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ハッピー・サンクス・ビギンズデー①

 今年も七面鳥が飛ぶように売れた。大通りではでっかいバルーンを浮かべたパレードをやっていて、ホワイトハウスで屠殺される直前に七面鳥が大統領から恩赦を受けたなんてアホみたいなニュースが流れて、夜は家族のもとでグレービーソースのかかったローストやらマッシュポテトやらヤムイモの甘露煮やらパンプキンパイやらを食べて過ごす。  今日はハッピー・サンクス・ビギンズデー。先住民からぶんどった土地での収穫を感謝して七面鳥があちこちで断末魔をあげる、クソッタレでオメデタイ祝日だ。  スーパーでの勤めを果たして、ターキーレッグとビール、フレンチフライの入ったビニール袋をぶら下げて帰路に着く。夜の通りはしんと静まりかえっている。飲食店はどこもかしこも休みで、皆家族のもとで食事をとっている。  俺は田舎に帰る気にはなれず、都会の郊外にあるアパートに帰ってきた。建物のフロントドアの前に誰かいる。燃えるような赤毛で、俺より頭一つ分背が高い。まさか、と思いそこに走る。  ますますソイツの格好がはっきり見えてきた。赤毛の下には茶色のつぶらな瞳、寒さに赤くなってそばかすが散る鼻。薄い唇から聞き慣れた声で 「おかえり、ヨハン」 と俺の名を呼んだ。  死んだはずの、俺の恋人だった男が待っていた。 「……ジェイムス、なのか……?」  まだ信じられない。戦死したはずなのに。ジェイムス――のような男は、コートの合わせ目からボールチェーンを引っ張り、チタン製の板を取り出す。間違いなくジェイムスのドッグタグだ。  そんな、まさか、こんなことがあるのか? 奇跡だと信じるにはまだ確証が足りない。けど、俺の肩に置かれた手の感触はジェイムスのそれとよく似ていて、抱きしめられればジェイムスとよく似た匂いがして、唇を合わせる角度もまるきり同じだった。  俺は夢中でソイツを掻き抱いて、キスを繰り返した。  部屋に連れ込み、キスをしながらマフラーを解きコートを剥ぐ。ベッドに行くまでの道のりには、ヘンゼルとグレーテルみたいに脱ぎ散らかした服が点々と落ちていた。  素っ裸でマットレスになだれ込めば、ジェイムスの口付けは俺の首筋から胸、腹へと落ちていった。興奮からとっくに勃ち上がっている俺のペニスにも口づけを落とし、口に含んだまま舐め回す。頭を上下させて窄めた頬の粘膜で擦られると、気持ち良すぎて頭がどうにかなりそうだった。 「ジェイッ……待てっ、イキそ……」  ヤツはまるきり無視してフェラを続け、とうとう俺はヤツの口内に射精してしまった。なんなく俺のを飲み込んだジェイムスは、俺を抱きしめながら後孔に手を伸ばす。  ジェイムスはローションやスキンのしまってある場所までしっかり把握していて、それらを使って俺の中を解していく。みるみるうちに弾力と柔らかさを持ち始めた。筋トレはサボリ気味だがマスターベーションだけは怠らなかったからな。 「あっ、あっ、あっ……ジェイ、ムスっ……」  後孔で指が抜き差しされるたびに快感の波が押し寄せる。イイところを擦られると腰が指を追っかけた。孔がひくついて美味そうにヤツの指を舐る。 ヤツは息を深く、荒くしてペニスにスキンを被せた。俺の棒っきれみたいな脚を持ち上げペニスを孔に当てると、ぐっと腰を押し付けナカに入ってきた。肩が強張り背中がのけぞる。全部入るとジェイムスは俺を抱きしめてきた。痩せっぽっちな身体はヤツにすっぽり包み込まれる。  やがてヤツは俺の反応を確かめるみたいに身体を揺すり始めた。じれったくて脚で腰を引き寄せれば、ヤツは堪えきれないとばかりに呻めき、サカリのついた犬みてえに腰を振りたくった。前立腺と一緒に快感が押し上げられて頭が真っ白になる。馬鹿みたいに気持ちよくて馬鹿みたいに喘いだ。  相手が本当にジェイムスなら、どんなに幸せだっただろう。  だって、ジェイムスはこんな男慣れしたヤツじゃなかった。童貞丸出しで、俺にアプローチしまくるくせに指一本触れることすら躊躇った。ローティーンのガキみてえに生意気だが、根は真面目で潔癖で純粋で、そこが愛おしくて。本当はずっとジェイムスに抱かれたかった。  目の前にいるのがジェイムスじゃないってことを頭から掻き消すために、ジェイムス以外のヤツに抱かれていることを忘れるために、気持ちいいことだけに意識を集中させる。尾骨から腰にかけて甘い痺れが停滞し、突っ込まれるたびに導火線のように背骨を伝って頭の中で快感が弾けた。さっきからイキそうなのか目の前に白い火花が散っている。そう、もっと。もっとだ。全部分からなくなるくらいのモノが欲しい。  自分から腰を擦り付けて強請れば、奥の方まで抉りつつぐりぐりとペニスを押し付けてきた。視界が真っ白に染まり、濁った液体が俺のペニスから飛び出す。  ヤツの胸にはドッグタグが揺れていた。意識が霞む中、俺はその鈍いきらめきを見つめていた。 ✳︎✳︎✳︎  目が覚めると、俺はマルチカムの迷彩服を着た連中に囲まれて、トラックの荷台で揺られているところだった。腕の中にはマークスマン・ライフルがあって、足元を見れば軍用ブーツを履いていた。  見たことある光景だ。デジャヴというやつだ。そして、これが夢だって気づいたのは、 「おい、早いとこブーツに捩じ込め」 とドッグタグを手にした、赤毛に茶色い目を持つ青年が話しかけてきたからだ。  これがジェイムスとの出会いだった。俺はジェイムスにならって、編み上げブーツの紐の部分にドッグタグを差し込んだ。  ドッグタグは二対ある。戦死した国に渡す分と祖国に持ち帰る分だ。これで戦死者を記録する。あとは、首から下げるものとは別にブーツにも入れることで、頭が吹っ飛ばされても個人を特定できる。  俺はジェイムスを見た。ヤツはそのへんのティーンみたいな顔立ちのくせに、顔つきは戦士のそれだった。腹を決めた男の顔だ。  心臓の鼓動が大きく、速くなってくる。たしかに、俺はゲイだ。でもこんな会ったばかりのヤツに、なんて思いたくなかった。胸の高鳴りは、きっと初陣に向かうからに違いないとライフルを握り直した。   ✳︎✳︎✳︎    

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