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複雑な心境
「…………」
嬉しい、はずなのに。
反応する心臓とは裏腹に、胸の奥がズキンと痛むのは先ほどの話のせいだろうか。
後ろめたく感じてしまって、騙しているような形になってしまって、それを素直に喜べない。
「……荒玖?」
押し黙って俯く俺に気づいた渚が不思議そうな顔で首を傾げる。
その純粋な瞳に見つめられたことで余計に罪悪感が込み上げてしまい、そっと繋いでいた手を離すと一歩距離をあけた。
「……ごめん」
「なんで謝ってるんだ? 俺、荒玖に謝られるようなことされた覚えないんだけど」
「……それでも、ごめん」
俺の気持ちの問題なので、渚に身に覚えがなくても当然で。
それに対する答えを今すぐ本人に告げられるほどの勇気を持てない自分の不甲斐なさに、胸の奥がまたズキリと痛んだ。
「……わかった。荒玖が言いたくなるまで何も聞かない。でも、今はせっかくのデートだから、せめて、手、繋いでほしい……」
渚のそのあまりにもささやかなお願いに俺は一瞬だけ躊躇してから、それでももう一度その手を取った。
今度は指を絡めてくることはなかったけれど、先程よりも力を込めて握り返してくる指先から愛情が伝わってくる。
そうだよな。
このデートの間くらいは俺と渚の関係を忘れて幸せを感じてもいいのかもしれない。
言ってしまって何かが変わるのなら仮初でも偽りでも、渚といる時間を大切にしたいと思うから。
「……ごめん。もう大丈夫だから。デート、いい思い出になるように楽しい時間にしよう」
そう言って俺は胸の奥にある罪悪感を押し込めて、今度は自分から渚の指の間に自身の指を絡めた。
最初はその行動に驚いた顔をした渚だったが、その表情がふにゃっと崩れて笑顔に変わると、嬉しそうにこちらに微笑みかけてくれる。
「うんっ、そんなの当たり前っ! ほーら、先ずは甘味処から!」
「お昼食べてねーんだけど……」
「お昼は甘味でいいっ!」
「いや、流石にそれは……。どっかで飯にしてからな」
「えーーーー!!」
抗議の声が上がったが、それをスルーしてガイドセンターの近くにあるファミレスへ足を向けた。
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