がマネージャーに、スケジュールの確認を入れている。 「さすがに無いわ。ちゃんと身の安全を守って過ごしてよ」 「子供じゃないんだから。大丈夫だよ」    胸がもやっとした。なにかとてつもない違和感を感じた。  今のは本当に蓮だった? マネージャーと会話をしているのに、まるで俺が話しかけられたのかと思うような違和感。  そうだ、今のは敬語じゃなかった。  今まで蓮の親しげな言葉は、全部俺に向けられる言葉だけだった。  胸がもやもやして、無性にいやな気分になった。 「ん、なに?」  不意に蓮が見下ろしてくる。   「……えっ? な、にが?」  心の黒い部分を悟られたのかと一瞬青くなったが、蓮の瞳は柔らかい。  蓮が俺を見つめたまま、腕を少しだけ持ち上げた。すると一緒に俺の腕も持ち上がる。俺は無意識に蓮の腕に絡みついていたようだ。 「あ、ご、ごめん」  慌ててパッと腕をはずした。   「え?」  びっくりした顔をして、蓮はもう一度俺の腕を自分の腕に絡ませた。 「そうじゃなくて。静かに腕組んできたから、なにか言いたいことあったのかなと思っただけだよ。腕組むのは俺たち普通でしょ。なんで離すの?」  あれ、普通はおかしいか、とクスクス笑っている。  組み直してくれた腕がこそばゆい。胸のもやもやが、すっと消えていく感じがした。 「そうだ、今から帰ったらドラマに間に合うね」 「……あ、じゃあさ。ドラマ観ながら電話つなぎっぱにしねぇ?」 「それいいね! そうしよっ」  二人でウキウキしていたら、蓮のマネージャーが「君らは中坊か」と呆れたように言った。 「一緒に観ればいいでしょ」 「えっ」 「どっちかの家で、一緒に観たら? 明日は二人ともオフになったんだから。泊まっちゃえばいいし」 「あ、そっか! じゃあ秋さん、ウチくる? 一緒に観る?」 「あ……えっと」  即答できなくて、とっさに榊さんを見た。  蓮の家に泊まれるなんて、飛び上がりそうなくらい嬉しい。でも俺みたいに、邪な気持ちで泊まってもいいのだろうか。  嬉しいのに、気持ちを隠してるせいで申し訳なさがつのる。  榊さんは、そんな俺の心を見透かしたようにかすかに苦笑した。 「いいんじゃないか、たまには。二人でドラマ鑑賞写真でもSNSに上げたらファンも喜ぶ」  気にしすぎだ、と榊さんの目が語っていた。  そっか。気にしなくてもいいのか。自分がやりたいように、自分が嬉しいことをすればいいのか。  蓮の腕に絡めた腕に、思わずぎゅっと力がこもった。   「SNSか。それ名案ですねっ。そうしなさいよ蓮くん」 「俺SNSやってない」 「うあーそうだった。秋人くんはやってる?」  蓮のマネージャーが期待を込めた目で見てきたので、やってますと答えると、イエス! と言って喜んでいる。  話の流れ的に、もう蓮の家に泊まるのが決定したようだ。   「秋さん、本当にいいの? 大丈夫?」 「……ああ、うん。蓮が迷惑じゃねぇなら、行こうかな」 「迷惑なわけないよ! やった! すごい楽しみ!」  蓮が喜んでくれて、すごく嬉しくて幸せだと思った。    

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