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新曲にやられる(1)
次のリハの日は…
例の、不安要素いっぱいなカイの曲と、
僕の…前のバンドでやってた曲の中からの1曲を、
実際にやってみようという課題のもとで集まった。
「おはようございますー」
いつものように、カイの店のドアを開けると…
ああ…やっぱり…
僕の…その曲が、大音量で流れていた。
うーん…小っ恥ずかしい…
「あ、カオルーちょっと来てー」
既にセッティングを済ませて、
小さい音で曲に合わせて弾いていたサエゾウが…
挨拶もそこそこに、僕を呼んだ。
「ここんとこさあー」
そして、珍しく真面目な顔で訊いてきた。
「あの人はこう弾いてるけど…俺だったらちょっと違うフレーズ入れてみたいんだけど…いい?」
「あーもちろんです!」
僕は即答した。
自分の曲を、他の人がアレンジしてくれるって、
すごく嬉しいものなのだ。
サエゾウは、また下を向いて…
黙々と試し弾き続けた。
「ハイボールでいい?」
「あ、はい」
ハイボールを出しながら、カイが言った。
「すげー世界観ある曲だよね、これ」
「…そうですか…?」
「うん、他のもよかった…いずれ演りたい」
「ありがとうございます…」
僕は、ハイボールを飲みながら…
ちょっと照れ臭そうに、煙草に火をつけた。
「おはよー」
シルクが入ってきた。
「あっ…おはようございます…」
彼に会うのも、あの日以来だった。
何となく…僕は、首の後ろら辺が熱くなった。
特に何も気にするでも無く…
シルクもハイボールを注文してから、
さっさとセッティングを始めた。
セッティングを終えたシルクも、
カウンターに座った。
そして煙草に火をつけた。
サエゾウは、なかなか戻って来なかった。
「サエ、ヤル気満々じゃん…」
「ねー今日すげー早くから来てたよ」
「…」
「そーいえば、こないだあのあとどうなったの?」
思い出したように、カイが訊いてきた。
「サエとショウヤは帰ったらしい」
「カオルは?」
「次の日までいたよー」
「そーなんだ」
「楽しかったよ…ね、」
シルクは僕の方を見てニヤっと笑った。
「…」
僕は、たぶんちょっと顔が赤くなった。
暗くて分かり辛かったと思うけど…
「あーそれでサエ気合い入ってんのかもな…」
カイが呟くように言った。
僕には、カイの言ってる意味が分からなかった。
「…そろそろやるか」
言いながら、カイがカウンターから出てきた。
シルクも、僕も…所定の位置についた。
「サエ、大丈夫?」
「ああ、やってみるわー」
「じゃあ、せっかくサエがノってるから、カオルの曲からやってみるか…」
「そうねー」
ああ…自分の曲を、初めてやってもらうときって、
すごく緊張する…
「ベースから入る?」
「とりあえずカウントちょうだい」
カンカンカン…
ドドッ…
バスドラとベースの重低音から始まる曲だった。
もう最初の、その部分だけでも違う。
カイとシルクの…
この異常なほどの重低音の一体感は何なんだ?
って思う…
そしてまた気持ちよく…僕は歌を乗せられる…
そこへ…
メロディアスな、サエのギターが絡まってくる…
うおおー
サエさんのギターめっちゃ良い…
音も良いし、若干アレンジされたメロディも良い…
そんな感じの、妖しげなAメロが続き…
突然激しいサビに入る。
ギュイーン…
初めて合わせるとは思えない!
まさにここで、この勢いが欲しかった。
期待通り…いやそれ以上の音を…
彼らは奏でてくれた。
…気持ちいい…
そしてまた、妖しげなことこの上ない、
サエゾウのギターソロが鳴り響いた…
ああ、サエさん…やっぱ凄い…
その後ろで淡々と…
2人の重低音がそれを支えていた。
この人たち…ホントに凄い…
そしてまた、激しいサビで…
3人の音が、気持ちよくドカンと出てくる…
僕のテンションもドカンと上がった。
そして最後はまた…妖しいギターからの、
2人の重低音で、フェイドアウトするように終わる。
曲が終わった。
「…いいんじゃない?」
「作者的にはどう?」
「俺、平気だった?」
「…」
僕はまた…
その場にフラフラとへたり込んでしまった…
「あー大丈夫みたいよ」
サエゾウが、いつもの感じに戻って言った。
「また勃っちゃってるみたいだからー」
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