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第37話 落花流水★
薫は自ら一歩踏み出して、エヴァンの胸に額を当てる。
「エヴァンさん、……ぎゅってしてもらえませんか?」
「薫……」
「少しだけでいいですから」
するとエヴァンは震える息を吐き出した。やっぱり迷惑だったかな、と思っていると、彼の腕が動く。そっとそれが腰に回され、酷く安心すると同時に、腰の奥がぞくりとした。
けれど、彼はどこか遠慮しているように見える。そう思って、甘えるように擦り寄って、同じように彼の腰に腕を回した。するとエヴァンは片手で薫の後頭部を支え、そっと引き寄せてくれる。
「薫……」
切なげなエヴァンの声がした。耳に頬を擦り寄せるように顔を近付けてきて、彼の吐息が耳に当たり、肩が震える。
「……っ」
「ああすみません……くすぐったかったですか?」
エヴァンの囁き声に、薫はまた息を詰め頭を小さく横に振った。これはくすぐったいのではなく、別の感覚だ。けれど口に出すのは憚られて、別の言葉で伝える。
「どうしよう……は、離れたく、ないです……」
「……っ」
エヴァンはなぜか息を詰めた。薫も言ってから心臓が忙しく動き始めて、彼に触れたい、触れられたいという衝動に駆られる。
「エヴァンさん……あ、あの……触っても、いいですか……?」
「……っ、薫、今の私は……」
エヴァンの声が震えている。息が上がってきていて、とても苦しそうだ。
「お願いです、……私は貴方を大事にしたい……っ」
そう耳元で叫ぶ声に、薫は誤魔化しようもなく背中が震える。ギュッと、何かに耐えるように薫の服を掴むエヴァンは、やはり明らかに様子が変だ。
「いいですよ。僕は、エヴァンさんになら……」
「薫、今ならまだ引き返せます。離れましょう」
慌てた様子のエヴァンは、そう言いながらも腕を離さない。やはり先程ウーリーに飲まされたのは、素直になれる薬ではなく、興奮させる薬だったのだと察した。
どうしてウーリーがそんなことをしたのか、今は考える余裕がない。けれど、これを逃したらまたエヴァンは遠慮して、抱きしめることすらしてくれなくなるだろう、それは嫌だ。
「……嫌だ」
薫はそう言って彼の背中を宥めるように撫でる。
そして、聞くタイミングを完全に逃したことを聞いてみた。
「エヴァン……って、呼んでもいいですか?」
丁寧語もこの機会に止める、と言う。思えば、シリルもロレットも、出会ってすぐにさん付けを止めたのに、彼だけはそれを聞く機会がなかったのだ。エヴァンがあえてそうさせないように……深入りさせないようにしていたのかもしれない。彼には薫が、死んでしまうと視えていたから。
ちゅっ、と耳元で音がして、ビクッと身体が震えた。そしてその身体を、エヴァンはしっかりと抱きとめてくれる。
「薫……。ああ、かわいいですね……」
また耳にキスをされた。そのまま耳に唇を這わされ、薫は息を詰めてギュッと目をつむる。耳朶にかかる熱い吐息が、エヴァンの欲情を示しているようで、腰に甘い痺れが走った。それでも彼は薫の耳を食むことを止めず、それどころか熱く濡れた舌で、そこを撫でる。
「ん……っ、ぁ……っ」
カクッと膝から力が一瞬抜けた。身体を支えたエヴァンの腰と薫の腰が密着し、彼の状態を知ってぶわっと顔が熱くなる。
「え、エヴァン……何か、……当たってる……」
薫は恐る恐る訴えると、彼は「ええ」とあっさり肯定した。彼の息はどんどん弾んで荒くなっていて、辛いの? と聞くと、収まりそうもないと返ってくる。
それなら、と薫は意を決してその場に膝立ちをした。彼が苦しいなら、自分はそれを取り除いてあげたい。
「か、薫……っ?」
珍しく慌てたエヴァンの声を無視し、彼のズボンを寛げる。下着を下ろすと、見事にそそり立ったエヴァンのものが、弾けるように出てきた。
普段は静かな顔をしているエヴァンの怒張は、とても立派なものだった。美しい容姿と男の象徴とのギャップに、薫は無意識に喉を鳴らす。そして薫は、その熱く大きな亀頭に軽くキスをした。
「まさか、……ダメですよそんな……っ」
エヴァンの言葉が途中で途切れる。薫はエヴァンのものを口に含み、舌で裏筋を愛撫しながら彼の怒張を吸い上げた。
「……っ、う……っ」
そして吸い上げながら顔をゆっくり前後させると、エヴァンは腰を引く。正直、根元まで咥えようとすると苦しい。けれど薫は彼の腰を押さえてまたゆっくりと口淫を続けた。口の中で彼のものが跳ね、それに連動したかのようにエヴァンが呻く。
「どう? 痛くない?」
口を離して手でゆるゆると扱きながら彼を見上げると、耳どころか頬まで真っ赤にした彼の視線とぶつかった。綺麗な薄紫色の虹彩が潤んで、そっと閉じられた瞼が震えている。
「…………気持ちいいです……とても……」
「……良かった」
いつも澄ましているエヴァンの顔は、快感に耐え唇を噛んでいた。それだけで薫は嬉しいし、胸がキュンとする。そして、女性的な美しさがあるエヴァンも、やはり男なのだと、この今にもはち切れそうな怒張を見て思う。
「薫……」
呼ばれてまた彼を見上げると、エヴァンは頬を撫でてくれた。優しい長い指が耳を掠め、ゾクゾクする。
「私も、……貴方に触れたいです」
こちらへ、と誘われたのはベッドだ。二人でベッドの端に座り、どちらからともなく唇を合わせた。エヴァンの唇は予想通り柔らかくて、薫はその感触に夢中になり、気付いた時にはお互いに舌を絡ませていた。
「は……、んん……」
意識が溶け始め、思考がエヴァンのことばかりに塗り替えられていく。
ふわふわとして、気持ちいい。このままこのとろんとした意識のまま沈みたい。
「……っ、あ……っ」
そう思っていた矢先、胸に刺激があって背中が跳ねた。見ると、いつの間にか服の前が開けられ、エヴァンの手が直接、薫の胸を撫でている。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
エヴァンが息を弾ませながら聞いてきた。薫はびっくりしただけ、と答えると、彼は薫を抱きしめる。
エヴァンは苦しそうで、これは彼を先にどうにかした方がいいかも、と彼の背中を撫でた。
(ここまできてもまだ、自分の欲は言わないんだな……)
先程自分に触れたいと言ったのも、薫を気持ちよくさせたい為だろう。こうして欲しい、と彼が願えば、薫はできる限り応えてあげたいのに。
「エヴァン……どうして欲しいか言って? 辛いなら、先に出す?」
薫がそう言うと、エヴァンは薫の頭を大事そうに抱えた。
「薫、無理しないで」
耳元で聞こえる声はもう限界そうだ。なのに、どうしてこのひとは、そこまで自分を抑えるのだろう?
「無理? してないよ?」
「だって貴方は……っ、薫、待ってください……っ」
まだ何か言い募ろうとしているエヴァンを無視し、彼の太ももを撫で、そのまま全く萎えない熱をそっと握る。それだけで呻いて、息を詰めたエヴァン。薫はそのまま手を動かすと、あっという間にそこから熱が吐き出された。
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