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5.1 迫害の実態(1)

 迎えの研究員がチャイムを鳴らしたのはきっかり十時だった。浴衣型のゆったりとした検査衣を身に着けた旭が、まだうまく紐を結べないでいるアラタの手伝いをしていると、リビングに何の断りもなく研究員が三人入って来た。 「準備はできたか?」 「まだ。こいつどんくさいからうまく着られねーみたいでさ。ったく、赤ちゃんかよ」  脇腹のあたりで一生懸命紐を結ぼうとする旭を、アラタは何もせずじっと見下ろしていた。 「後は我々でやる」  研究員が旭の身体を引き剥がすと、アラタはつまらなさそうに眉間に皺を寄せた。旭が身体検査と称して服の上からボディチェックをされている間に、アラタの服の紐を別の研究員が結んでやろうとする。しかし、アラタはそれを断ってしれっと自分で結んだ。 「何も持ってないって。監視カメラで服着てる間も全部見てたんじゃないのかよ。……って、そこ、さっきも触っただろ……っ!」  ボディチェックをされていた旭が抗議の声を上げる。 「何かを隠せる場所だからな」  服の上から男の手が旭の尻肉を左右に広げるように揉んだ。開いた割れ目に布ごと手が滑り込んできて、旭はぞわぞわと背筋を震わせる。 「そーいうのは、発情期中だけにしろ……っ。今はオフシーズン、だって……」 「発情期でもないのに昨夜は随分楽しんでいたようだが?」  旭の秘部の入り口を男の指がぐりぐりと刺激する。 「ああ、昨日は確かにこっちは使ってなかったかな。発情期までのお楽しみ、ということか」  旭が屈辱に震えていると、「あの」という地を這うような低い声が部屋の空気を止めた。 「十時からもう二分以上過ぎているのですが」  アラタが厳格な声でそう言うと、男は慌てて旭から手を離した。旭がちらっとアラタを見ると、彼は珍しく目を逸らした。  そんな二人のアイコンタクトを遮るように、二人の研究員が旭の腕を両側から掴んで歩かせ玄関へと向かう。その昔は旭があまりにも暴れて脱走を図ったため、ロープで繋がれていたこともあった。だが、抵抗を諦めた今は少し警備が軽くなっている。アラタに付き添いが一人しかついていないのも、彼が自ら了承してここへ来たという前提があるからだろう。  黒い玄関ドアを開けた先に小さなスペースがあり、すぐ先にもう一枚の白いドアがある。この白いドアだけは内側から開けることができないのだが、今は監視カメラで見ている誰かが自動でその鍵を開けた。  旭の隔離居住区を出てしまえば、外はごくごく普通の病院かオフィスといった風景だ。グレーのタイル張りの廊下も、真っ白な壁も、非人道的な軟禁施設を持っているようには見えない。現に旭の部屋の白いドアも、閉めてしまえば何の変哲もない一室に見えた。 「これは電子ロックですか? まさか停電になった時は閉じ込められたりしないですよね」  アラタはまだ機嫌が悪そうにそんな話を始める。旭といる時と違い、敬語でハキハキとしゃべる彼は別人のようだ。付き添いの研究員は彼にへつらうように扉の鍵の仕組みを話し出したが、旭は彼らの会話を無視した。  廊下を歩いていく方向で、今日は大体どんなことをされるのか想像がつく。発情期が終わって約十日というタイミングからも、今日は生殖器官の検診になるのだろう。それは旭が最も嫌う内容だった。  まさかあそこにアラタも一緒に行くのだろうかと思っていると、ちょうど分かれ道でアラタは別の部屋へと連れて行かれた。彼に見られなくて良かったと思う反面、先程彼に助けられたことを思い出すと少し心細くなった。  旭が通された部屋は少し広めの診察室のようなところだ。奥の方では何人かの看護師か研究員のような人が働いており、手前のデスクの前には四十歳程度の医師が座っていた。 「来島先生、お願いします」 「ああ、内診台に座らせて」  ドクターの指示通り、旭はデスク脇にある診察用の椅子のようなものへ連れて行かれる。医師はカルテに何か書き残すと、キャスター付きの椅子を滑らせて診察台の前へ移動した。 「最近何か変わったことは?」 「あるわけないだろ」  立ち上がった医師は旭の検査衣の紐をするりと解き、前の合わせを開く。彼は旭の下腹部の辺りを押すように触診してから下着に手をかけた。 「腰浮かせて」  旭は少し躊躇ってから、おずおずと腰だけを上に突き上げるように浮かせる。まるで早く脱がせてほしいとねだっているような姿を一瞥してから、ドクターは満足気に下着をずり下げた。 「ほら、股開いて、ここに足乗せて」  医師が旭の太ももをパンと叩く。言われるがままに、旭は膝を立てて両脚を開き、椅子の左右にある台にそれぞれ足を置いた。部屋の奥には何食わぬ顔で作業を続ける看護師、部屋の入り口には旭を連れてきた二人の研究員。衆人監視の中で、旭は自らの恥部を医師に見せつけた。 「どうしてもう濡れてるんだ?」  旭の後孔の周りはうっすらと湿っており、医師はその周りを指でするりと撫でた。 「……っ、それ、は」  部屋を出る前に研究員からそこを刺激されたせいだ。Ωのそこは単なる排泄の場所ではないため、性的刺激によって女のように濡れてしまう。 「ただの検査なのに濡らすなんて、やっぱりΩだな」  医師は旭の入り口から細い内視鏡を入れて診察を進めていく。普通に診ればいいものの、このいやらしい医者はわざとらしく旭の茎や中の性感帯を何度も器具で掠めた。 「はい異常なし」  ずるりと器具が抜けていく感触に、旭はふるふると身体を震わせた。不要な責めによって、旭の前は既にはっきりと勃ち上がっている。明るい診察室の中、先走りを零す旭のそこは、白い電灯を反射して濡れ光っていた。 「Ωの検査に前は関係ないんだ。こんなに涎を垂らしても何もしないからな」  医師は旭の屹立を無視して、今度は別の器具を差し込みエコーで内部を確認していく。しかしその途中、彼はわざと旭の控えめに膨らんだ二つの玉を押さえつけた。 「ほら、腰を揺らすな。淫乱Ωが」  彼の手から逃げようと腰を捩っただけなのに、医師はそう叱ると旭の玉袋をきつく揉んだ。 「っ、そこ、やめ……」  旭が力なく首を振ると、医師は中に入れていた器具を再び抜いた。彼は綿棒を取り出すと、それで旭の内壁をぐにぐにと擦る。 「木戸君」  医師が呼ぶと、奥にいた男性看護師が内診台へと近付いてきた。彼が見ている前で、医師は旭の中の綿棒をくちくちと掻き回してから外へ出す。愛液がとろりと糸を引き、綿棒の先端はぐっしょりと湿っていた。 「これ、検査お願い」  綿棒を出されても、男性看護師は旭に見入っていた。火照った頬で浅く息をする旭を見て、看護師はごくりと生唾を飲む。 「木戸君、聞いてる?」 「は、はい」  彼は旭のはしたない液のついた綿棒を持って、奥にある別の部屋へと消えていった。 「最後に中を触診しておこうか」  医師はそう言ってから、器具ではなく彼の指を旭の中に埋め込んだ。ぬるぬるに湿ったそこは、彼の指を難なく奥へと導いていく。内壁をぎゅっぎゅっと押しながら少しずつ進み、ある一点を押し込んだところで、旭の身体が弓なりにしなった。すぐ通り過ぎていけばいいものを、医師はわざとそこを二度三度と刺激し続ける。 「……っ! さっさと……奥に……進め、このエロ医者!」 「悦んでいるくせに。君はいつも身体と口が一致しないな」  医師がそこをより強く突き上げる。旭は声が漏れそうになるのを堪えようと、口に手を当てた。 「は……っふ……ぅ」  いつの間にか増やされた指でごりごりと前立腺を責め立てられる。旭の性器は触られてもいないのにはちきれんばかりに大きくなって、指で突かれるたびにぷるぷると揺れた。  後ろだけでイキそうになったその時、医師の指は前立腺を離れて奥へと進む。外側から下腹部を押してΩの胎を触診した彼は、そのまま何もせずに指を引き抜いた。 「はい、終わり。異常なし」  絶頂の直前で放り出された旭は、足を開いたまま後孔と性器をひくつかせている。 「ほら、もう足も閉じていいし、下着を履いて服を直しなさい。次の検査があるんだろう?」  医師にそう言われても、旭は足を広げたまま身体を震わせていた。 「次は尿の採取の予定です」 「あーあ、じゃあこれ一回抜かないと」  入り口付近にいた研究員と医師がそんな会話をしているのを、旭はぼんやりと聞いていた。 「ほら、聞いてたか? それ、早く何とかしなさい。自分で、できるだろう?」 「ついでだからこの紙コップに尿も出してもらいましょうか」  医師だけではない。入り口に突っ立っている研究員も、奥で作業をしている看護師も、皆密かに旭の行動に注目していた。 「ほんっとαって性格最悪だな……エロ親父……変態、チビ……」  そんな旭の抗議を叱るように医師が旭の先端をぴんと指で弾く。  その時、入り口のドアががらりと開いた。そこにいたのは、白衣の研究員に連れられたアラタだった。

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