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1.薄月の下で

ふと夜中に目が覚めた。寝る前に葡萄酒を飲みながら月を眺めていた。 今夜は1人だしつまらないと思っていたが、偶にはぼんやりと外を眺めて酒を飲むというのも良いものだ。 (何だか目が冴えてしまったな……) 僕はベッドから身体を起こし、側に置いておいたブルーのバスローブを羽織る。 ペタリ、と、床に足を下ろし、明かりを落とした暗い室内を歩く。 「飲み直すか、それとも……」 僕が開けた葡萄酒の瓶とグラスを掴み、屋上へと続く階段を上る。この家は屋上からだと外の景色が良く見える。危険はないのかと言われると微妙なものだが、この場所が知られること自体が問題なのでここにいるのは僕とバディであるリューライトだけだ。 この家は高台にあり、周りには海ばかりなので景色が良く見える。 飲み直そうと屋上へとサンダルを履いて出ると、薄月の中で動く人影が見えた。 (帰ってきてたのか。それで、ココで何を?) 僕は興味本位で出入り口付近に佇んだまま様子を見ていた。 手に握っている刃が時折煌めき、黒い影は軽やかに舞っている。 (戦闘の型なのか?確かに戦う時はいつも舞うように動いているが、その鍛錬、とか?) 静かに見入っていると、初めから気づいていたに違いないリューが動きを止めて振り返った。 「……起きたのか?」 「そういう時もあるだろう?まぁ、もう一度飲み直そうと思って」 僕は手にしていたグラスと葡萄酒の瓶を軽く揺らす。屋上には僕の拘りのテーブルと椅子が置いてある。白く塗られた鉄の椅子とテーブルはヒンヤリとしているが、美しい模様が施されているのが気に入っている。テーブルの上にグラスを置いて、早速飲み直す。 「好きにしろ」 「リューの分のグラスも持って来ようか?」 「いや、いい」 「そう?なら、乾杯」 リューに笑顔を向けても、相変わらず無表情だ。振り返った顔はまた外へと向いて、気にせず鍛錬の続きを開始する。 リューは基本的に黒しか身に纏わない。今、身につけているものでさえ、黒のロングコートと、黒のシャツ、そして黒のパンツ。 かなり激しく動いているように見えるのに、衣擦れの音が僅かしか聞こえない。それほどまでに無駄な動きをしていないということなのだろうか。 一通り終わるまで、葡萄酒を飲みながら見入ってしまう。 「違うのは分かるが、踊り子が舞っているようだな」 「……」 「僕が寝る前とは違って、薄月だけれど。薄っすらと見えるリューが綺麗だ」 そこまで言うと、リューはまた動きを止めて振り返る。 「静かに飲めないのか?気が散る」 「別に綺麗だと言うくらい構わないだろう?」 「……意味が分からない」 「教えてやるから、ここに座れ」 僕が笑んで自分の目の前の開いている椅子を指し示すと、付き合いきれん、と一言漏らしながらも、ナイフをしまい席に着く。 「そんなに睨まなくても、説明してやるから」 「どうせくだらないことを言うのだろうが、少しだけなら付き合ってやる」 「はいはい……まず、リューは、顔立ちも良い」 「……」 分かりやすく呆れられているのが分かるが、僕は気にせず話を続ける。 「それに、さっきの戦闘の型か何かだろう?なのに、洗練されていて、僕からすれば……一種の芸術みたいなものだった」 「お前……酔っているだろう?」 「そんなに飲んでないから安心していい。で、だ」 僕はグラスから手を離してリューの頬へと手を伸ばす。リューは相変わらず仏頂面のままだが、僕が触れるのを止めはしない。 「うん。そうだな。こんなに黒づくめなのに、綺麗だ」 「もういい、中に戻るぞ」 リューは面倒そうに自分の頬に触れている僕の手を掴むと、立たせようとする。その力が思ったよりも強くて、僕はフラリとよろけてしまった。リューはすぐに僕を支えてくれる。

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