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27 SNSは押し活専用です

 資材調達の部門は、原料などを保管している都合上、高い天井と広いエリアで仕切られている。重量物が多いため、建屋内はフォークリフトなどが走っているが、これらは基本的に危ないので近づいてはいけない。歩行ルートが決まっているのだ。  竜樹と連れだって資材調達部を覗き込むと、作業服姿の作業員たちがそれぞれ仕事しているのが見えた。帽子を被っているのでパッと見では誰が誰だか分からない。芳の赤い髪も、こういう時は埋もれてしまうようだ。 (何処かな)  ひょこっと物陰から顔を出して、様子を窺う。おれは仕事上、頻繁に来る場所じゃないので少し物珍しい気持ちで見学する。 「あれ? 上遠野さん?」 「良輔さん」  聞き覚えのある声に振り返ると、良輔さんが立っていた。ちょうど良い。 「芳、居るかな?」 「ちょっと待ってください。芳ー!」  大声で呼びかける良輔さんに、芳が気がついて遠くから「何だ!」と声を張り上げた。すぐにおれたちの姿に気づいたようで、小走りに近づいてくる。 「なんだ、どうした?」 「ん、竜樹が」  これ幸いにと、芳の作業服姿を堪能する。上下揃いの作業服を着ていると、「ザ・職人」って感じでかっこいい。 (これは推せるわー)  思わずニマニマ笑うおれの横で、芳は竜樹を見て顔を顰めた。 「ごめん、星嶋くん。設計変更で~。ここの部品サイズが変わるのよ~」 「ん。何φ?」 「これなんだけど」 「……メーカー確認するわ」 「ありがとう! ごめんねえ」  平謝りする竜樹だったが、芳が怒鳴ったりしなかったからホッとしたらしい。 「で、悠成はなんで?」 「え? 竜樹が芳に用事があるって言うから。見学」 「……あっそ。職場一緒だったの?」 「うん。グループが違うんだけどね」 「――あんたが、誰かとつるんでるの、初めて見たから」  そうねえ。おれボッチだし。竜樹は気さくな奴だから、おれみたいな陰キャにも変わらず接してくれる。芳に対する態度を見る限り、まあ、調子がいいヤツなんだろう。 「見学すんなら、案内しようか?」 「良いの?」 「おー。その代わり、これ被って」  来客用らしい帽子を被せられる。竜樹が「あ、俺も!」というので、三人で見学することにした。他の部門の仕事を見る機会はさほど多くないので、ちょっと楽しい。設計職場のおれが現場に来ることは少ないし、これから現場の仕事に異動になることは、まずないので、新鮮だ。 「なんだ、悪い奴じゃないな」 「でしょ」  竜樹が芳をほめるので、何故だかおれまで嬉しくなってしまった。  ◆   ◆   ◆ (コラボカフェ最終日に、重大発表か) 『ユムノス』公式からのお知らせに、心なしかワクワクする。ネットでは既に憶測が色々飛んでいて、写真集じゃないかとか、新曲かとか、アルバム発売かも、とか様々な予想で盛り上がっている。一番多い意見はライブツアー開催決定というものだ。おれもそうじゃないかと睨んでいる口である。何しろ『ユムノス』は五周年を迎えたのだ。周年の最初が今回のコラボカフェになると見込まれているが、これで終わりなはずがない。ここから怒涛のお祝いラッシュになるはずで、ライブだってあるはずだ。 (怖いような楽しみのようなっ!)  コラボカフェでは本人は来店しないので、次に会える時があるならライブか握手会だ。握手会は大抵、CDを購入した時に抽選券が入っており、それで参加できるかが決まる。抽選券目的で複数枚のCDを購入するファンは多く、おれもその一人である。さすがに二十枚、三十枚の同じCDを全部聴くことはないので、我ながら環境負荷の高い活動だな~とは思うのだが、公式が出している以上は仕方がない。愛が重いのだ。いつかもっと健全な方法にシフトしていただきたいものである。  ラウンジで缶ビールを買ったあと、夕涼みを兼ねてテラスに出ていたおれは、コラボカフェの同伴者の募集をかけていた。最近は芳や良輔さんと寮で遭遇するのを密かな楽しみにしているので、用事もないのに外をうろうろしていることが多いおれである。 (えーと、13日の初回、一緒に入れる方……)  SNSを通じてやり取りをするため、スマートフォンを片手に文面を考える。おれが入手できたチケットは1組だけ。二人席のものだ。 「何やってんだ」 「芳」  おれが居るのに気が付いたのか、芳がやって来る。芳は隣に座って、持ってきた缶ビールをプシュと開けた。 「んー、SNSで……週末、ちょっと出るから」 「あ?」 「声かけてる」  えーと、この書き方だと譲渡だと思われちゃうか。書き直そ。  文面に集中しているため、芳の表情は解らない。 「知り合い?」 「いや、初対面」 「は?」 「ま、趣味が合う人」 「――」  どうせなら、同じ亜嵐くん担当の子と同席したいよね。他メンも全然好きだけど、やっぱり推しが一緒の方が盛り上がれるし。 「ネットで知り合った、初対面の人と会うの?」 「ん? そうだよ。結構普通だよ」  芳の声に、顔を上げた。知らない人と会うのが心配なのか、芳の表情は暗い。 「……前から、やってんの?」 「うん。まあまあかな。おれの方が条件の合う人探したり」 「条件……」  おれは同担OKだけど、中にはイヤって人も居るしね。席は譲るけど席に付属してるグッズはダメとか、そういうのもあるし。色々よ。 「俺じゃ、ダメなわけ」 「え?」 「――いや、何でも……」 「芳、行ってくれるの?」 「え?」  芳が付き合ってくれるなら、全部解決じゃん。空席も作らないし、同伴者を探す必要もなくなるし、何しろ芳は『ユムノス』には興味がないだろうから、特典もおれが貰えるってことでしょ!? 「良かったー! じゃ、週末ね。約束っ」  芳は少し戸惑った顔をしたが、おれが指を差し出すと指切りをしてくれた。

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