70 / 398

ふたりの時間再び(4)

少し落ち着いてきた僕に向かって、 シルクが言った。 「風呂入るか…」 「あ…うん」 「一緒に入るわ…てか、一方的に洗ってやるよ」 「…はい…」 彼は、買って来たものをキッチンで整理してから、 タオルを出してきた。 そして僕の手を引いて…風呂場にいくと、 まず自分が全部服を脱いだ。 シャワーの栓をひねって、 それがお湯になったのを確認してから… 彼は、僕の羽織っていたシャツを脱がせた。 「熱くないですかー?」 僕の髪にお湯をかけながら、シルクは言った。 「…はい」 彼は僕の髪をシャンプーでゴシゴシ洗った。 それから、スポンジに石鹸をつけて… 身体も洗った。 洗いながら…シルクは訊いてきた。 「風呂は入れさせてもらえてたの?」 僕は、すこし躊躇いながら答えた。 「…何回か一緒に入った…」 「あーヤりながらな感じか…」 シルクは、何も気にしない風に答えた。 「俺もヤりたいとこだけど…立ってヤるのは、お前が疲れちゃうから、我慢するー」 言いながら、彼は、僕の身体の泡を流した。 僕は、クスッと笑った。 「顔は自分で洗って」 そう言ってシルクは、 一足先に風呂場から出て、身体を拭いた。 顔を洗ってから…僕はシャワーを止めた。 シルクは大きなバスタオルを持ってきて、 僕の身体にバサッとかけた。 「自分で拭ける?」 「…うん」 それから彼は、 ベランダに干してあった僕の服を取ってきた。 「着替え…洗っといたから…」 「…ありがとう…」 僕は身体を拭き終わって… ようやく自分の服を着た。 いつぶりだ…? もしかして…あの最後のリハの日のまんまか… 「もしかして…リハの日の後に行ったの?」 僕の格好を見て、シルクも言った。 「…よく、覚えてたね…」 「誰よりもお前のこと見てるからねー」 彼は、しれっと言い放って、 僕の濡れた髪を、タオルでくしゃくしゃっと拭いた。 「ドライヤー使う?」 「あ…うん」 「じゃあ、頭…乾いたら、ご飯にしよう」 「…ん」 僕がドライヤーで、髪を乾かしている間… シルクはまたキッチンで、 テキパキと、作業を進めていた。 そういえば… あの日…僕の顔見て、 イチバンに声をかけてきたのは…シルクだったな… 髪を乾かしながら… 僕は、そんなことを思い出した。 見ててくれたんだな… シルクは、お母さんだからなー 僕はひとりで、ふふっと笑った。 そしてまた…たまらない気持ちになった。 ドライヤーを片付けて、部屋に戻ると… すっかりテーブルの支度ができていた。 「うわーー美味しそうー!」 僕は目をキラキラ輝かせた。 大きめの、角煮サイズの豚肉と、 野菜や豆の入ったポトフのようなものと… ゆで卵とカリフラワーの乗った、鮮やかなサラダ。 そしてこんがり焼いたパン。 あとは、白ワインと、スパークリングの瓶と、 それぞれのグラスが、並べられていた。 シルクは、 スパークリングの栓を、グリグリと回した。 ポンッ! 気持ちの良い音が響いて、 瓶の口から白い煙のようなものが、 スッと立ち上がった。 彼はそれを細長いグラスに注いだ。 「じゃー乾杯ー」 「うん…ありがとう…」 カチャッ… 甘すぎない、爽やかなシュワシュワ感が… 心地良く口に広がった。 「…美味しい…」 「飲み過ぎ注意だけどな」 そして僕は早速…料理に手をつけた。 「いただきます…」 ポトフのスープは、 透明なのに…色々なダシが複雑に絡み合っていて… それはそれは美味しかった。 大きな豚肉も、ホロホロに柔らかかった。 「なんでこの肉、こんな柔らかいの?」 「低温でじっくり火を通したからねー」 逆に大豆は、絶妙に歯応えが残っていて、 これがまた美味しかった。 「この大豆…美味しいね、良い硬さ…」 「豆から煮たから…」 お母さんすごいなー サラダも美味しかった。 パンも美味しかった。 スパークリングがあっという間に無くなってしまい… シルクは、ワインの栓も開けた。 「だから、飲み過ぎ注意って…」 言いながら彼は、 僕のグラスにもワインを注いだ。 「ふふっ…だってごはんが美味しいんだもん…」 美味しい食事に、美味しいワイン… それを、こんな風に… 大好きな人と一緒に楽しめるって、 なんてしあわせなんだろう… 僕は、しみじみ思った。 「とても美味しかったです…ごちそうさまでした」 「お粗末さまでした」 ワインも飲み切ってしまった。 心地良く酔っ払って、 僕は空いたお皿をキッチンに運んだ。 「…家、帰るよな」 テーブルを片付けながら、シルクが言った。 「…そうだね、帰らなきゃ…」 僕は洗い物をしながら答えた。 「一緒に行くか…」 「…あ、いや…大丈夫」 と、シルクは…洗い物をしてる僕を、 背中から抱きしめて…言った。 「行っちゃダメ?」 「…」 僕は、水道の栓をひねって止めた。 そしてタオルで手を拭くと… ゆっくり後ろを向いて、 正面からシルクに抱きついた。 「…ダメじゃないけど…」 「じゃ行く…心配だし」 「…ずっと帰ってなかったから…たぶん、すごい散らかってると思う…」 僕は、言い訳よのうに… ゴニョゴニョと、言った。 「いやそれって…」 シルクがきっぱり言った。 「出かける前のお前が散らかしたんでしょ」 僕は何も言い返せなかった…

ともだちにシェアしよう!