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ペアウォッチ 1

先日完結した『心が聞こえる二人の恋の物語』の岳×徹平のカプが出てきますが、読んでいない方でも、タイトル通り『二人は人の心が読める』、それだけわかっていれば読めるお話となっています。あきれんの心が二人にはダダ漏れだと思って読んでくださいm(*_ _)m ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ✦side秋人✦   「なぁ蓮……。やっぱちょっと作戦立ててから行こっか。俺ペアウォッチ買いに来ましたーって顔にモロ出そうで怖いわ……」 「ふふ、うん。作戦立てよっか」  二人一緒の連休初日。ペアウォッチを買いに行くぞ! とウキウキで支度をした。  ペアウォッチだとバレないように買うにはどうするかと蓮に言われて、まぁなんとかなるんじゃね? と無計画で家を出ることにしたのに、準備万端でもう靴まではいてから、やっぱりちょっと不安になった。   「やっぱわがまま言うのは俺のほうだよな。蓮が選んだ時計見て、俺もそれがいいっ! って言うか……?」  「うーん……セリフ決めて行っちゃうと身構えちゃわない? 言わなきゃーって思ってガチガチになりそう」 「そうなんだよ。そうなんだよな……」  ドラマで演技するよりもヘマしそうなんだよな。 「もうさ、蓮のが演技上手いし役に入り込めるし、任せちゃいてぇんだけど……」 「秋さんいつもそれ言うけど、俺の強みはただ役に入り込めるってだけだよ? 上手い下手とは別」  それが上手いってことだろ、と脳内でツッコむ。  蓮はいつまでも自分は下手だと思ってる。でもそれが向上心につながってるから、そこはツッコまない。 「じゃあ、お互いに時計を選び合うのはどうかな? 秋さんは俺に似合いそうなの選んで?」 「お前は?」 「うん、選ぶよ。選ぶ選ぶ。じゃあ行こ?」  背中を押されて玄関を出た。  これは蓮に任せちゃっていいってことだろう。余裕そうな顔の蓮を見てやっとホッとできた。  ライブでもテレビでも一緒に出かけると公言しちゃったし、今回はまったく変装なくそのまま「あきれん」で行くことにした。  電車でもよかったが、少しでも気疲れせず終わりたいってことで、車を出してショッピングモールに向かう。 「秋さん、赤信号になったら手つなぐ?」 「あー……今日は変装してないから無理だな……」 「手元なんか見られないと思うけど」 「バッカ! お前、どこにカメラが潜んでるかわかんねぇんだぞっ。外では親友の距離感だかんなっ」  蓮は口をとがらせてブツブツなにやら文句を言っている。  珍しいなと思った。いつも俺の言うことにニコニコあいづちをうつ蓮が拗ねている。 「蓮? 俺強く言いすぎたか?」  蓮がむぅっとした顔を俺に向けた。   「……変装してくればよかった。赤信号くらいくっつきたかった」  あーもうクッソ可愛い。Uターンして帰ってベッドに押し倒したい。  そこでハッとした。そうだ、今日は黒スーツじゃんっ。うわ、やばい、黒スーツの蓮か。もう後ろがうずいてきそう。 「秋さんひどい。なんで笑うの?」 「え? うん、お前の黒スーツの夜を想像してた」 「は……っ? えっ? な、なんでいま……っ?」 「なんでって、想像しちゃったから?」    むくれた蓮はどっかに消えて、顔を赤らめた可愛いワンコの蓮になった。  あークソ。これやっぱUターンかな?  なんとかUターンは踏みとどまってショッピングモールに着いた。でももうすでに蓮ゲージがゼロだった。ほんと俺、隣に蓮がいると我慢できないのなんとかなんねぇかな。 「蓮、トイレ行こ」 「え、トイレ? うーんと、どっちかなぁ」  俺らの周りはもう野次馬でワラワラしてた。でも女の子ばっかだしさすがにトイレには着いてこないよな? 「あ、秋さんこっち」 「ん」  トイレ表示をたどって行く蓮について歩く。  きっと蓮はトイレの前で待ってるね、というはずだ。  だから周りの子達にそれを聞かれる前に蓮をトイレに引っ張って……。 「あったあったトイレ」 「あ、蓮」 「秋さん行こ」  蓮がトイレの中に入っていく。……あれ? 蓮もトイレに行きたかったのか?  出遅れて俺もトイレに入ると蓮が見当たらない。え、個室入った? マジか、おっきいほうだったのかっ。  まだ早い時間だからかトイレの中は誰もいない。頼むから蓮が出てくるまで誰も来ないでくれ。  そう思っていたら個室のドアが開き、手だけ出してヒラヒラと振ってくる。 「秋さんこっち」 「えっ?」 「早く」  わけがわからなかったが、とりあえず言われるままに個室に近づく。すると蓮の手が俺をつかみ、中に引っ張り込んでドアを閉めた。 「おい、蓮?」 「しっ」    俺の唇に人差し指を当ててくる。  イタズラっ子な顔で俺を見て、ぎゅうっと抱きしめてきた。  あ、なんだ。どうして俺がトイレに行きたいのかわかってたんだ。やべぇ。不意打ちってクるな。家で抱きしめられるよりドキドキする。  耳元で蓮がささやいた。 「キスしていい?」 「てかそれ以外ないだろ」  蓮のうなじをグイッと引いて唇をふさいだ。あー……ゲージ満タン。幸せ……。  蓮がキスをしながらふふっと笑うから、俺もおかしくなって一緒に笑った。  思う存分深いキスをして唇を離す。蓮の耳元に唇を寄せて俺は聞いた。 「蓮もゲージ満タンになったか?」 「え? ゲージ?」  きょとんと俺を見返す蓮がやっぱクソ可愛い。  あーもう今日はさっさと買い物終わらせて帰ろう。  トイレを出ると、さっきよりも人だかりがひどくなっていた。   「あ、あの! 握手してください!」 「サインください!」  うん、やっぱり蓮の言うとおり帽子くらいかぶって変装してくるんだったな、と反省した。  蓮が優しい口調で、でも集まったみんなに聞こえるように言った。 「すみません、これだけ集まっちゃうとサインは無理なので、握手だけでもいいですか?」  キャーッとみんなが喜んで、俺たちは順番に握手をしていった。握手をしたのかされたのかわからない勢いだったが……。    嵐がおさまると、まず俺たちは帽子を買った。  無駄な出費に二人で苦笑する。  帽子をかぶると一気にプライベート感が出るからか、それほど寄ってこなくなる。これはやっぱり必需品かな。

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