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ナツと君

「トーリ、もうすぐ来る」 「そうなのか」 「ナツも手伝い、呼ばれた」 「え?」  こんな小さな子に資料や書類の整理をやらせるののだろうか。大丈夫か……?  そんな会話をしているときに、廊下の奥から声が聞こえてきた。 「ナツー! ちょっと来てくれ!」 「あ」 「俺が行くからここで渚と待っててくれ」  ナツが応えるより先に、俺は椅子から立ち上がると、部屋を出て声のした方へ向かった。 「あれ、なんで荒玖が?」  廊下を少し行った先の部屋で、椅子に座って幾つかの段ボール箱の中にファイルを詰め込んでいた冬李が、俺の姿を確認して首を傾げる。 「ナツは小さいから可哀想だし、俺が手伝う」 「まぁ、手伝ってくれるなら誰でもいいけど。えっとそれじゃあ、この段ボール箱を乗せたカートを会議室まで移動させてくれるか?」  俺は、椅子に座っている冬季の横に二つ並べられているカートへ目をやってから頷くと、カートの後ろに回ってそのままぐっと前に押し出す。  多分、中にファイルが入っているのだろう。  意外に重くて力を入れないと前に進みにくかった。 (俺が来てよかったかもな)  あんな小さな女の子じゃ絶対に押せないだろ。  会議室まで戻ってくると渚の膝の上にナツがちょこんと座っていた。  渚の方は膝の上でくつろいでいるナツの頭を撫でてほんわかしている。  そんな光景を目の当たりにして、俺は少し目を据わらせつつ二人に声をかけた。 「……何やってんだ?」 「あ、荒玖、おかえり。ナツちゃんが膝の上に乗せてって言うから乗せてあげたらなんか和んじゃって。妹みたいで可愛いなぁって」 「ナツ、ナギサの膝の上、好き」 「…………」  なんだろうか、この複雑な心境は。  こんな小さな女の子に嫉妬するのもなんだか違うような気がして、胸の内に溢れ出すモヤモヤをなんとか誤魔化す。

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