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第4話 前兆

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□  シアンがいきなり来るとか考えて無かった。  しかも夜中に! なんの前触れもなく。  必死に勉強する事しか考えてない奴だったのに! 「なぁ、さっきの奴って何?  こんな夜中に、それも軍舎まで来るって異常じゃね?  あの子に変なちょっかいとか、困ったことにならないと良いけど」  先に寮に帰らせた連中から聞かれた。  そうなる事は予想できた。  飲みに出かけた先で、付き合いのある同じ商家の娘が来て、皆に紹介したところだったからだ。  しかも、将来を考えた付き合いだと。 「あ、あぁ、幼馴染で友達とかいないから、いきなり来ちゃったみたいなんだよ。  ただ、優秀でアイツの家の代筆屋が俺の実家と付き合いがあるから、それでさ」  軍に入隊する前、シアンにプロポーズをしたけど、今ではちょっと後悔していた。  女性があんなにいい匂いがして、あんなに柔らかいとは思ってもみなかった。  シアンが可愛いとは言っても、やっぱり男だったし、狭い子供の世界ではシアンしか知らなかったから。 「優秀なんだ。  あんな可愛い感じで、出来も良いってなるとちょっと俺的に気になるなぁ。  紹介してよ、お前はあの子がいるんだし」    緑色の髪を気障ったらしく伸ばした、ヤーノが面白そうに言い出した。 「ダメだよ、アイツは。  俺が嫁に貰ってやらなきゃ行く所も無いんだから」 「第二夫人か、やるな。  じゃあさ、ベオクが味見した後で良いし。  男なら何の心配もなく遊べるじゃん」  確かに、子供が産める体じゃなかったし。   「無理だ。  シアンはそんな遊びが出来る奴じゃない」  シアンは俺が好きなんだから。 「おやおや、嫁に貰おうって奴は遊び放題遊んでるのにか?」  シアンはソリチュアとは違う。  男だけど、大好きなのは変わらないし。  嫁に貰うって決めてるのは確かだった。  ただ、どっちかってなると、決められなかった。 ------------------------------------------------------------  あの夜ベオクに帰された時から精神的なものなのか、体調が思わしくかなった。  体がだるい、胃から下腹部にかけて重だるい。  卒業までの一ヶ月ベオクと会う機会が全く無かった事も助かった。  それなりに手紙でのやり取りは出来ていたけど、この世界はスマホの様な伝達する手段が魔法しかなくて、僕は魔力が無いからその手段は使えなかった。  手紙で僕の配属先を知らせると、凄く喜んでくれて会ったらお祝いをしようって書いてくれていたから、あの時の悲しい気持ちは忘れる事が出来た。  それでも時々フラッシュバックする様に思い出されて、嫌な気持ちになる事もあった。  明日が卒業と言う日にベオクから手紙と小包が届いた。 「ベオクから?」  疑問と違和感が湧いた。  差出人は確かにベオクだけど、見慣れたベオクの字より遥かに綺麗な字体で綴られていた。 『シアン様    私の名前で出しても受け取って頂けないと思ったので、ベオク様のお名前で出します。    ベオク様は貴方がいる事で、とても困ってらっしゃいました。  魔力も無く行き場のない貴方を、どうにかしたいと我が家へも相談されるほど、貴方がベオク様に縋りついていると。  我が家との家格のつり合いの為にも頑張ってらっしゃるベオク様を、解放してくださいませんか?  どうか、お願いです。  もうすぐ、ベオク様は出征しますが、私を残していくことに不安を感じています。  ソリチュア・ロンダン』  内容はなんともおかしくて、乾いた笑いが自分の中に広がるだけだった。  僕が縋りついてる? どこがだよ。  ベオクはそんな事一度も言ったことはない。  この手紙のソリチュアって人が女性なのか、子を産める男性なのかそれすらも分かっていなかったけど、はっきりしてるのはベオクを好きだって事と、ベオクのご両親も認めてるって事、それに家格と言うからには、それなりの家だって事だけだった。   「僕は男だし、子供を産む因子もない。  ベオクの家で弟が生まれたからって、育って家督が継げるのはだいぶ先だろうし、当たり前か」  僕はベオクとソリチュアって人がどんな関係だとか、付き合いがあったのかどうかも聞かされていなかった。  手紙をくしゃくしゃに握りしめると、一緒に送られて来た小包を開けてみた。  掌に納まるサイズで、箱型、そして指環が入ってるとしか思えない外見に淡い期待と、絶望を覚悟した。  中身を見て自嘲気味な笑いと、どうしようもない怒りが湧いてきた。 「期待が外れて欲しかったなぁ」    指環が一つだけ入っていた。  その指輪の宝石は、第二婦人としてのカラーだった。  第一夫人が夫たる者の瞳の色を模した石を使い、第二婦人以下は髪色、もしくは夫と夫人のどちらにも被らない色を使われる。  僕が今手にしてる色は、赤でも金色でもまして碧でもない藍色だった。 「これを本当にベオクが僕に贈ったのだとしたら……」  問いただしたかった。  第一夫人ではなく、第二婦人として嫁せと言う事なのかと。 「まだ、ベオクからちゃんと聞いてない。  僕が信じてあげなかったらダメじゃないか」  ぎゅっと拳を作って、明日の卒業式で聞こうと心に決めた。  その結果、どんな答えが返って来ても覚悟をしようと。

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