いつの間にかジュン様のライブは終わっていた。さっきの曲で最後だったみたいだ。 終わってからも、ぼうっとVJを眺めている俺に、シグと冬崎先輩が声をかける。 「ユイくん、ちょっと休憩しようよ。あっちにキョウがいるから、座りに行こう。」 「ユイ、ドリンクチケットをまだ使ってないでしょう？何かもらって来ますよ。何がいいですか？」 「ん、何かゴクゴク飲める炭酸？コーラとかあるかな？」 「かしこまりました。」 バーカウンターに行くシグを見送って、兄が座る場所に移動する。 誰かと喋っている・・・って、MAGの爆音ギターのカイさん？？！！！ 兄は固まっている俺を余所に、勝手にカイさんに紹介する。 「ほら、これがユイ。小さいレンさんみたいでしょ？」 「うわっ！！マジかよ？本気で昔のレンのまんま・・・よりも更に小さいじゃねーか！！かっ、可愛いすぎだろ？！ちょっと待て、十五歳って言ったか？流石に不味いよなあ・・・」 「あ、あの、カイさんですよね？俺MAGの大ファンなんです！握手して・・あっ俺汗まみれだ・・・」 「汗なんか寧ろご褒美だろ。舐めてーぐらいだわ。ほら、握手しようぜ！」 おずおずと手を差し出すと、ぎゅっと握られカイさんの方に引っ張られる。わっ、倒れる！って思ったら、後ろからシグに抱きしめられた。 「カイ様。ユイは私の恋人故、手は出さないで頂けますか？」 「ちっ！もう男がいるのかよ？？お前は・・何か見た事あるな？あぁ、あれか、キョウのしもべか。」 「はい。私、キョウ様親衛隊の三代目隊長で、ユイの恋人であるシグと申します。」 「全くおれが惚れる男には何で面倒くさい男がすでにいるんだよ？？いや、レンの場合は途中から掻っ攫われたんだが。」 「まあまあカイさん、流石に十五歳は不味いでしょ？絵面が犯罪でしかないから。 そろそろ親父とレンさんが来そうだよ？顔合わせない方がいいんじゃない？」 「はぁ、まぁしゃーねーか。退散するよ。ユイちゃんまたな！」 ずっと握りっぱなしだった手にキスをしてカイさんは去って行った・・ってえええ？？！俺、今何された？？？ シグがその手をウェットティッシュ(どこから出したの？！)で拭いて、同じ場所にキスされる。 「全く、油断も隙もあったもんじゃないですね。ユイ、だから言ったでしょう？あなたは男を引き寄せるんですから！もっと自覚して注意してください。」 何で俺が怒られるの？？！ 「理不尽だって思うのは分かるけど仕方ないよ。俺ですらたまに男に声かけられてキョウに怒られるんだから。ユイくんみたいな美少年は尚更だよ。」 冬崎先輩が慰めて？くれる。いやいや、あなたも大概美少年ですよ？？ 「そうそう、アスももっと気を付けないと。ユイもだよ。 さっきのカイさんはね、昔からレンさんに惚れてて、ずっと迫ってるんだけど相手にしてもらえなくてねぇ。 なのに親父が掻っ攫っていったからちょっと拗れてるの。 MAGが活動休止してる理由の一つかな？」 兄の口から衝撃の事実が！！MAG活動休止の理由の一つがレンさんなの？？ 「あっ、ジュンさんとレンさんだ！」 待って待って冬崎先輩！まだ心の準備がぁ！！ 「よぉっ！若者が集ってんな。 んっ？お前がユイ？ちょっと待て、マジでちっさいレンじゃねぇか？？！」 ジュ、ジュン様に名前呼ばれた！！！ 「ジュンさん、だから言ったでしょ？ユイくんむちゃくちゃ可愛いって！」 「いや、レン、これは反則じゃねぇ？何で頭とか服まで同じなんだよ？？！」 「だってユイくんもジュンさんの大ファンなんだよ？初期MAGの頃のジュンさんの真似してるんだから同じにもなるでしょ。」 「ユイ、マジでおれのファンなの？その歳で？？」 「は、は、はい！俺、夏海 唯仁と言います。今日はゲストで入れていただいてありがとうございます！ お、俺、パンクに興味持っていろんな動画見まくってたんですけど、その中で一番衝撃を受けたのがMAGなんです！！ そしたらカグヤが『親父だ！』とか言うし、死ぬ程びっくりして・・・」 「・・カグヤとカコは元気なのか？」 カコ(香子)は母さんの名前だ。 「母さんは、父さんと結婚してからは本当に普通の主婦で、普通に元気です。 カグヤは、元気すぎてムカつきます。兄さんが言うには、昔のジュン様の性格に似てるらしいです。」 「マジかよ？カグヤ、ヤバくね？まぁ元気なら良かったわ。けど、ユイ、本当にカコの息子なんだなぁ。よく見りゃ顔もそっくりだわ。そうか、レンとカコは似てたのか。最初から好みのはずだわ。」 「気付いてなかったの？そっちの方がびっくりだよ？！」 「いや、ただ単に好みだな、としか・・」 「まぁ、元嫁に似てるからって好きになられるよりはいいか・・って、みんな立ったままじゃない！座ろうよ。」 兄と冬崎先輩(途中で兄が横に座らせ、今もイチャイチャ中)以外、立ったまま話をしていた俺たちはイスに座った。 シグにコーラをもらって一気に飲む。はぁ、喉がからからだったら美味しい。