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今はもう道路は舗装されているし、リムジンバスも見違えるくらいきれいなものが走っている。多くの商業ビルが新しく建てられ、経済政策の転換により世界中からたくさんの企業が進出し、世界の工場と呼ばれるように変化していた。
「そうだったんだ。今回もびっくりした?」
「三環路が高架ロータリーになってたり、高層ビルがすごく増えたよね」
5年前、留学生だった孝弘と三環路の広い歩道を散歩した。背の高い街路樹が植えられていたその道はもうなくなっていた。
対向車線に渡るための歩行者用の地下道も無くなって、孝弘に会うためにドキドキしながら渡った思い出だけが残っている。
「そう言えば煎餅《ジェンビン》屋も少なくなったよな」
「孝弘、結構食べてたよね」
屋台のクレープ屋は以前は路上のあちこちに見かけたが、市内では格段に減っていた。日本のような甘いものではなく、丸い生地を鉄板で焼くのはまったく同じだがそこに揚げせんべいにきざみ葱と香草を入れ、トウガラシの味噌を塗って卵を落として四角に折り畳む。
冬は特に熱々の煎餅を食べながら歩く人もよく見かけたものだった。
「そんなに好きだったの?」
「ていうか学校前に毎日屋台いるからさ。オヤジに顔覚えられてて」
「声かけてくるもんね、今日は食べないのかって」
「焼きたてだし意外と腹もちいいからな」
朝ごはん代わりやおやつ感覚でよく食べたと言う。
そう言えば慎ましく暮らす学生なら食費が1ヶ月3000円もかからないと聞いて驚いたんだった。留学生は外国人価格だからもう少しかかるが、それでも1万円ほどで十分まかなえると言っていた。
「道路もバスもだけど北京駅もきれいになったし地下鉄も延びたし、色々便利になったよね」
「そういえば北京西駅ってできたんだっけ。すごくキレイだって聞いたけど」
祐樹が言うと孝弘がそうそうとうなずいた。
「西駅ホントにキレイだった」
「そうなの? 俺まだ行ったことないや」
「香港から直通線じゃん。そうだ、レオン、次は京九鉄路で来るか?」
「勘弁してよー、何時間かかると思ってんの」
京九鉄路は北京西駅から香港九龍までを直行で結ぶ鉄道路線だ。2年前の96年9月に開業し、全長は2397㎞にも及ぶ。
「のんびり鉄道の旅もいいぞ」
「えー嫌だ、ぞぞむじゃあるまいし。あ、でも孝弘もウルムチまで列車で行ったんだっけ?」
「それこそ、ぞぞむに誘われてな。あんな大変だって知ってたら、絶対断ってた」
留学生だった夏休みに新疆ウイグル族自治区まで旅した話なら、祐樹も以前少し聞いたことがあった。なかなか大変な旅だったようで、ぞぞむの手工芸品への傾倒ぶりがわかる旅話でもあった。
「でもこれからもどんどん変わるよね」
レオンが目の前の夜景に目を落としながら呟く。
留学生だった頃を懐かしんでいるような急激な発展を遂げているこの先の未来に期待するような、色んな気持ちが混ざった声だった。北京の街は驚くべき速さで変化している。
「ああ。俺たちにとってはいい変化だろ?」
孝弘がからりと笑って言う。前しか向いていないような力強い声。
「そうだね。ひとまずは櫻花珈琲店を成功させないとね」
「絶対成功するよ。おいしいコーヒーが飲める店は貴重でしょう」
「うん。今のところ、上海店と王府井店はかなり順調だよねー」
カフェとしても物販のほうでもなかなかいい売上げを上げているらしい。
「まだ観光客が多いけど、地元客も増えてきたみたいだし」
「ああ。上海は地元客もかなり多いって聞くよな。やっぱ都会っ子はおしゃれな店に寄ってくるんだろ」
祐樹は写真で見ただけだが、上海店はガラス張りのカフェで内装にもかなり力を入れていた。若い上海っ子を惹きつける、おしゃれに見せるディスプレイに仕上げてある。
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