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櫂さんの哀しい過去
和彦の息子と嫁に金を返してもらえばいいんだ。こっちの苦労も知らずにのうのうと暮らしているんだから。
高橋さんに焚き付けられ、和彦さんに騙された被害者たちが菱沼ビルディングに押し掛けてきて、張り込んでいたマスコミと揉み合いになり警察が出動する騒動に発展した。
卯月さんはあえて無視し、沈黙を通した。
「ヤクザというだけで白い目で見られているんだ。油に火を注ぐようなものだ。収拾がつかなくなる。ハチ、青空とイチャイチャしてないで真面目に仕事をしろ」
「青空、ほら言わんこっちゃない。オヤジから苦情が来ただろう」
「駄目に決まっているだろう」
膝の上から下りようとした蜂谷さんを、青空さんが背後から抱き締めた。
「暑苦しいから離せ」
「やだ」
「は?」
青空さんは蜂谷さんを下ろす気はこれっぽっちもないみたいだった。
「社長、大変です」
黒服の男性たちが息を切らし駆け込んできた。
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