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第1話

「オイコラ! そこのテメエ! テメエが落としたのはα(アルファ)加賀美雄介(かがみゆうすけ)か? Ω(オメガ)の加賀美雄介か? それともこのβ(ベータ)の加賀美雄介か? サッサと答えろやゴラァ!」  目の前には、スキンヘッドにふんどし一丁の、ヤがつく職業じゃないんですかアンタと言いたくなるような、ものごっついオッサンが沼の真ん中に浮かび、俺に向かってメンチを切っている。ふんどしの端にはコイっぽい魚が挟まっていて尻尾がビチビチと跳ねている。頭から肩にかけてカエルの卵が付いていそうな緑色の藻が髪の毛みたいにベタッとへばりついていた。  肌は日に焼けて浅黒く、背中には昇り竜が彫られている。え、まさかふんどしに挟まったコイが滝に登って竜に変化したワケ…ないよね。鍛え上げられたエイトパックに分かれた腹筋には刃物で切られたような赤い線が真一文字に走っていた。そのいかにもヤクザさんな風体の男が、盛り上がった上腕二頭筋で濡れネズミの雄介をお姫様抱っこしているのだった。  ーー…いったいどうしてこうなった?  話は数分前に遡る。  ここはとある沼のほとり。わー沼だぁ。おさかなさんいるかな〜〜? と水面を覗き込んだ雄介の胸ポケットからスマホが沼に落ちそうになり、とっさにそれを拾おうとして雄介自身が誤って沼へとダイブしてしまったのだ。雄介は勉強はできるがスポーツはさっぱりで、何もないところで躓いたり、小指をしょっちゅう机の角にぶつけたりするうっかりさんだ。母親の腹の中に運動神経を置いてきてしまったんだろう。鈍臭いとも言う。そこが可愛いんだけどさ。  まるでブラックホールに吸い込まれたかのように、雄介の全身が沼にとぽんしゅるる〜と消えていった。俺は焦った。ヤバい、運動神経皆無な雄介はまったく泳げないんだった! 「お、おい! 雄介!? 大丈夫か!?」  慌てて手を水中に突っ込んで問いかけると、そんなに広くない沼の中心がぼこぼこっと泡立ったように波立ち、中から雄介を姫抱っこしたヤクザさん(もしかしてこいつが神様なの!? ありえねぇ!!)、が出てきて冒頭のセリフを俺に言ったのだった。  これは有名なイソップ寓話、『金の斧』!  俺が見つけたあやしげなネットサイトの情報は本当だった!! 「ワイの話をちゃんと聞いとんのかワレェ!? さっさと答えねぇとコイツをこのまま沼に沈めるぞゴルラァァッ!!」  なかなか答えない俺に口の悪い男がイライラし、雄介の首根っこを掴んでぶらんとさせてこっちへと向けた。いくら雄介が小柄だとはいえ男一人を手首だけで持てるってどゆこと!? 彼が手を離せば雄介は池の真ん中に沈んでいくだろう。  俺、折原翼(おりはらつばさ)は今まさに究極の選択を迫られていた。  斧を落とした木こりは自分が落とした斧は鉄の斧だと正直に答え、金、銀、そして自分の鉄の斧全てをもらったが、それを見ていた欲張りな男は、古い斧を投げ落とし、自分が落としたのは金の斧だと嘘をついた。そして怒った女神様に落とした斧も返してもらえず、何も手に入れることは出来なかった。  と、いうことはここで俺がこいつに「落としたのはβの雄介だ」と本当のことを素直に答えた場合…  一、α、β、Ωそれぞれの雄介が全部もらえる  二、本物のβの雄介だけ返してもらえる  三、α、β、Ωの中から好きな雄介が選べる  寓話通りなら、このまま全員が貰えるはずだが…人間の場合はそういうわけにはいかないだろう。  どうしたらΩがもらえるだろうか。  俺が落としたのは、というかこの汚い沼に誤って落ちたのは友人の加賀美雄介だが、彼はβ性だ。俺はずっと雄介がΩだったら良かったのに、と思っていた。  だって俺はーー…ずっと雄介が好きだったから。  ☆★☆  この世界には男女の性の他にα、β、Ωの三つの性がある。割合で表すとαが二割、βが七割、Ωが一割で、βが大多数を占める。αは見目が良く、あらゆることに能力が高く、優秀で社会的地位が高い人が多い。Ωは華奢で儚げな美しい容姿の人が多く、三ヶ月に一度ヒートと呼ばれる発情期があり、男女共に妊娠が可能である。αとΩのカップルには必ずαの子供が産まれるため、優秀な子供が欲しいαはΩの伴侶を求める。伴侶のことを(つがい)と呼び、発情期にαがΩのうなじを噛むことによって番となり、お互いのフェロモンでしか発情しなくなる。  Ω性が男女共に子を孕めることもあり、世間では表向き同性愛には寛容だが、それはあくまでも子供が作れる前提があることであって、俺たちのようにαとβの男同士や、βの男同士・女同士のような、子供が生まれない組み合わせの関係は許されず周りから冷たい目で見られることが多いのだ。特に優秀なαの相手が普通のβ性であるとその傾向が強い。  俺は優秀な上位αであり、一人っ子で、誰もが名前を知っている大手ホテルチェーン経営者の息子でもある。後継を必ず作らなければならない。そのため成人を迎える二十歳までに番を作り子供を作らないと、親族が決めた由緒正しいΩの女性と政略結婚しなければならなかった。  だからαの俺がβである雄介と結ばれることはないのだ。  俺は小さい頃からよくモテた。勉強もスポーツも特に何もしなくても出来た。常に俺の周りには女の子だけじゃなく男の取り巻きが引きも切らずまとわりついた。185センチ越えの高身長にαの父親譲りの彫りの深い容姿、柔らかな褐色の髪と灰色の瞳は北欧出身だった曽祖母から受け継いだものだ。  一方で雄介はβ同士の普通の家庭に生まれたβだった。背こそΩのように小柄だがΩのように美形ではなく、群衆に埋没しそうな普通の顔をしていてほんの少しだけぽっちゃりしている。でも俺はその普通の顔見た目が可愛くて仕方がない。目の前に絶世の美女が現れたとしても雄介の方が絶対に可愛いと思う。恋は盲目? 何とでも言えばいい。  それに、雄介の肌は白く滑らかで張りがあり、大福みたいにもちもちしていて、肌を合わせるととっても気持ちがいい。乳首だって、とれたての苺のように赤くてぷっくりしていてツンと上を向いていてとても綺麗だ。ま、絶対に誰にも見せてやらないし、触れさせないけどな。  俺が初めて雄介に会ったのは小学校に入学した日の教室だ。苗字が『オリハラ』と『カガミ』なので、出席番号順に席が決まっていた教室で席が前後ろだったことから話すようになり、小、中、高校全て同じクラスの腐れ縁だ。俺は高校からほぼαで構成されている県下でも難関として知られる進学校へ進んだのだが、勉強だけはα以上に出来る雄介はβ性なのにも関わらず、同じ高校へと進学した。 「うちさぁ、下に弟妹がいっぱいいるじゃん。つーちゃん(俺のこと)のところと違って一般家庭だからそんなにお金ないし、勉強だけは出来るから特待生で入れる高校がよくって」  それで難関進学校へ特待生として入れるのだから、雄介がどれだけすごいやつか分かるだろう。  学校に入学してからの三年間も成績は学年五位以内に留まり続け、一度たりとも落ちることはなかった。想像してくれ。特に優秀なαが集まった進学校で、βがαを押し退けて優秀な成績を収め続けるんだ。涙ぐましい努力があったに違いない。  そんな雄介は、おっとりしていて毒気を抜かれるほんわかした春のような空気を纏っていて、いつも笑顔のとても友達想いの優しいやつだ。ころころした見た目も相まって、まるで宝船に乗った福の神のよう。傍にいたらこっちまで幸せな気分になる。運動神経が壊滅的でちょっとだけ間が抜けている所がまたチャームポイントだ。  優秀なαの中に一人入ったβの雄介は、尊敬される一方で嫉妬したαに絡まれることがたまにあったが、その悉くを俺は影で潰してきた。その行動はまるでΩを囲い込むαのようだと言ったのは誰だっけ?  例え俺たちの関係が許されないものだとしても、俺は雄介が好きだ。雄介を諦めるわけにはいかない。諦めたくない。  だって雄介は俺の、俺だけの(つがい)だ。    雄介はβなのにそう思うなんて変だと思うだろ? 俺もそう思う。でもどうしてか何処かで俺は雄介を求めていた。キザっぽく言うと魂が惹かれ合うっていうの? そんな感じ。俺は初めて会った時から雄介が自分の「運命の番」だと思っていた。中二のバース検査で雄介がβだと判明してもその想いは消えなかった。だから俺は雄介をβからΩに出来ないか、ずっと調べ続けていた。  怪しげな宗教、噂、神頼み、ネット、どんな些細な情報でも、βからΩになった人の情報を集め続け、ありとあらゆる噂を色々と試した。その中には「βの腹に子種を毎日のように注ぎ続ければβ性人もΩになる」なんて俺にしたらご褒美のような都市伝説もあった。もちろん雄介で試させて頂きました。噂は噂でしかなく雄介はΩにはならなかったが、夏休み期間中、毎日のように家の離れに連れ込んで毎回気を失うまで抱いたからよしとしよう。ご馳走様でした、美味しかったです。  そしてとうとう辿り着いたのがネットの、ある怪しげなサイトの情報だった。  投稿者の書き込みによると、ある沼に物を投げ入れると、神様が現れてイソップ寓話集の『金の斧(ヘルメス神ときこり)』のように落とし物の選択肢を三つ出され、落とし物は何だったかを聞かれる。そこで本当の事を言うと全てのものが手に入ったとそこには書かれてあった。 『オレが沼に捨てたのは乗らなくなった古い自転車だったけど、正直に古い自転車落としたって言ったら古い自転車と一緒に最新式のマウンテンバイクももらっちゃったぜYeah!♪( ´▽`)』  ……不法投棄はやめようね。落としたんじゃなく捨てたって書いてるし。  しかしその話が本当ならば、人間が落ちた時は?  これってもしかしてもしかするのか?  そこで俺は万が一の可能性に賭けて、さっそく雄介を連れて書き込みにあったこの沼まで来たのだった。しかし連れて来たはいいものの、さすがに泳げない雄介を沼に沈めるわけにはいかなくて、どうしようかと思っていたら、ドジっ子の雄介が自分から沼に落ちてしまったのだった。  そして今に至るっと。 「俺が落としたのはβの加賀美雄介だけど、出来ればΩの雄介を返してくださいっ!」  どうしてもΩの雄介が欲しい俺は、恥も外聞も捨てその場で土下座して叫ぶと、男はは虚をつかれたような顔をした後に苦笑して頬を掻いた。よく見るとそこにも傷があって皮膚が引き攣れるのか、笑うとますます凶悪な面相になる。 「おおぅ。てめえは正直モンだなぁオイ。そんな悲壮な顔すんじゃねぇよ。なんかワケありかぁ? おいちゃんに話してみなよ。こんなナリでもワイは一応神さんだ。相談に乗るぜ」  自分で神さんだって言った!  一見してヤクザさんかと思ったけど、こんなでもやっぱり神様だったのか!  『神』って苗字じゃないよね……?  男は雄介をお姫様抱っこしたままバシャバシャと沼の上を歩いて岸に上がり、草の上にビシャビシャの雄介を置いたあと、俺の前でコンビニ前に屯するヤンキーのようにウンコ座りをした。  むっちゃ男が怖いけど先に雄介の安否だ。まさか死んでないよな!? 俺は草の上に寝かされた雄介におずおずっと近づいた……って胸が上下に動いてるし、すーぴーという規則正しい寝息も聞こえる。ああ、完全に寝てるわコレ。    眠っているだけの雄介に安心して、俺は目の前のヤ神さんに雄介をΩにしたい理由の全てを話した。あ、俺コイツに『ヤ神さん(やがみさん)』って勝手にあだ名つけたから。  話が終わるとヤ神さんは気遣わしげに大きくため息をついた。 「ーーーハァァァ、そうか。金持ちの上位αさまも大変なんだなぁ。恋愛も自由に出来ねぇとは。金持ちは勝ち組で金でオンナ侍らせて取っ替え引っ替えしてヒャッハーだと思うとったわ。どこの世界にも、(しがらみ)ってモンがあるんやなぁ。ワイら極道の世界も大変でさァ……」  自分でヤクザって言った!  なんでこのオッサン、元ヤクザのくせに神様なんてやってるんだろう。  疑問が顔に出ていたのだろう。ヤ神さんは俺に昔語を始めた。 「よくある話だけどよォ。オンナ絡みさ。ワイの運命の番が当時敵対してた組の幹部の愛人でサァ。お互いの手を取って遠くに逃げ出そうとしたら二人してすぐ捕まって、ワイだけコンクリに詰「わーーーーーーーーっ!!」」  はあはあ。俺は何も聞いちゃいない。うん、聞いてないぞ。 「んだよ、うるせェなァ。で、人気のないこの沼に捨てら「あーーーーーーーーっ!!」」  と、いうことはこの沼の底には……。うん、考えない! 考えないでおこう。 「そしたらさぁ、ここら一帯の一番偉い神さんがワイのとこ来て、ちょうどこの沼の神さんが、恋した木こりと一緒になりたいからってその偉い神さんにお願いして、人間にしてもらって木こりと所帯を持つってんで、オメエどうせずっと沼の底にいるんだし、新しい神さんが赴任するまでここで神さんやれよって言われたから神さんになったのさァ」  偉い神様、超軽っ!! 「でさァ、ワイがこうやって沼で落とし物を拾ってやって人の役に立つ善行を繰り返せば、好きだったオンナがいる天国に迎えてもらえるってその神さんに言われてよ」  そう言ってヤ神さんはまたも凶悪な顔でにかっと笑った。笑顔が怖すぎて善行が台無しになってるぅ……。 「んじゃまぁ、そういうこったからオメェが欲しいって言うΩ性になった加賀美雄介をやるよ。大事にしな」  ヤ神さんはおもむろに、ふんどしに挟まってたコイを雄介の口に押し込んだ。 「うわぁぁぁぁ何してんのっ!!!」 「ああァ?」  慌てて止めようとしたらヤ神さんにメンチを切られ、なす術なく雄介の口にコイがするする入って行くのを見届けた。 「よっしゃ! これでコイツが目を覚ます頃にゃあΩになっとるはずさ」  コイを生で食べたはずなのに、雄介の口には血もついてなければ何かを食べた形跡もなかった。コイに見えたけど、もしかしたら魚じゃなく、神様の何らかのすごいアイテムだったのかもしれない……。  半信半疑だったが、食べた魚の生臭いにおいじゃなく、たい焼きのような美味しそうな甘い匂いが雄介からかすかに漂ってきた。雄介が食べたのはコイじゃなくてタイだった!?  じゃなくて、この匂いはもしかしたら雄介のフェロモン……!!  本当に? 本当に雄介はΩになった!?  ヤ神さんはばちこ〜〜んっと俺にウインクした。まさか、ほんとに? ジワジワと喜びが溢れてきて、俺の目からは滝のように涙が出てきた。今なら涙の滝をコイに登らせて竜にすることすらできそうだ。 「あ、あ、あ、ありがとうございますっ! きっと俺、この沼の水全部抜いてあなたを見付けて弔いますっ!」 「オウよ。この沼は底に色んなもん沈んどるし、たぁくさん外来魚なんかも住み着いとるからそいつらの駆除も頼むわな。ま、期待せずに待っとるで」  俺が感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、ヤ神さんは片手を上げ、沼にドボンと飛び込み、コポコポと沈んでいった…………。 「う、う〜〜ん……、ここは……?」  コポコポ浮かんでいた泡が消え、小鳥の囀りが聞こえ始めた頃、雄介は眠そうな目をこすりながら起き上がった。雄介からは絶え間なく美味しそうな匂いが薫ってくる。雄介は俺の肩にぽすんと頭を埋めてすうすうと匂いを嗅いだ。 「あれぇ? なんかつーくんから良い匂いがするよぉ。さわやかな……、な〜んか緑茶みたいないい匂いだぁ……」  つーくんとは俺のことだ。そうか、俺は緑茶のような匂いなんだな。うん、たい焼きと緑茶、相性バッチリだ。雄介の濡れた柔らかい髪を撫でると、肩に顔を埋めたまま猫が匂いをつけるように頬をすりすりと擦り付けた。 「たい焼きには緑茶が一番合うからな」 「んんん〜〜? そだね〜〜」  意味が分からず上目遣いで俺の顔を見つめる雄介が可愛すぎだ。ヤバい、早くこの愛しいΩを俺だけのものにしないと。 「いいか、雄介。詳しい経緯はあとで説明するが、お前はここの沼の神様のおかげでΩになったんだ。だから俺はお前のうなじを噛みたい。でもお前がβのままが良いのなら、今ならまだ沼の神様に元に戻してもらうことはできるだろう。でももし俺の番になってくれるのなら……」  ぱちくりと大きな目を瞬かせた雄介だったが、すぐに俺の顔を見て躊躇いなく答えた。 「あ〜、うん。もちろんいいよぉ。だってずっとつーちゃん僕をΩにしたいって言ってたもんねぇ。この沼の神様の話って本当だったんだぁ。念願叶って良かったね。つーちゃん僕のこと大好きだもんねぇ。僕はつーちゃんがずっと傍にいてくれるんならいいよぉ」  ブワァと甘い匂いが辺り一面に立ち込めた。この場で青姦…も捨てがたいけど、このままヒートに入っちゃったら一週間はヤリっぱなしな訳だし、食べるものも飲み物も、ローションもないと困る。  早く早く早く早く。はやくはやくはやくはやk……早くうなじを噛まないと。他の奴らに一瞬たりとも雄介を触られたくないし、この無防備な状態を見せたくないし、匂いも嗅がせたくない。 「ねぇつーちゃん、なんか身体があっついの…。何でかなぁ……」  赤くなった顔を見せる雄介になけなしの理性が崩壊しそう。うう、我慢だ、我慢。俺は自分が着ていた薄手のパーカーを脱ぎ、それで濡れたままの雄介を頭からすっぽりと包みこんだ。俺の大きなパーカーは雄介の小柄な姿を隠してくれた。こうして雄介の姿を誰からも見えないようにして、お姫様抱っこで乗ってきた車に乗せ、俺たちが泊まっているうちの系列ホテルへと車を向けた。  ホテルまで運ぶ間にも雄介からは濃厚な甘い匂いがしてくる。ああ、良い匂い。お腹が空いた。早く美味しくいただきたい。ホテルのマネージャーにすぐに飲食できるものを用意するように頼むと、俺は雄介を急なΩのヒート時にも使用できる完全防音の部屋へと連れて行った。とろんとした雄介の目は俺を誘うように縁が赤く染まっている。  まずは風呂だな。濡れてるから温めないと。  浴室で手早く雄介の服を脱がせて自分も全裸になり、シャワーのコックを捻って少し熱めの湯を出した。浴槽の縁にくったりとした雄介を掴まらせ、頭からシャワーをかけて温めて雄介が茹だったところでシャワーヘッドを外し、双丘を割って後孔に湯を入れる。いつもは恥ずかしいと言ってセックスの前処理だけは自分でやる雄介だけど、今日は記念すべき日。なんでも俺がやってやりたいのだ。  後ろをきれいにしたら全身を洗う。もちろん道具なんか使わない。手だ手。俺の足と足の間に座らせて後ろからホールドするような体勢をとる。ボディソープを手に取って上から順に洗っていく。 「つーちゃん、なんか固いの背中に当たってるよぉ……」  もちろんさっきから俺の息子は臨戦体勢。いつでも使用可能だ。そういう雄介も立派に勃起したものが足の間にあるんだけど。  最初はきれいなピンク色で皮を被ってたんだよなーこれ。俺が包皮を剥いて亀頭を出してやったんだよ。それがこんなに勃っちゃって…と雄介の両方の乳首をふにふに押さえながら思い出す。 「ゆう、一回出しとこうか。自分のこすってな」 「んーー、わかった〜〜」  雄介は俺の言うことをいつも従順に聞く。自分の中心に手を伸ばして竿を掴んだところで、雄介の手の上に自分の手を重ねて一緒に上下にこすってやる。 「あ、んっ。だめだよぉつーちゃぁん」 「うん、ここ、大きくなってる。きもちい?」 「ひゃぁあんっ」  片手で乳首をひねり、片手で強く竿を扱きながらうなじをかぷっと軽く甘噛みすると、雄介は身体を震わせてあっという間に白濁を浴室の床に吐き出した。いつもよりだんぜん早い。Ωはうなじが弱点だってすごくよく分かった。 「ん、ゆう、すっげぇ可愛い。好き。」  はあはあ息を吐いている雄介の顎を掬ってキスをする。最初は軽く二回。三回目は舌で歯をノックして入れてもらい、舌の表のザラザラした所を重ねて舐め合うと、ずくんと下半身に血が集まってさっきよりも自分のがもっと大きくなった。やべ、我慢しすぎてキスだけでイキそう。    慌ててシャワーで泡と白濁を流してタオルで拭くと、抱っこでベッドまでダッシュで運んだ。ベッドの上の雄介は、もちもちの白い柔肌に血が通ってうっすら小豆色になっている。昨日の夜、身体じゅうに散々付けたキスマークや噛み跡が、温かさで一際赤く目立ってエロい。早くこの美味しそうなたい焼きを食べたい。頭からがぶっと。俺はたい焼きを頭から食べる派だ。  ベッドに乗り上げ唇を合わせて舌を絡めると、くちゅくちゅと水の音がする。逃げないように頭を腕でベッドに押さえつけて何度も深いキスを続けた。下唇を噛んで舌裏を舐めて唾液を啜って歯列を舐める。 「ぷふぁっ、ん、つーちゃ、んんんっ!」  苦しそうに息を継ぐ雄介からは絶えず甘い小豆の香りがして、頭の芯を砂糖でとろとろに融かす。ちゅ、ちゅと軽く口付けを唇に落としてから鎖骨をぢゅうっと吸って自分が昨日つけた痕を順に上書きしていく。 「ん、あんっ」  首筋に吸い付くと、思った通り雄介の身体がびくりと反応した。このまま噛んでやりたいのを我慢して口を離し、すぐに場所を変えて俺が大きく育てた乳首に喰らいつく。けっこう強めに噛んじゃった。だって雄介の身体はどこもかしこも甘い。流れる汗も、じんわりと溢れて出てきた涙も、尖った乳首も、もちろん精液もね。はむはむと乳首を咥えザリザリと舐め、片側は二本の指の腹でこりこりとひねる。気持ちが良すぎるのか身体を左右にひねって俺の頭を両手でぐいぐい押して口から乳首を離そうと努力している。こんな美味しいものから口を離すわけないだろ、うん。 「あ〜、ん、だめだっ……って、なんか今日ヘンっ、オメガってすっごい」  するりと指で後孔をなぞるとソコはすでに臨戦体勢でねっとりと濡れていた。毎日のように解されたソコは既に何本指を入れても大丈夫なくらい解れている上にローションをベタベタに塗った時よりも濡れている。つぷりと一本だけ指を入れてみたら、まるで吸い付くように中がうねって指を食い締めた。 「うわ、すげ、ぬるぬる。これなら全部挿れられそう」  いつも大きすぎる自分のものは全部雄介の中には入らずに、前立腺を掠めるくらいしか出来なかったのだが、今日は一番奥まで挿れても大丈夫そうだ。本当はずっと結腸まで犯したかったんだよね。  身体を雄介の下半身に移動させ、足を大きく開かせて肩まで持ち上げると赤くなった縦割れアナルが目に入る。毎日の俺の努力のおかげでここはもう排泄器官であり俺のオナホだ。 「あふっ……ン、」  指を挿れて後孔を広げ、隙間に舌をゆっくりと差し込んで皺を広げるように伸ばしながら舐めると、中は熱くて生き物のように蠢き、縁がピクピクと痙攣するように動く。やっぱりいつもより柔らかい。舌を抜いて試しに指を三本にして中に潜り込ませると、容易にするんと指の付け根まで入った。    指を中でバラバラに動かし、人差し指を折り曲げて指の腹で雄介のイイトコロをゴリゴリと何度も押し潰すと、快楽を逃そうとするのか雄介の腰が自然に揺れ、陰茎は風呂で抜いたばかりなのにだらだらと蜜をこぼしている。中をトントンと叩くと、足の先を突っ張らせて叩くたびに魚のように腰がビクンビクンと跳ねた。 「やぁん、ああン、あっあ、つーちゃんダメぇ」 「ゆうはここが好きだね。気持ちい? まだ出しちゃだぁめ」 「え、う、うん…や、あああ、んっ、あんっあ、ああ……」  射精出来ないように陰茎の根本をぐっと押さえつつ、ずぶずぶと前立腺も掠めながら指を抜き差しする。雄介からはひっきりなしに甘い声が上がる。どこもかしこも甘すぎてくらくらする。そろそろ食べどき。  後孔にぴったりと俺の欲望を添える。雄介のそこは俺を誘うように淫蕩にくぱくぱと開閉を繰り返している。尻たぶを割り開いてずぶりと勢い良く先端を潜り込ませると、抵抗なくするんと中に入った。さすがオメガ。まださすがに全部は入ってないけれど、これなら瘤まで問題なく入りそう……っと。 「あがっ、ああ゛あ゛あ゛っ、やぁぁ、ああぁぁっ!!!」  雄介の手を引っ張り、座った俺の膝に向かい合わせに乗せ、前立腺をすり潰すように下から上へ勢い良く突き上げた。すると雄介の身体の重みでどんどん奥へと俺の固い欲望が入っていく。雄介の背が外に反り、太ももの内側がびくびく震えて手がシーツにだらんと落ちた。額からは汗が、開いた口から涎が、焦点の合わない眼からは涙が落ちて顔はぐちゃぐちゃだ。  あ、もしかしてこれ、雄介中イキしたのかな? 陰茎から何も出てないし。でも俺はまだ出してない。最高に美味しく雄介を食べるためには奥の奥までぶち抜かないとね。 「そろそろ奥までぶち込んでぐりぐりして美味しく食べてあげるね」  何度も何度も雄介の腰を持ち上げて手を離す。もう雄介の意識はほとんどなく、ただ俺に揺さぶられるだけだ。腰を動かすたびに雄介の身体がぐんにゃりと人形のように揺れる。繰り返すうちにだんだんとの奥の固い部分が開いていき、とうとうぐちゅんという音とともに結腸まで開いて亀頭が嵌まった。 「俺と番になって俺のこども、産んでくれるよね?」  ぼんやりした顔でかくかくと雄介がうなずいた。よっしゃ! 言質取った!  ちゅうっとキスを唇に落としてからうなじに犬歯を当てる。うなじからは俺を誘うように最高に甘い匂いが漂う。ヤ神さん、ありがとう。雄介をΩにしてくれて。 「それじゃあーー…、いただきまーーす!!」  大きく口を開けて雄介の美味しそうなうなじに思いっきり噛みついた。 「〜〜〜〜…!! 〜〜〜〜〜〜……っ!!!!」  声もなく静かに雄介が絶頂する。俺も数秒遅れて最奥に欲望を吐き出した。  甘い甘いあまいあまい。どこもかしこも甘い。頭から尻尾まであんこたっぷりの俺のたい焼き。それからもかぷかぷかぷかぷ雄介の身体中を噛んで、吸って、舐めて、もうしばらく雄介以外の甘い食べものはいいやと思うくらい喰らい尽くしたのだった。  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? ……って、またあなたですか。何度目だと思ってるんですか?」  沼の神様はほとりに立つ木こりの男を見て大きなため息をついた。  木こりが自分の斧を沼に落とすのはこれで何度目だろう。あまりにも何度も斧を落とすので、いつしか神様は数を数えるのをやめた。仕事道具を大事にしろ。 「……俺が落としたのは鉄の斧じゃない。俺が落としたのはーーあなたへの恋心だ」  真剣な顔をする男に神様は呆れる。三度目に斧を渡す時、木こりから好きだと告白された。もちろん自分は神様だし、男だからと断った。でも断っても断っても木こりは諦めなかった。好き、好きだと真剣な顔で言われ続けて神様はだんだんと男に絆されていった。  さらに何度か同じことを繰り返した後、神様はとうとう木こりを諦めさせることを諦めた。  気が遠くなるほど遠い昔。この沼には竜神が住むと言われていた。ある年、村に酷い日照りが続き、村人たちは竜神に人身御供として村で一番若くて健康な男を沼に捧げた。そのおかげで雨が降り、村の日照りは解消された。その時、人身御供にされた男がこの沼の神様になった。  沼の神様はこの辺り一帯の一番偉い神様である竜神に、自分を人間に戻してくれるようにお願いした。この竜神こそ村人たちに沼にいるとして崇められた竜神である。竜神は長年自分の代わりに沼を守ってくれたことに感謝して、礼として男を人間にしてくれると約束した。  今日も目の前に斧が落ちて来た。沼の神様は木こりが落とした斧を持ち、水面へと上がって木こりに言った。 「あなたが落としたのはこの鉄の斧ですか? それとも俺ですか?」  びちっと大きくコイが跳ねた。  ……END……

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