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第25話 トラブルの火種

こうして僕はヒートを上手く乗り切れた嬉しさでしばらくの間浮かれた日々を過ごしていた。 蒼司と撮影に出掛けるのも段々慣れてきたし、嫌なことがあったら彼に言えば大抵のことはなんとかしてくれる。 (兄弟っていいものだな。元々弟がほしいって子供の時思っていたよりも、実際すごくいい) この歳になって、美容師や従兄弟以外にまともな友人すらいない僕には、蒼司のような存在はとても貴重だった。 恥ずかしいところを見られても見捨てられることなく、安心して頼れる相手。それは今まで父だけだったけど、彼と兄弟になったことで信頼できる相手が増えたのだ。 蒼司にとっては僕はお荷物かもしれないけど、一緒に居て最近は笑ってくれることも増えてきた。だから、嫌われているといっても憎まれる程じゃないと思う。 (兄弟ってそういうものだよね? きっと) 喧嘩したりしながらずっと仲良くできたらいいな、と思う。僕が彼に頼るだけじゃなくて、ちゃんと社会に適応できるようになって彼のことを助けられるようになれれば……。 しかし、自分が思っているほど世の中は甘くなかった。 彼を助けるどころか迷惑をかける事態になってしまうとは、僕にはこのとき全く想像もできなかった。 ◇◇◇ その日、いつものように蒼司は大学に行き、僕は家で受注した作業を淡々とこなしていた。 そろそろお昼ご飯の支度でもしようかと立ち上がったところでインターホンが鳴った。 (あれ、今日指定で何か頼んでたかな) 大体の買い物は未だにネットでしてしまう。なので、我が家には頻繁に宅配便が届く。僕は何を頼んだか記憶を辿りながらインターホンの通話ボタンを押した。 「はい」 そしてエントランスの映像がモニターに映るのを見て僕は息を呑んだ。 (え……アンジュちゃん……?) 『私よ、アンジュ』 「あ、こんにちは……?」 (どうしよう。蒼司くんを尋ねてきたんだよね――今僕しかいないんだけど……) 『開けてくれない?』 「でも、今蒼司くんは不在なんですけど……」 『いいの。あんたヨウヘイでしょ? 今日はあんたに用事だから』 「え、僕に?」 (僕が誰だかわかってて来たの? 蒼司くんに僕と一緒に住んでること聞いたのかな) 彼女が僕に何の用があって来たのかわからないが、ロックを解除し彼女を招き入れた。 アンジュはキョロキョロと部屋を見渡しながら僕の案内に従ってリビングのソファに腰掛けた。 「アイスティーでいいかな?」 「紅茶ならホットで」 「あ、はい」 真夏なので外は暑いはずだけど、体を冷やさないようにしているのだそうだ。 「それで、僕に用って一体何ですか……?」 「本当にあんたここでAoと一緒に住んでるの?」 アンジュが鋭い目で僕を睨んだ。 「うん、そうだけど」 「わかった。じゃあ要件を率直に言うけど」 何を言われるのかと僕は身構えた。 「ここから出てって。Aoの前から消えて」 「え――?」

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