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君と過ごす時間

 机に盛り付けた料理を並べ二人で席につくと、手を合わせて食べる前の挨拶をする。 「いただきます」 「いただきます……」  正面に座り料理を食べ始める渚にチラチラと視線を向けるが、話しかけるための話題が思いつかず、諦めて箸を動かすことに専念した。  渚が作る料理は美味しい。  目の前には具沢山のコンソメスープに和風ハンバーグ、トマトと玉ねぎのマリネ、豆苗のガーリックソテーとご飯が並んでいた。  基本的にあっさりしたものが多く、胃にも優しいメニューだ。  こういう食べる人のことを考えた料理が出来るのは純粋に感心する。  一人暮らしをしているだけあって料理の腕も俺より格段に上で、自然と箸も進んだ。  もっと味わって食べてあげたいのだが、美味さに食欲を刺激されてしまい、箸の進みが早くなっていく。  黙々と料理を口に運んでいるとふいに視線を感じ、恐る恐る前を見遣った。  箸を動かしていた筈の渚はその手を止めて俺の顔を何故かじっと見つめている。  その真っ直ぐな視線に緊張と羞恥で体が強ばった。 「……何?」  居たたまれなくなり少したじろぎながら話しかけた俺に対して、渚はふわっと顔を綻ばせた。 「ううん、荒玖は美味しそうに食べてくれるなーと思って」 「え? 顔に出てたか?」 「いや、全然。でも、ずっと荒玖のこと見てるからわかる」  見てるから、わかる。  その言葉が嬉しいやら恥ずかしいやら、なんとも言えない気持ちになって、口元を手で覆いながらぼそりと呟いた。 「ごめん……もっと表情に出して喜べればいいんだが、なんか上手く出来なくて」 「あは、そういう不器用さも荒玖の良さだよ。あ、そうだ」  何か思い出したのか、ハンバーグを箸で小さく切りそれを箸先で掴むと、俺の目の前に差し出してきた。 「えぇ……っ、な、なな、なに……っ」 「何ってあっちのファミレスで荒玖が俺にしてくれたから、俺もやっぱり荒玖にあーんしたいなぁと思って。あれ、嬉しかったから」

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