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結婚式✦side秋人✦1

「よし、じゃあ行くぞ」  榊さんの言葉に一気に緊張が走った。  いよいよチャペルに向かうと思うと心臓が飛び出しそうになる。  本当に、蓮と結婚式を挙げるんだ。  まだ夢みたいで、俺は朝から気持ちがずっとふわふわしていた。    田端さんの挙式が終わる時間に合わせて、俺たちは昼頃ロケバスで出発した。  出発地は俺たちのマンションの地下駐車場。  俺の両親は父さんの車で駆けつけ、蓮の家族は美月さんの送迎でやって来てロケバスに乗り込んだ。  来客スペースに両家の車が並ぶと怪しいが、父さんの車と美月さんの車なら心配ない。  これなら張り込みでもされていない限り、誰にも怪しまれないだろう、という榊さんの考えだった。  雫ちゃんは一日保育に預けたそうだ。結婚式だから会えないのはわかっていたが、やっぱり寂しい。一人にしてごめんね、と心の中で謝った。  車内は始終にぎやかだった。すっかり意気投合している俺たちの家族に、蓮と二人で笑った。  運転する榊さんと助手席の美月さんは、今日の打ち合わせに余念がなかった。  田端さんの挙式が終わると、すぐにロケバスをチャペルに横付けし、家族はすぐにチャペル内に移動した。  俺たちは急いで衣装に着替える。  お互いどんな衣装に決めたか、まだ知らない。  俺たちは背中を向けて、着替え終わるまで見ないようにした。 「蓮、着替え終わった?」 「うん。秋さんは?」 「終わった。じゃあ、せーので振り返るぞ?」 「うん」 「せーのっ」  勢いよく振り返った。  その瞬間、蓮のタキシード姿が目に飛び込んできて、予想はしていたが一瞬でやられた。  やばい……カッコイイ……。  だめだ、直視できない。クラクラする。  俺はすぐに両手で顔を覆った。 「……わぁ……っ! 秋さんオールホワイトだ……っ! すっっごいカッコイイッ! あれ、秋さん?」 「……っ蓮、黒じゃねぇんだな……」 「あ、やっぱり黒がよかった? 黒じゃ新鮮味がないかなぁと思って、ジャケットだけ変えてみたんだけど……」  蓮の衣装は、シャツもベストも、パンツ、蝶ネクタイ、チーフまですべてが黒で統一されていたが、ジャケットだけがシルバーだった。  グレーではなくシルバーという非日常的な感じが、蓮のイケメン度をさらに爆上げさせている。  タキシードの種類は知らないが、裾の長いロングジャケットもすげぇ似合ってる。  やばい……やばいって……。  顔から手を離し、もう一度しっかり蓮を見た。 「蓮……めっちゃカッコイイ……」  やばい……やっぱり直視できない……。 「秋さんもすっっごいカッコイイよっ! 実はね。白だったらいいなって思ってたんだ。秋さんは白だなって思って。それも、絶対オールホワイトっ! すごいっ! 俺たち通じあってるねっ!」    真っ赤な顔でしっぽをフリフリしてるワンコの蓮。カッコイイのか可愛いのかどっちなんだっ。 「おい、お前たち」  不意に呼ばれて、俺たちは同時に榊さんを見た。 「今度は二人でタキシード姿に赤面か? 俺もいるからな。イチャイチャは勘弁してくれ」 「えっ? いやっ!」  慌てる蓮に、俺は教えてやった。 「だから、ただの冗談だっつの」 「えっ、そ、そっか」  榊さんの口元はちゃんと笑っているが、蓮にはまだ本気と冗談が見分けられないらしい。  榊さんの「準備はいいか?」の言葉で急に現実がやってきた。   「はい、大丈夫です。蓮は?」 「だ、大丈夫っ」  このロケバスを出たら、見られないよう一瞬でチャペルに入らなければならない。  でも、そこだけ頑張れば、あとはチャペルに鍵をかけてしまえば誰にも見られる心配はない。  蓮と目を合わせてうなずく。  そのとき、榊さんが黒い布を広げて俺を包み込んだ。 「あ、え?」 「ここまですると余計に怪しいかと悩んだんだけどな。でも、見られるリスクよりこっちの方がいいだろ。怪しくてもなんでも、バレないほうがいい」  前が見えるように目だけ出して全身を黒で覆う。  榊さんは、蓮も同じように黒い布で包んだ。 「怪しさ満載だが……まあいいだろう」 「榊さん……本当にいろいろ、ありがとうございます」 「あの、ありがとうございますっ」  黒い塊のようになった蓮が腰を折って頭を下げる。  その光景はなんとも言えないおもしろさがあり、榊さんは口元をゆがめてクッと笑った。  今度は笑われたと分かったらしい蓮がキョトンとする。目しか見えないのにそれがはっきりと分かって、俺も思わず笑ってしまった。 「え? なに? なに?」 「なんでもねぇよ」  布越しに蓮の手を探って手を繋ぐと、蓮がふわっと嬉しそうに笑った。  榊さんが凛とした表情で俺たちに声をかける。 「よし、じゃあ行くぞ」    

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