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結婚式✦side秋人✦ 3
「じゃあ次は誓いの言葉っ。二人とも、ちゃんと考えてきたか?」
「当たり前だろ。まかせろ」
「カッコ良く決めろよ?」
蓮が手を差し伸べ、俺はその手を取る。
俺たちはお互いに見つめ合った。
いつでも深い優しさであふれる蓮の瞳。俺はいつも蓮に見つめられるだけで、その瞳にあたたかく包み込まれる。
その蓮の瞳が、いまは幸せそうに輝いていた。俺の瞳も同じように蓮に映っていたらいいなと願った。
そのとき、俺は重要なことを思い出して「あ」と声に出すと、蓮も「あっ」と口にした。
「真紀叔母さんっ」
突然呼ばれた真紀さんは「えっ? なにっ?」と焦ったように答える。鍵を閉めたドアの前で、何があってもすぐ対応できるよう待機してくれていた。
「ここ、大声で叫んだらだめかな? 声漏れる?」
「あ、大丈夫よっ。完全防音チャペルだからっ」
親指を立ててウインクをする真紀さんに、俺たちはホッと息をついた。
俺たちの中で、どうしても誓いの言葉はこれ以外になかった。あのときは仮とはいえ、俺たちにとっては本物の結婚式のようなものだったから。
あのとき俺は一人で誓いの言葉を叫んだ。
でも、今日はちゃんと二人で声を合わせて誓い合う。
蓮と目を合わせてうなづいた。一緒に深く深呼吸をする。そして二人で同時に口を開き、ゆっくりと心に刻むよう言葉にした。
「俺たちはーーっ!! ドラマが終わってもーーっ!! これからもずーーーっとっ!! 唯一無二のニコイチですっ!! 生涯を共に歩きっ!! 愛し合いっ!! 世界一、仲のいい夫夫 でいることをっ!! みんなに誓いまーーーーすっ!!」
ライブ会場で叫んだときのように、力いっぱい声を上げた。
もう仮じゃない。本物の結婚式で二人で声を合わせて、あのときの誓いの言葉を再現できた。
みんなが割れんばかりの歓声と拍手を送ってくれる。ぶわっと感情が爆発した。
誓いの言葉まだ終わっていないのに、一気に涙があふれた。
二人の誓いのあとは、一人づつ好きな言葉で誓い合おうと決めていた。
続けて蓮が言葉を繋げる。
「俺はっ! 秋さんを生涯の夫としっ! 一生愛し続けることを誓いますっ! どんなことがあってもっ! 秋さんを一生守り続けますっ! いつでもすごく優しくてっ! すごく格好良くてっ! めちゃくちゃ綺麗でっ! すっっっごく可愛い秋さんっ! ずーーっと愛してるっっ!!」
もう限界だった。愛してるがあふれて、いますぐ抱きつきたい。
進行なんて決まってない自由な人前式。
俺はたまらなくなって蓮に抱きついた。
「えっ秋さんっ?」
キャーッ! という女性陣の歓声と、いいぞいいぞーっ! という男性陣の声。
俺は抱きついたまま誓いの言葉を続けた。
「お……俺はっ! れ……蓮、を……っ! ……っ……」
「秋さん……っ」
涙が次から次へとあふれて声が詰まる。
蓮が優しく背中をさすってくれると、さらに喉の奥が熱くなった。
「……蓮を……っ! 生涯の……おっ…………っ」
「秋さん……」
蓮まで涙声になっていて、余計に涙が込み上げた。
二人で号泣しようか、なんて笑っていたけど、まさか誓いの言葉が言えなくなるなんて。
「秋人くんっ頑張ってーーっ!」
「秋人っ! いいよいいよっ! 泣きながら愛を叫んじゃってっ!」
「いいわねっ! 素敵っ!」
「嬉し涙はいっぱい流しなさい」
「甘えたくんっ! 動画にしっかり撮ったぞーっ!」
甘えたくん、で少し落ち着いた。父さんのやろう……。
俺はゆっくり身体を離して蓮を見上げた。
きっと今までで一番最高に涙でぐちゃぐちゃな顔だ。それでも、俺はどうしても誓いの言葉は蓮に向かって言いたくなった。
自由だからいいよな。
「お……俺はっ! 蓮を……っ! 生涯の夫としっ! 一生愛し続けることを誓いますっ! 蓮……好きだっ! 大好きだっ! 世界一愛してるっ! ほんっとお前が好きすぎてごめんっ! お前を……お前を一生幸せにするからっ! だからっ! ずーーーっとお前のそばにいさせてくれっっ!!」
「秋さん……っ! うんっ、一生そばにいてっ!」
蓮は、繋いでいた手を離して両手を広げた。俺もいまそれがしたかった。俺たちはいつでも同じ気持ちだ。
俺は蓮に飛びついてコアラ抱きをした。
歓声と笑いがチャペルに響く。
いつもの俺たち。なにも飾らない、俺たちらしい人前式だ。
「いいぞっ! そのまま誓いのキスだっ!」
リュウジがおもしろがってマイクに叫ぶ。
言われなくてもそのつもりだ。
「愛してるよ、俺の蓮っ」
すると蓮が、顔をポッと赤く染め、急にタジタジになる。
きっと自分も同じように言う流れだと思い込んだんだろう。人前でなんて言ったことないもんな。
蓮が覚悟を決めた顔で口を開いた。
「愛してるっ、お、俺の秋さんっ!」
真っ赤な顔で勢い任せに叫んだ『俺の秋さん』が死ぬほど可愛い。
俺は愛があふれて止まらなくなって、蓮の唇を奪いようにふさいだ。
嬉しくて幸せで胸がいっぱいで、蓮と見つめ合いながら何度も優しくついばむキスをくり返す。
割れんばかりの歓声と口笛が、俺たちを包み込んだ。
コアラ抱きでキスなんて普段の俺たちそのままで、ここがチャペルだということを一瞬忘れた。
俺たちが、じゃれ合うようにいつまでもキスを続けていると、リュウジの声がマイクを通して耳に届く。
「おーい、ここチャペルだぞー? みんな見てるぞー? いいならずっと見てるけどな?」
笑いを含んだリュウジの声とみんなの笑い声。
はたと俺たちは我に返った。
「あ! やめないで! もう好きなだけキスしちゃってっ!」
「こんなに長い誓いのキス初めて見たわぁ! 本当に素敵っ!」
「もう最高っ!! あっ! 美月さん、手ぶれ大丈夫っ?!」
「……だめ……もうだめ……手ぶれどころじゃ……」
「うっそ! ちょっと守! 交代してあげて!」
「了解!」
なんだろう、この、キス続けろ的な空気。
蓮の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「あ、秋さん……もう……」
「みんな、続けろってさ」
俺は調子に乗って、チュッチュッと派手にリップ音を鳴らしながらキスを続けた。
蓮が涙目でゆでダコのように真っ赤になって、さすがに可哀想になったころ、リュウジが司会者らしく止めに入った。
「えー、女性の皆様には非常に残念なお知らせですが、そろそろ男性陣が目のやり場に困ってきましたので、誓いのキスはこれにて終了とさせていただきます。心残りではございますが、指輪交換に戻りましょう。順番変わってますからね? お二人さん?」
そうだった、指輪交換すっ飛ばしてた。
女性陣のブーブー言う声と男性陣の笑い声の中、俺たちはゆっくりと唇を離す。
安堵の息を漏らす蓮と、顔を見合わせて笑った。
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