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第86話
(残して来た幻影に、もう気付いたのか……。思ったより早かったな……)
そう考えながら
「シルヴァ、そういう事だから。お前はまだ休んでいろ。俺は残りの儀式を終わらせて来る」
俺が腰に抱き着いているシルヴァの腕に手を当てて呟くと、シルヴァは唇を尖らせて俺の身体を離し
「分かった。体力が戻ったら、僕も行くよ」
そう言ってゆっくりと立ち上がり俺を抱き締めた。
「無理だけはするな」
心配そうな顔をして、シルヴァは俺の頭にキスを落とした。
俺もシルヴァの背中に手を回すと
「あぁ、約束するよ」
と答えて、触れるだけのキスを交わす。
ゆっくりと唇が離れると
「でも、やっぱり心配だよ。多朗」
そう言ってオロオロしているシルヴァに
「何度も言うけど、お前はこの後の戦いに備えて大人しく寝てろ」
と言って頬にキスしてから
「良い子にしていたら、夜はたっぷり抱かれてやるから」
そう耳元に囁いた。
するとシルヴァはキラッキラの笑顔を浮かべ
「多朗~!」
と抱き着こうと両手を広げて走り寄って来たので、顔面を手で押さえ
「シルヴァ、何度も言わせんな!お前は大人しく寝てろ!」
そう言って蹴り離し、俺はリアムを連れて外へと歩き出した。
「多朗~~!!」
悲痛なシルヴァの叫びを背に、俺とリアムは湖へと歩き出した。
「しかし……あのシルヴァ王子が……」
お化けでも見たような顔をするリアムを見ると
「俺達が知っているシルヴァ王子は、完璧で一部の隙もない人だったのですが……」
と戸惑った顔をしている。
「はぁ?隙だらけじゃねぇかよ!」
「というか、あんな……なんと言いますか……」
言い辛そうにするリアムに
「あんなガキ臭い行動するのに驚いたか?」
って笑って答えた。
「あれがアイツの素なんじゃねぇのかな?」
「えっ!」
「嫉妬深いし、独占欲強いし、あと精力魔人な」
「……良いとこ無しじゃないですか」
「はぁ……」と溜め息を吐いて呟くリアムに
「アホ言うな!あんなに全身で大好きって訴えられたら、絆されちまうだろう?」
と言って笑った。
「だから、あいつの子供なら産もうと思えたんだよ」
そっと腹に触れて言うと
「あなたは、シルヴァ王子の話をしていると綺麗な表情をなさるんですね」
そう言われて、思わず苦笑いを浮かべた。
「そうか?」
思わず苦笑をうかべたままリアムに視線を向けると、ふいに頬に触れられて
「えぇ、シルヴァ王子に嫉妬するくらいに」
なんて真顔で言われて、思わず固まった。
(はぁ?今、なんて?)
リアムの言葉の意味を理解出来ずに固まっていると
「朝、川で水浴びをしていたあなたも、シルヴァ王子に抱かれていたあなたも……、思わず触れてみたくなる程に美しかった」
と言われて、リアムの親指が俺の唇をゆっくりと撫でた。
その瞬間、ハッと我に返り
「待て!!リアム、気でも狂ったか?俺相手に、何言ってやがる!!」
そう言ってリアムから一歩後ず去ろうとした時に足を滑らせてしまい、後頭部から倒れそうになった俺の腕を掴んで身体を抱き寄せた。
「勇者様……」
強く抱き締められ、切なそうに囁かれた瞬間
「はい、そこまで!」
と叫ぶサシャの声と一緒に、リアムの身体が離れた。
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