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「じゃないと少数民族の雑貨なんて扱わないでしょ」
「かもな。でも売れない商品作ってもしょうがないし、雑貨だと単価安くて大した利益にならないから、あんまり雑貨に力入れられるのもな……」
「ぞぞむはもっと拡大したがってるの?」
「いや、さすがにそれはない。新疆には絶対、仕入れに行くって去年からちょくちょく回ってたけど、雑貨だけじゃなくてちゃんとワインとか干葡萄とか利益が出るものも商談まとめてきたし」
「ちゃんと経営者してるんだ」
「まあな。なんだかんだ言って、一番人脈作ってるのはぞぞむだし、店舗の話もそこから来たし。行き当たりばったりで会社立ち上げた俺たちに今回の店舗展開は本当にすごいチャンスだと思ってる」
そうだろうな、と祐樹はうなずく。今の中国はチャンスに溢れていて、目端のきくものがどんどん成功者として名前を上げている。
櫻花公司もうまくその波に乗ってチャンスをつかんで欲しいと思うと同時に、そんな大事な時期に孝弘をここに引き留めていることに罪悪感も感じる。
孝弘はそれを承知で祐樹の側に来たのだとわかっていても、本音では櫻花公司の仕事に専念したいだろう。
商品の買付けや交渉は楽しいと以前孝弘は話していた。そういう折衝が孝弘は好きなんだろうと、通訳として仕事をしている彼を見ていても思う。
そして大理で見た村や工場を思い出すと祐樹は落ち着かない気分になる。自分にはできないやり方で会社を作って来たことをすごいと思う気持ちと、4つも年下の孝弘が自分で道を切り拓いてきたことに対するもやもやとした感情……。
本人は行き当たりばったりなんて言うけれど、会社設立の経緯はそうだったにしても本当に行き当たりばったりだったら会社は潰れているはずだ。
商売はそんなに甘くない。ましてここは中国だ、日本の常識は通用しない。
時流が味方した部分はあるにせよ、ぞぞむは経営者として先を見ているのだろうし、レオンはもっとシビアに利益を上げる経営を目指して三人で頑張って来たのだ。
「そうだ、大連は結局、2店舗同時に出すことにしたってレオンが言ってた」
「へえ。どこに?」
「開発区内と大連駅周辺」
「そうなんだ。どっちもいい立地だね」
「その件で元旦明けにレオンが大連まで来るってさ。祐樹に会いたがってた」
「レオンが大連に来るの? うん、おれも会いたい」
ざっと写真を集めてテーブルに置き、広げたままだったタペストリーを畳んだ。うーんと伸びをする。丸々オフの週末は久しぶりだった。
12月の日差しが二重窓越しにやわらかく差しこんでいる。孝弘が窓の外を見て言った。
「よく晴れてるし、どっか出かける?」
「うん。とりあえずタペストリー用の棒でも探す?」
「そうだな、散歩がてら探してみようか」
「あ。ねえ、もう食べ頃になった?」
「何が?」
「糖胡蘆《タンフール》」
「ああ、ちょうどいいかも」
以前の会話を思い出した孝弘は楽しげに笑う。
「じゃあおいしい糖胡蘆食べて、どっかでのんびりランチデートしようか」
外は零下に近い気温だろうけど、久しぶりの昼間の外出に祐樹は心が弾むのを感じた。
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