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第38話 父からの連絡

その翌日、僕は熱を出した。濡れたまま外にいたのがまずかったようだ。 「蓉平くん、ごめんね。今日は臨時の学部会議があって……それが終わったら急いで帰るよ」 「大丈夫です、すみませんご迷惑ばかりかけて」 「気にしないで。冷蔵庫の物はなんでも食べていいからね。タオルと、それから着替えをここに置いておくから。シャワーも好きに使って。それから……」 桂木があれこれ用意してくれた上に心配そうに「やっぱり今日は休んで看病を――」と言い出すのをなんとかなだめて出勤してもらった。 ここ最近、急に色々なことが起きてもう頭がパンクしそうだった。今は熱が出ていて思考がまとまらない。だけど、考えてもどうせろくなことにならないから今は全部忘れて風邪を治すことに集中しよう。 (桂木さんには本当に悪いことしちゃった……。昨日はあんなふうにさらっと流してくれたけどきっと傷つけてしまった) その後、うとうとしてそのまま眠り込んでいたようだ。次に目が覚めたのは正午過ぎだった。 「あれ……桂木さん……?」 「ああ、ごめん起こしちゃったね」 「どうしたんですか?」 「休憩時間だから、様子だけ見に来たんだ」 彼は僕の顔を濡れたタオルで拭いてくれ、すりおろしたりんごを持ってきてくれた。そしてまた急いで大学へ戻って行った。 (優しすぎだよ。なんで僕なんかにこんなにしてくれるんだ……) 彼の用意してくれたりんごを食べながら、ぼうっとしていたらスマホに着信が入った。 (父さん……?) なんだろう、まさか僕が実家に帰っていないことに蒼司が気づいたのだろうか。無視しようかとも思ったが、返って面倒な事になりそうだったので電話に出た。 「もしもし」 『蓉平、久しぶり。今大丈夫かな?』 父の声音はいつもと変わらなかった。どうやら僕を探しているわけではなさそうだ。 「大丈夫だよ。どうしたの?」 『今度父さんたちの結婚式で着る衣装のことなんだけどね。日曜日にモーニングを選びに行くんだ。それで蓉平と蒼司くんのスーツも一緒に見に行けばいいんじゃないかなと思ってね』 「え……ああ、そうなの……?」 (蒼司くんとも一緒に、か……。どうする、なんて言う?) 『ちょっと蒼司くんに都合を聞いてみてくれないか』 「あ……それが僕今、中西さんのところに泊まりに来てて」 『中西くんのところに?』 「うん、オメガ同士飲もうよってなって、つい遅くなって……それで僕朝起きたら熱が出ちゃったんだよね。だから週末は行けない、かな……」 『そうだったのか。大丈夫か? 中西くんに迷惑かけちゃ悪いな、父さんが迎えに行こうか?』 「いやいや! 熱が下がったらタクシーでマンションに帰るよ。大丈夫」 『そうか。最近蒼司くんと頑張って外に出てるようだね。彼から聞いているよ。頑張りすぎて疲れたのもあるだろうから、無理はしないように』 「うん。わかった――」 『それじゃあ、中西くんによろしく』 (はぁ~……焦った。珍しく父さんから連絡来たからてっきり家出がバレたのかと思った) しかしこのままだとどこから知られるかわからない。僕は一応、中西に口裏を合わせてもらうように頼むことにした。 『蓉平くんどうしたの? 次の予約、変更する?』 「あ、違うんです。実はお願いしたいことがあって……」 『なになに? 恋の悩み相談とか?』 「そうじゃないんですけど、ちょっと今訳があって家出をしてまして……」 『ええっ! 引きこもりの蓉平くんが家出!?』 中西の叫びを聞いて僕は笑ってしまった。 「たしかに、そう言われればそうですね。次回の予約はそのままでいいです。もし父から連絡が行ったら、中西さんの所に泊まってるってことにしてもらえないでしょうか」 『そんなのもちろん良いよ~! 楽しそうだね。何があったのか、今度詳しく教えて』 中西は電話口で根掘り葉掘り聞いたりはしなかった。 (これで父さん対策はオッケーかな) ベッドに寝転がってスマホを見る。メッセージアプリを確認したが、蒼司からは何も来ていなかった。 (別に、連絡があるなんて期待はしてないけど……)

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