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26.2 幸せの在処(2)
噛み付くようなキスをされながら、全身を確認するように隈なく撫でられる。大きな狼が上からのしかかって、獲物を確認しているかのようだ。
こうやって下に押さえつけられることで、旭の中にあるΩとしての本能が目を覚ます。そのフェロモンに当てられて、下半身に当たるアラタの欲望も熱く固くなっていた。
早くもう一度旭の中に戻りたいと言わんばかりに、彼の手が旭の足を開かせる。暴かれた旭の秘所にアラタの剛直が擦り付けられるが、それは旭の谷間をぬるぬると滑るだけで、肝心の場所に入っていかない。
キスを一度止めたアラタは焦ったように二人の下半身を見た。
「何……どうやって入れたらいいか分かんねーの? さすが童貞」
「さっき童貞は卒業している」
「まだ素人みたいなもんだろ」
旭は自らの両手で双丘に手を添えると、入り口のあたりをくぱっと広げてやった。
「ほら、ここ」
アラタは旭の痴態にフリーズしていて、股間も身体もガチガチだった。その間に、旭の入り口から白い物がツツーッと垂れる。
「早く入れて……塞いで。さっきもらったの、零れちゃう」
αをどう誘えばいいか、経験豊富な旭は熟知していた。
案の定、アラタの目の色が獰猛な獣のそれに変わり、彼の熱い楔がドロドロになっている旭の中を一気に貫く。さっき上から彼のモノを飲み込んでいた時とは違う、攻撃的な突き上げに、旭は思わず息を止めた。
一番奥まで入っていたモノは、そこからゆっくりと引き抜かれ、完全に抜け切る直前でまたズブリと奥まで突き立てられる。抜けていく時のジリジリとした感覚と、奥へと押し込まれた瞬間に前立腺を掠める快感がもどかしい。
チラリとアラタを見上げると、彼は荒い息を吐きながら二人の結合部をまじまじと見ていた。
熱に浮かされた頭で、アラタから見えているであろうものを考える。彼の太い欲望が、旭の蕾を押し開いてぬめぬめと出し入れされているのが、そこからはさぞよく見えるだろう。
身体の熱に我慢できなくなった旭は、慌てて彼の腕を掴んで気を引いた。
「な……もっと、早く……。ちんたらするのは、ランニングマシーンとエアロバイクだけにしろ」
煽ってやれば、理性を飛ばした彼は言われるがままに動いてくれた。旭の肩をしっかりと押さえつけて固定すると、抽挿の速度を上げて旭の奥をズンズンと侵略してくる。
「んっ、そう……、もっといっぱい、めちゃくちゃにして?」
アラタの頰に手を触れ、蠱惑的な笑みを見せると、彼の息子は素直にドクンと反応した。大した経験もテクニックもないが、その硬さと大きさだけで旭の中を蹂躙して征服していく。
快感に耐える彼の顔と流れる汗を見ていたら、見るなと言わんばかりにキスをされた。彼の唇は徐々に下へと這い下りて、旭の首筋に辿り着く。番の契約の痕が残る場所まで来た時、彼はもう一度そこをガブリと噛んだ。
「ひぁ……っ」
発情期で敏感になっている旭は、それだけでピュッと白濁を飛ばしてしまう。キュンキュンと中を締め付けながらイッている間も、アラタはお構いなしでピストンを続けた。
「今、待っ、ダメ……っふ、きもちよすぎて、ヘンな声、でる……」
唇を噛もうとするが力が入らない。旭の口からは「ぁん、 ぁん」と甘い喘ぎ声が垂れ流された。
その声に興奮を煽られるように、アラタの動きが強く早くなっていく。既に第一ラウンドで出された彼の精液が、一突きごとにじゅぷじゅぷと音を立てた。
いつもどこか堅い口調を崩さず、氷のような無表情の彼が、今は熱いαの本能を剥き出しにしている。Ωの奥の奥まで入り込もうと必死に腰を振る、そんなαの姿が、生まれて初めて愛おしいと思った。
まだ首筋に顔を埋めたままの彼の頭をそっと抱き、風呂上がりでまだ少し濡れている黒い髪に指を通す。
αが欲しい。
この男の全てを、中に注ぎ込んで満たして欲しい。
Ωの本能と旭の心の声が、やっと一致した。
彼の責めに先程から何度も軽くイカされながら、段々と大きくなる彼の亀頭球の存在を感じ取る。ゴリゴリと擦り上げられるたびに、旭の中は彼の屹立を締め付けた。
アラタの腰に絡み付けた足をヒクリと痙攣させながら、一際大きく中をうねらせる。すると、彼は最後のスパートとばかりにパンパンと叩きつけるように数回抽挿し、旭の中に欲望を注ぎ込んだ。
胸元に彼のはあはあという吐息を感じながら、彼の頭を撫で続ける。今までの発情期に経験してきたセックスとは違い、旭の身体は穏やかに流し込まれる精を受け入れていた。
「はあ……発情中にこの体勢で出されるの、初めてかも」
旭の言葉にアラタがゆっくりと顔を上げる。彼はまだ意識が朦朧としているようで、かろうじて目を眇めることで疑問を表した。
「皆バックだったから。そっちの方が長い間繋がってても楽だからな」
亀頭球が戻って抜けるようになるまで個人差はあるが、早いαでも二十分はこのままだ。足を開く旭に負担をかけまいとしてくれたのか、彼は身動いで体勢を変えようとしてくる。
「いいよ、こっちの方が……キス、できるし」
照れて目を逸らすより早く、彼は旭の唇にかぶりついてきた。
甘い甘いキスを受けながら、彼が残った精液を吐き出すのをしばらくの間受け止め続ける。下腹部も、全身も、セックスの疲労感とは別の何かでじんわりと温かくなった。
「発情期ってさ、いつもホント辛くて、地獄だと思ってた。でもお前と一緒だと、発情期も悪くない。Ωなんて糞食らえってあれだけ反発してたのに、今はこうしてるのが幸せに感じてる。なんか、変な感じ」
もうほとんど精も出し終わっただろうという頃、まだ繋がったままぐったりと抱き合いながら、旭は訥々と語った。
「発情期やΩのことだけじゃない。あの監視カメラのある軟禁部屋だって、このクソみたいな世界だって、お前と一緒なら、少しだけいい場所になる気がするんだ」
ユートピアはどこかの場所にあるわけではなく、誰かと一緒にいる時にふと現れる影か蜃気楼のようなものだ。彼と一緒に死ねるなら、彼と一緒に地獄へ落ちるなら、それでもいいかと思ってしまう。
旭の頭の中にある一枚の写真。並んで座り、眠るように目を閉じた両親の記憶を、旭はそっと抱き締めた。
「なあ、お前、種付けに夢中で聞いてないだろ」
彼の腰に軽く蹴りを入れる。油断するとすぐ旭の乳首に吸いつこうとするから困る。
「っは……聞いてる。旭が俺を愛しているという話、だな?」
「ん……もうそれでいいよ。それにしても、まさか発情期が始まるなんて」
とりあえず今は小康状態に入りつつあるが、またすぐに次の波が来てしまうだろう。
「周期が狂った?」
「そう。なんだろ、お前との最初のセックスで興奮したのかな」
正直に言ってしまってからカッと顔が赤くなる。せっかく終わりそうなのに、また中で彼のものが質量を増したような気がした。
「俺に孕まされたい気分になったのか……」
「孕まない! ……ごめん」
彼がこんなに一生懸命旭の中に種をくれても、この土壌では何も実をつけてやることはできないのだ。
しゅんとした旭の頰を、アラタの大きな手が拭うように撫でた。
「どうして謝るんだ?」
子供ができるかどうかは気にしない。彼の目ははっきりとそう告げていた。だから旭も暗い顔はやめることにする。
「とりあえず今夜は一晩ここで過ごすとして、明日の朝飯はどうする? もう内線で頼めば持ってきてもらえるわけじゃないんだ。……はあ、やっぱりあの研究所の生活って至れり尽くせりだったよな」
そんな嘆きも無視して、アラタは旭の身体を閉じ込めるように抱き締めてきた。
「食事も何もいらない。旭とずっとこうしていたい。トイレに行く時間も惜しい。紙コップに出そう」
彼の問題発言に思わず頭突きする。
「ふっざけんな。そんな恥ずかしいことできるか」
「研究所で会って二日目に既にやった」
「忘れろ! トイレは絶対行く。食事も何か食わなきゃ死ぬぞ」
アラタは額を抑えながらムッと顰めっ面をする。
「なら……お粥を、作る」
旭に褒められた料理をいつまでも披露しようとする彼に、この胸はたまらなくキュッと嬉しくなってしまう。つい先ほどの変態発言も忘れて。
「こ、今度他のメニューも教えてやるからな」
「今度……」
「そうだよ。今日はまだ結婚初日。これからずっと一緒に暮らしてくんだから」
アラタの左手を取ると、彼の真似をして薬指のリングにキスをした。
「この発情期が終わる頃には年越しだろ? 初詣とか行ってさ、スキーとかスノボも行きたいな。春になったら花見をして、ゴールデンウィークあたりにどっかの山でも行くだろ? 夏はもちろん海」
子供の頃、たくさん将来の夢を描いた時のように、旭は未来への希望に瞳を輝かせた。
「旭と一緒なら、どこへでも」
そう言ったアラタが軽く旭の奥を突くと、また甘い疼きが湧き起こる。
その日は一晩中これからやりたいことを二人で考えながら、合間に我を忘れたように互いの身体を求め合った。
しかし、二人で立てた来年の計画の大半は叶わなくなる。なぜなら、一月末になっても旭に発情期が来ず、病院での検査の結果、旭が身ごもっていることが発覚したからだ。
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