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第1話

部屋はどれにしますか? パネル前で問われて、毎回同じ場面で後悔が浮かび上がっている。 落ち着いた雰囲気で分かりにくいかもしれないが、付き合い初めて日の浅い恋人は歳下だ。 しかも、高校生。 ゲイの知り合いの中で、聡太の歳下嫌いは有名だ。どれだけ魅力的であろうが、歳下とは寝ない。声をかけられても徹底的に無視をして相手をせず、寄せつけないことをモットーにしていたのに。 けれど、高校生とは思えない骨格は好みだ。可愛さの欠けらも無いない印象で、表情豊かではないが、聡太に向ける笑顔は優しい。 「……」 返事をしなかったのは聡太だが、正義は勝手に部屋のパネルをタッチした。 「あ!俺、何も言ってないだろ」 「俺に見蕩れて何も言わないから」 「ばっ、見蕩れたんじゃねーもんっ」 「……」 何故か不機嫌そうに眉を寄せた彼は、聡太の腕を掴むと指定した部屋まで移動した。 引き摺られるようにベッドに投げられてしまうこのパターンが多過ぎる。もしかして、正義は短気なのだろうか。 「何考えてたんですか」 聡太よりも格段に低い声。 「俺以外の事考えてた?」 聡太に乗り上がる彼の手が、ネクタイを掴んだ。 「…お前のことを考えてたんだよ」 「俺のなにを?」 話しているのに、手は止まらない。まだ慣れないのか、聡太のネクタイを外すのに手間取っている。そんな姿にも胸がときめくなんて、どうかしているだろうか。 「……なんで、歳下の男とこうなってんだろうなぁ〜。とか…」 「その答えは出たんですか」 「え?」 「それ、俺も聞きたい。聞かせてください」 するりと抜かれたネクタイは、綺麗に丸められた。シャツのボタンが外され、スラックスも抜いた正義は、備え付けのハンガーにてきぱきとかけていく。 聡太の衣服を綺麗にした後は、床に自分の服を落として全裸でベッドに戻ってきた。彼の股間はもうゆるく勃ちあがっている。 「…お前さ、自分の服も畳めよ」 「俺のはジーンズでしょ。必要ない。でも、聡太さんのはスーツだから」 未成年のくせに、抜け目ない。こういう気遣いのできるところも気に入っている。 「それで?なんで俺と付き合ってるのか聞かせてくれないんですか?」 「…ちょっと変わってないか?」 「意味は同じでしょ」 がぶりと耳を甘噛みされて、背筋に痺れが走った。舌が耳朶を舐めてきて、自然と声が漏れる。 「ほら、わけわかんなくなる前に言ってください」 「…っ、も、いいだろ…そんなの…っ」 大きな手が聡太の肌を撫でさすり、全身が期待に包まれている。 歳上だから、軽々しく言葉にできるわけが無い。この話題を早く断ち切りたくなった聡太は、首筋にキスをしていた正義の顔を引き寄せて、唇を重ねた。舌先で彼の唇をなぞると、すぐに熱い舌が絡まってくる。 腕を伸ばしても、手が回りきらない逞しい身体も好きだ。 「…聡太さん、早く入りたい…」 若さ故の性急さも好ましい。切羽詰まった表情を目の前にすると、胸の奥と粘膜の奥がきゅうと締め付けられる。これは、正義を好きな証拠だろう。歳下だとか、学生だとかは関係がない。 早くと言いつつも、彼は丁寧に聡太の後ろを馴染ませてくれる。聡太はその正義の手を掴むと、充分だからと引き抜いた。 「…俺も…、欲しい…」 我ながら、セックスとなると素直に言葉が出てくる。自ら足を上げて開き、大きく膨らむ彼のペニスが挿入される所を見つめた。 ぐっ、と圧力が中を開いていく快感を味わっていると、自分のペニスの先からぽたりと蜜が垂れ落ちた。 内壁を擦る正義の腰つきは、いつもと変わらず激しく熱い。彼と交わる度に、少しずつ脳が溶けているような気がするのは、考え過ぎだろうか。 それ程に濃厚なセックスを与えられ続け、心身共に彼の愛に浸されることは、僅かながら恐怖を感じる。 「集中力が足りない」 互いに達して身体を解いた直後にそう言われた。 「してるよ。ってか、なんだよ、集中って」 ペットボトルの水を飲んでベッドに寝転がると、背中に密着してきた。聡太の身体を包むように回された腕に嬉しくなり、見えないのをいいことに笑顔になってしまう。 「いつもより声が出てなかったですよ」 「…その判定、気持ち悪い。データとってるみたいに言うなよ」 「何か心配事ですか」 「何もねぇよ。だいたい、ちゃんとイっただろ。他のこと考えてて射精するか」 「…ならいいですけど」 二人の話し声の中で、微かに音が耳に届いた。聡太は慌てて起き上がり、ソファに置かれていた鞄の中から携帯を取り出した。 「もしもし、太一?」 【そうちゃん?デート中にごめーん!】 向こうから聞こえる愛らしい声は、世界で一番尊い弟の声だ。 「平気だよ。どうした?」 【あのさ、母さんが帰りに牛乳買ってきてって。メールにしようと思ったんだけど、それだと見ない時あるから電話しろって言われちゃってさ】 「わかった。太一は?いつものプリン食べるだろ?」 【買ってきてくれんの?わーい!そうちゃん、大好き!】 じゃあ、あとで。と通話を終えたが、正義といた事を思い出してベッドに戻りにくくなった。 「…相変わらずブラコンですね」 「いいだろ、別に」 「構いませんよ。ブラコンな聡太さんも俺は好きです」 今のはグッときた。鞄に携帯を戻したあと、視線を落として目を合わせないようにベッドに戻り、横になる正義の腕の中に密着した。 「どうかしました?」 癖のある聡太の前髪を手でよけた正義が、額にキスをした。 過去に付き合った相手は、聡太が弟を溺愛していることを知ると非難した。普通じゃないだとか、気持ち悪いだとか。中には、幼い頃に親からの愛情が満足に得られない事でそうなったんじゃないかとか、医者の真似をしたような事を口走る男もいた。 馬鹿にしなかったのは正義だけだ。だからなのか、彼だけがそれを見破った。 聡太が歳下を受け入れない理由。 本当は、実の弟に抱かれたいと願っている。歳下は、弟の太一以外欲しくなかったからだ。 「…どうしたの、聡太さん」 はっきりと言葉にして問われた訳では無い。聡太も、それを明らかにした訳では無い。けれど、正義は全て理解した上で、聡太の全てが欲しいと受け止めてくれた。 「…正義…」 顔を上げて額を合わせ、もう一度抱いて欲しいと瞳で訴えれば、微笑む彼が望みを叶えてくれる。 聡太はキスを受けながら正義の身体を押して、彼の腰を跨いで乗りあがった。 「聡太さんが動いてくれるの?」 「お前、好きだろ?」 本当は、聡太も好きだ。身体を反らして繋がりを見せつけるように揺らせば、射精を堪えて苦しげな顔になる。そんな時は年相応に見えなくもない。いつもセックスでは主導権を取られがちだが、たまには歳上の矜恃を見せつけなくては。 「…っ、聡太さん、ヤバい…」 語彙力のない感想は支配感を刺激する。聡太が意識して締め付けると、こちらの股間に手を伸ばされて掴まれた。 「あ、っ、俺はいいから、ぁっ」 「俺だけは嫌です。聡太さんも…っ」 正義の上で跳ねるように揺らしていたが、彼の手にペニスを愛撫されてすぐに達してしまった。 僅かに聡太の方が早かったせいで、射精して動けなくなった聡太の尻を鷲掴みにした彼が、下から激しく突き上げてきた。 「あ!や、あぁっ、やだっ」 「も、う少し…っ」 逃げる事を許されずに粘膜を抉られ、視界に小さな火花が散ったように見えた直後、やっと揺さぶりが止まった。 正義の身体の上に倒れ込むと、息を切らしている彼の呼吸と共に聡太も上下する。 (ヤバい…。ちょっと、いやかなり…。幸せかも…) 隠さなくていいと言うのは、精神的に楽だ。正義は嫉妬はするが、聡太が弟を可愛がることに対しては何も言わない。彼自身も弟がいるせいなのだろうか。 「…なぁ、正義の弟って名前何?」 「……イった直後にする話題ですかね。ソレ」 「いいだろ、別に。名前」 「…明良です。明るくて良い。って書きます」 長男の彼が「正義」で、弟が「明良」 「笑ってもいいですよ。よくからかわれるんで」 「なんでだよ。いい名前じゃん」 両親がいろんな願いを込めてつけた名前だ。それぞれ想いは違っても、愛しい我が子の幸せを願ってつけられている。 「弟も名前負けしてない感じ?」 「…どういう意味ですか」 「お前は名前そのものじゃん。性欲オバケだけど真面目だし。表情筋死んでそうに見えるけど、俺には可愛く笑うし。だから、弟も明るくていい子なんじゃねぇの?」 彼の胸に頬をつけて話していたのだが、急に動いた彼にシーツに落とされた。 驚いたが、被さる正義が少し照れたように頬を赤くしているのに気がついた。 「…正義、もしかして照れてる?」 「…そりゃあ、照れるでしょう。好きな相手にいい名前だとか言われりゃ、ニヤけますよ」 これはにやけているのか。少しわかりにくいが、やっぱり可愛いと感じてしまう。 「…聡太さん、あんまり可愛く笑わないで」 そう言う自分も笑っていたようだ。まぁ、恋人が可愛いのだから、そうなるだろう。 「なんだよ。笑うなってか?」 「またしたくなるから」 「すればいいだろ。まだ時間あるし」 「太一君にプリン買ってくんでしょ。早くしないと、寝ちゃうんじゃないですか」 聡太の上からどこうとした正義の腰に足を巻き付けて、離れないようにした。 「…聡太さん?」 「やだ。もう一回する」 「でも、時間…」 「だから、早く抱けよ。でないと帰れないだろ」 首に手をかけて引き寄せ、抱き着いた。 「分かりました。じゃあ、時間短縮の為に」 そう言うと、正義は聡太をそのまま抱いて立ち上がった。 「立ちバック好きでしょ?聡太さん」 抱いて運ばれる数秒の間に、もう身体が期待に疼いている。 「…時間短縮でも手は抜くなよ」 「当たり前です。聡太さんを抱くのに手抜きなんて勿体ないことしませんよ」 照れもなくそんな台詞を真顔で言える。そういう所もかなり好きだ。 正義は浴室に下ろされると、自ら正義に背を向けて尻を突き出した。

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