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第1話

「みなさん、だいぶ酔っていらっしゃいましたね〜。」 「だな。まったくあいつらイベントをやる度に暴れるのは相変わらずだなぁ」 ここは、カフェ&バー「風月(ふうげつ)。 都心より少し離れた街の駅近く、商店街の外れにある。昼はコーヒーや紅茶と共にケーキやサンドイッチなどの軽食を提供するカフェ。 夜はビールやワイン、カクテル、焼酎なども出すバースタイルになる、昼と夜で雰囲気の変わる小さなお店だ。 河村眞は祖父からこの店を引き継ぎつつ、自分のこだわりを生かし店を経営している。祖父の時代からの客も来るが、最近は若者、特に女性人気が高い店になった。 雰囲気が素敵な店だから、というのももちろん人気の一つなのだが、女性人気の理由は若マスターの眞や、たまに手伝いで入る女性スタッフの新藤、そして最近バイトではいった晴臣の三人がイケメンであると評判なのである。本人達は気づいていないのだが。 そんな新装カフェ&バー「風月」で初めてのクリスマスを迎えた。 クリスマスだからと、眞の同級生が集まり、さらに常連さんも加え大いに盛り上がり、初めてのクリスマスの営業は大盛況で終了した。 …半分、酔い潰れていたのが心配なのだが。 「晴臣、そこのグラス拭き終わったら上がっていいぞ〜!今日は本当にお疲れ様。助かったよ。新藤が少し手伝だなとはいえ、1人じゃ死ぬところだった…」 「いえ、僕こそありがとうございます。この店で働くの、好きなんでクリスマスもご一緒できてよかったです」 「ご一緒って!ごめんなー、彼女と一緒に過ごしたかっただろうに呼び出してしまって…」 「いや、彼女はいないんで…というか…なんというか…」 「あ‼︎小河(おごう)のやつ、忘れ物しやがって!あとで連絡しなきゃだな!」 「そうですね、…これ拭き終わったら落ち着くんで少し休憩しますか?」 「ん、そうだな、じゃあコーヒーでも淹れるか…あれ?晴臣、砂糖とミルク使ったっけ?」 「あ、僕はブラックで大丈夫です!」 「そうだった。お前の兄貴は砂糖ミルクガンガン入れるからなー、大人だな〜晴臣は!」 「大人…ですか」 「っ⁉︎」 気づけば、晴臣は眞を後ろから抱き締めていた。 突然の出来事に眞は一瞬息を詰めた。 「…晴臣?」 なんだ、この状況は?晴臣、もしかして体調悪いのか?と心配になる。 晴臣は友人の晴明の弟だ。働かせすぎて倒れたとあっては晴明になんで説明すればいいのかと頭がぐるぐる回転する。 「…眞さん、眞さんって鈍感ですよね…」 「…鈍感⁉︎俺が?いやいやいや、そんなはずは…」 「好きです」 「‼︎?」 頭がぐるぐる回転する。好きって何?コーヒーが?そんなにコーヒー飲みたかったのか…まってろーもう少しで出来るからな〜 「…ずっと昔から好きでした」 「ちょっと…んん‼︎」 頭がぐるぐる回転する。 これはいったい…。 眞の思考回路はあまりに突然すぎる出来事に追いつけなかった。 彼はされるがまま…ひとまわりも大きい友人の弟である晴臣に口を塞がれた。 「ちょっと…んん!まて…は、はるお…み…っ」 「待ちません…眞さん、ごめんな…さい、ごめんなさい…」 なぜ、謝る…。 ●●●●●●● かつて 吉木晴臣は河村眞の事を尊敬していた。 「晴臣、このお兄ちゃんは眞って言うんだ」 今でも鮮明に覚えている。初めて出会った日。 彼に合わせてくれたこの兄を僕は感謝すると共にあろうことか、嫉妬したのだ。 当時、僕は小学校。彼は中学生だった。 兄もそうだったが、彼は勉強もスポーツもできる学校でも人気者だった。兄はどちらかと言うとおとなしいタイプだが、彼は周りを盛り上げるムードメーカーのような明るい人だった。 兄と彼はいつも一緒だった。羨ましかったのだ。 僕は 彼の人柄に僕は目が離せなかった。 気づけば彼と同じような進路を追いかけるように進んでいた。 「え?バスケ部に入部した⁉︎…もしかして眞のプレイを見て、やって見たくなったのか?」 …兄はお見通しだったようだ。 バスケを始めたからだろうか、僕の身長は意外に伸び、兄を超え、まさかの眞さんも超え、190センチになった。 「久しぶりだな!晴臣!…お前めっちゃ身長伸びたなあ‼︎」 …彼に褒めらた事がここまで嬉しいとは。眞さんに褒められた、眞さんに笑いかけてもらえた…。 この頃からだろうか。僕のなかの「尊敬」はいつの間にか「恋心」に変わっていったようだ。 ●●●●●●● 晴臣の縋るようなキスから逃げられなかった。 「く、苦し…は、はる…お…っみ!」 「眞さん、好きです…好きなんです…」 「わ…わかっ…た、から、落ち着け…っ」 体力を吸い取られたかのような体にありったけの力を込めてようやく晴臣を引き離す。 互いの荒い息だけが空間を支配した。 「…眞さん、急にこんな事してすみません。」 「…あ、いや…なんだ、その…はははっ バイト忙しいから彼女に振られたのを仕返しされたのかなーつって…」 …思ってもないことを言ってしまう。違うそうじゃなくて… 晴臣はなぜ、俺にこんなことを…。 「…眞さん、ずっと前から好きでした。これは、冗談ではないです。」 「は、晴臣?お前もひょっとして酒飲みすぎたか…?」 「飲んでません」 「熱とかは…」 「眞さん」 「ぐっ…」 気づけば、後ろは壁、逃げ道を塞がれた⁉︎ 落ち着け…状況を整理しろ…晴臣はなんて言った?俺が好き?で、あのキス…えええええええっ‼︎ 顔が熱い…晴臣から見れば俺は顔を真っ赤にしているのか…急に恥ずかしくなってきた晴臣を直視できないっ。 「眞さん、かわいい…顔、真っ赤ですよ?」 やっぱりなーーー!みるな!マジで! 「眞さん、すみません、急にこんな事…」 「いや、その…だから…なんで謝る…」 「へ?」 「いや、だから、なんで謝るの…かなー…つって…」 「眞さん、それじゃ…!」 「ちょストップストップ!違う!まて! お前が俺を好きだってことはとりあえずわかった…、で、なんで謝るのかなって」 「…眞さんは本当に優しいですよね…」 「…え、あ、いや…」 「…急にこんな事して、驚かせてしまってすみません。っていう気持ちだったんですが…わかりました。これからは僕の気持ちどんどん伝えていこうって、決めました。」 「え?」 「これからは…覚悟してくださいね…眞さん?」 …とんでもないサプライズと今後どうしようかと…というか、今どうしようかと困惑。そんなドタバタな聖なる夜だった。

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