9 / 9

後日談

「え?はじめてだったの?」 「悪いか」  バスルームで会話すると声が響く。酒をあけ、フレンチフライだのピザだのチリコンカンだの好きなだけ飲み食いした後は、ソファの上でいちゃつき始めてベッドに移ってーーあとはまあご想像の通り。  深夜に素っ裸でヨハンとシャワーを浴びている。 「ジェイムスとはセックスしてなかったの?」 「まあ、最後までは、したことない」  ああ、ジェイムスと会ったのは戦場だったからな。それにジェイムスは奥手だったし。   ヨハンは美人だから尚更だ。エキゾチックなうねりのある黒髪や切れ長の緑の目が、小さな顔に芸術的に収まっている。  でも、キスマークが映える白い肌と妖艶な腰のくびれを見られるのはオレだけの特権だ。だけど 「最初に言ってくれたら、知ってたらもっと優しくしたのに」  蛇口を捻ってシャワーを止めた。とたんにバスルームから音が消える。  だって、こんな綺麗な子がキスしてきてベッドに誘ってきたら、我慢なんてできるはずないじゃあないか。  オレは戦場に行く前からヨハンのことを知っていたんだぜ?訓練生にかわいい顔して優秀な子がいるって聞いて、演習場で初めて見た時から忘れられなかった。マークスマンライフルを構えて的を狙う横顔が、氷でできた彫刻みたいに冷たくて鋭くて綺麗だった。その子の名前が、ジェイムスのやつから出るとは思わなかったけど。新兵のくせに、同じ顔をしているのに、なんてすごく悔しかった。ヨハンもジェイムスを愛しているみたいだったからよけいに。  そう、オレは悔しかったんだ。ジェイムスとたくさん想いを交わして愛し合ったんだろうなと思ったら、ヨハンをめちゃくちゃに抱き潰してしまいたくなったんだ。  ごめん、と言いかけた唇を、ヨハンはキスで塞いだ。 「もういい」  とふいと尖った横顔を見せる。ああ、そうじゃないんだよ。だけどオレがジェイムスのことで謝るとヨハンは怒るから、もう何も言わないでおく。  ヨハンの細い腰に手を回しキスを返す。小さな尻に手を降ろしていき円を描くように撫で回した。指で谷間をなぞり、さっきまでオレのペニスを咥え込んでいたアナルに侵入する。ローションと精液のぬめりが残っていて、ナカをかき混ぜるたびにヨハンの身体がうねった。いい子だ。きちんと快感を拾いあげている。  初めてセックスした時あんまり積極的だったから、ジェイムスに抱かれていたのだとばかり。そうか、オレが初めてだったのか。あ、やばい。顔がにやつく。  すると、ヨハンはオレの腕を押し退け指を抜いた。バスタブにしゃがみ込み、オレのペニスの前でぱかりと口を開き 「こっちは処女だけど。どうする?」  獲物をいたぶるネコみたいにニヤリと笑った。唇から赤い舌をのぞかせるヨハンから毒々しいほどの色気が溢れる。普段は素っ気ないくせに、こうして気まぐれに積極的になるから始末が悪い。今すぐ喉奥まで突っ込んで犯したいなんてぶっそうな衝動がよぎる。 「オレがもらっていいの?」 頭を撫でると、ヨハンは挑発的に目を細めた。ホントにネコみたいだ。 「舐めて。オレのかわいい子猫ちゃん」 そう、オレのだ。むっと口を結んで眉を顰めた顔も、それでも健気に奉仕する小さな舌や口も。ヨハンが反り返ったペニスの裏筋を舐め上げるのに合わせて、背筋にゾクゾクと快感が走る。小さな口いっぱいに亀頭を頬張っているのは見ているだけで唆るものがある。  ヨハンも興奮しているのか、もどかしそうに擦り合わせる内腿の間から勃ち上がったペニスが覗いていた。  ヨハンに四つ這いになるよう促すと、フェラを続けながら発情期の猫みたいに尻を振る。左右に揺れる尻尾まで見えてきそうだ。無意識なのだろうけど、言ったらやめてしまいそうだから黙っておくのが賢明だ。  また孔に指を入れて可愛がってあげれば、膨張したペニスに押し潰された喘ぎがヨハンから漏れた。ビクビクと身体を震わせながらもペニスから口を離さない。後ろをいじられながらも健気に吸いついて愛撫を続けようとする。  ゾクゾクした。きっと処女だって聞いていても、優しくするなんて無理だったな。今だってヨハンの頭を押さえて腰を振っている。くぐもった声が苦しそうで、長い睫毛が涙で束になっているけれど、それもよけいに興奮を煽る。  もうしょうがないよね。こんないやらしくてかわいい姿を見せられたら。 「はあ・・・気持ちいいよヨハン」 彼の口の中は熱くて柔らかい。タフィーみたいに蕩けてしまいそうだ。それも悪くないけど、やっぱり可愛らしく啼くのが見たい。  一気にペニスを引き抜いて、ヨハンの腕を引いて立ち上がらせる。壁のタイルに彼の体を押しつけて、バックからペニスを突き刺した。ヨハンの甲高い声が反響する。 「ごめんね、っ・・・優しくできなかった。気持ち良すぎて」  腰を打ち付けながらヨハンの耳元で言う。ヨハンは嬌声を上げていた唇をぐっと閉じて、オレをキッと睨む。そんな顔さえセクシーで困る。 「だから、っそうしなくていいって言っ・・・んんっ・・・言ってんだろうが」  本当に、なんでこんなにかわいげがないのにかわいいんだろう。顔を寄せてかぶりつくように口を塞ぐ。ヨハンの身体を壁に押し付けるように突き上げた。 「んっ・・・ああっ・・・!サム、冷た・・・っ」 「ん?タイルが冷たかった?ごめんね」 身体を少し離したけど、また意地悪がしたくなった。ヨハンのペニスをそっと持ち上げ、ピストンに合わせて先端をタイルに擦り付ける。 「ああっ!あぁっ!サム・・・やだっ・・・あっ!」 ヨハンの声が上擦って背中がしなる。お気に召したようだ。中も締め付けてくる。自然と腰の動きが早くなった。ペニスをタイルに擦り付ける手がおざなりになるけれど、ヨハンの腰が勝手に動いていた。 「ヨハン、イこう?一緒に・・・」 ヨハンは何度も頷いて、オレの動きに身を委ねた。跳ねる細い腰を両手で掴んで押さえつけ、引き寄せながら中を穿つ。ヨハンは法悦の声をあげて全身を痙攣させた。肉壁がオレを締め付けてうねった。たまらず腰を打ち付け、何度目かでぷつりと何かが切れる音がして目の前が真っ白になる。排尿感に似た快感の波に飲み込まれて息が止まった。  波が去った後、目を開けて息を吐き出す。全力で走った後みたいに息が乱れる。ヨハンも肩で息をしながらバスタブに蹲った。 「大丈夫?」 ヨハンは無言だった。背中をさすりながらシャワーで性液や汗を流していく。やがてヨハンはふらつきながら立ち上がって、後は自分でやるってバスルームからオレを追い出した。  ちょっとやりすぎだったかな。でもヨハンが魅力的すぎるからいけない。一晩中だって抱ける。次の日口を聞いてくれなくなったからもうしないけど。  ベッドの上でくつろいでいると、Tシャツとジーンズに着替えたヨハンが潜り込んできた。  おやすみも言わずにオレにピタリと身体を寄せる。もぞもぞと収まりのいい体位を探し、やがて動かなくなった。やっかいなことに、ここでオレが触ろうとするとどこかに行ってしまうからじっと我慢する。しばらくすると寝息が聞こえてきた。本当にネコみたいだな。  オレは笑いを噛み殺しながら、とびきり綺麗で気難しい恋人を、そっと抱きしめて目を閉じた。 end

ともだちにシェアしよう!