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エドナ診療所 エナ2

 それからも毎日ティムは診療所を手伝いに来た。 ミカ婆さんのように、僕では治しきれない痛みの根本を治してくれるのは助かるし、大柄な怪我人をベッドに運んだりしてくれるのもありがたかった。 ティムに対する給料は初日以来払って?いない。ティムは「エナがその気になったら思う存分いただくよ。」って言うんだけど・・・その気ってどうやったらなるんだろう? よく分からないまま五日が過ぎた。 今日は診察時間にティムは来ない。昨日「明日はドラゴンの谷へ行かないとならなくなった。診療所は手伝えないが、夜には顔を見に来るよ。」って言ってたから。 午前の診察時間が終わる。最近ずっとティムがいるのが噂になっていたらしく、何人にも根掘り葉掘りティムの事を聞かれた。「彼氏?」って何回聞かれただろう。違うと言ってもみんな信じてくれないし。 お昼ご飯にミカ婆さんが差し入れしてくれたおにぎりを食べ、お茶を飲み一息ついた。 そう言えば最近はティムが魔王城からお弁当を持って来てくれてたし、僕、全然料理してないや。そのうち作って持って来ようかな?ティム、喜んでくれるかな? すでにティムの事を気にかけてるのに、自分の気持ちには全く鈍感な僕。この後すぐに自覚する事になるんだけど・・・ 午後の診察が始まり、診察をこなして行く。もうそろそろ終了時間だ。次が最後の患者かな? ドアが開き、サムさんが入って来た。サムさんの契約精霊、サーバルキャットのムーアも一緒だ。 「あれ?サムさん、筋肉痛は回復魔法をかけない方がいいって・・・?」 「エナ、あの男と付き合ってるのか?」 まただよ。 「いえ、付き合ってはいませんよ。」 「なら俺と付き合ってくれ!ずっと前からエナの事が好きなんだ。」 はぁっ??! 「いえ、すみませんがお断りします。」 「どうして?!あんなに優しく治療してくれたじゃないか??エナも俺の事好きなんだろ?!」 何でそうなるのっ?! 「僕は治療の際には誰に対してもあんな感じですよ?サムさんの誤解です。」 「うそだっ!なぁ、エナ、好きなんだよ。」 そう言ってサムさんは僕の手首を掴み、自分の方に引き寄せた。バランスを崩した僕は、サムさんに抱きしめられる形となる。 体が拒否してゾワッと鳥肌が立った。 必死になってサムさんから離れようとする。 ドナに助けを求めて視線を向けると、ドナもムーアにのしかかられている。 うっ、僕、攻撃魔法持ってないんだよな。サムさんで最後だからドアの向こうにも誰もいないし・・・ひっ?!サムさんの顔が近づいて来た。キスされる?ヤダヤダ無理気持ち悪い。 頭に浮かんだのはティムの顔だった。 ティムじゃなきゃ嫌なのに! 助けて!ティムっ!! そう思った瞬間、サムさんの体が吹っ飛んだんだ。 「ごめん。遅くなったね。」 そこには見惚れるくらいの美丈夫がいた。 「ティム・・・」 僕の目から涙がポロポロと溢れ出る。 「エナに何してくれてんだお前?死ね。」 壁にぶち当たって動けないサムさんにティムが、攻撃魔法を落とそうとしているのが分かる。 「やめて!ティム!!殺しちゃダメ。例え最南の島の王族でも、この国で魔族を殺すと罪になるから。それに、そこまで酷い事はされてないよ?拘束だけしてくれたら大丈夫。お願いティム。」 ティムはため息を吐きながら、拘束魔法でサムさんをグルグル巻きにした。 あっ!ドナはっ? うん。何の心配もなかったね。ノンがドナを背負ってムーアをボコボコにしてたよ・・・ 「ドナ、コウ兄にここに来て欲しいってジンに伝えて?」 ジンはコウ兄の契約精霊のウンピョウだ。 「うん・・・すぐ来てくれるって。」 まだ納得がいってなさそうなティムに言う。 「コウ兄は僕の実の兄だよ。サムさんはコウ兄の後輩なんだ。二人とも騎士団勤務。そして僕の父さんも騎士団員で、今はそれを束ねる立場。 多分サムさんは騎士団でかなり厳しい罰を受けると思う。魔族を守るはずの騎士団員が、魔族を襲ったんだからね。 下手したら辞めさせられるかも知れない。だからコウ兄に任そう。」 ーーーーーーーーー  魔族の国の食事事情について。 このお話は「腹黒王子ちゃんは異世界でも完璧魔王に溺愛される」から続く五作目(二作品はこちらでは未投稿)の異世界物語です。 前提として、この異世界は現代日本に住む高校生、冬崎明日楽が「自分の身近な人々が揃って異世界にいたら?」という想像から書いた小説が基本となっています。 そのアスラ(現王妃)が作った設定として、この世界の食事は基本、現代日本の洋食です(ハンバーグにライスのような感じ。生姜焼きくらいまではある)。 米や調味料は普通にあります。 ガチな和食も存在しますが一般的ではありません。専門店に行って食べるイメージ。 基本、ナイフとフォーク、スプーンで食べます。お箸もありますが、現代日本のように何でもお箸で食べる文化ではありません。 なのにお弁当文化はあるという謎設定。日本と同じく、おにぎり、から揚げ、卵焼きなどが定番です。 ルコ

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