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逢見の葛藤

「見た目はもちろんなんですけど、周りの目とか気にせず、自分の思うままに生きてるところとか、めちゃくちゃかっこいいと思います!」 そんな風に楓真波人に告白され、付き合いだしてから数カ月。 ほかの女には見向きもせず、楓にハマってしまった逢見萩は、楓にとって今の自分の魅力は顔だけなのでは、と柄にもなく悩んでいた。 ーー 大学生の逢見は、学内で一番かっこいいと噂されるほどのイケメン。 来るもの拒まずな逢見だったが、そんな彼と付き合うには条件があった。 それは逢見が、「どこで」「誰と」「何を」しようと一切口を出さない、ということ。 自他ともに認めるクズな条件だが、自分だけは逢見に振り向いてもらえる、という自信のもと、その顔目当てに告白する女子は後を絶たなかった。 しかし、付き合っていけば自分だけを見てくれるはず、という女子たちの淡い期待はかなわず、彼女は数日~数週間でコロコロと変わっていた。 もはや何人目の彼女かもわからない女と逢見が別れ話をしているところに居合わせたのが、後輩の楓だ。 バイで、逢見の顔や自由な生き方に憧れていた楓は、来るもの拒まずという噂を信じて逢見に告白。 クズな条件を快く承諾し、逢見と付き合うようになった。 ーーー 常に一歩引いて、逢見を優先し、あまり自分の要求を押し付けてこない楓にこんなにもハマってしまうとは、逢見自身想像すらしていなかった。 「どうせ数週間で俺を見限ると思ってたのにな。それどころかそんな自分勝手な生き方をしている俺のことが好きだとは…」 しかし、楓のことを好きだと自覚した逢見は、「どこで」「誰と」「何を」しようと一切口を出さないという条件を撤回。楓になら独占されても良いと思うまでになっていた。 何なら、楓のこれまでの相手に嫉妬してしまうほどに。 付き合い当初、「逆に君が何をしてても口出ししない」と言っていた逢見だが、最近になって、楓には他にも相手がいたんじゃないか、と思うようになった。 楓と付き合い始めても自分にセフレがいたように、楓にもそういう相手がいたかもしれない。 実際、楓は処女でも童貞でもなかったし、挿入される側のセックスに慣れているという風なことも言っていた。 二人が初めてセックスした日も、逢見は初体験以上に緊張していたのに、楓はそうでもなかったような…。 これまで付き合ってきた相手は、ただ“付き合っている”という関係だっただけで、まったく好きでもなんでもなかったんだと、楓を好きになって改めて思うようになった。 もし今の自分が楓に「俺が何やっても口出ししてこないで、先輩も浮気していいよ」なんて言われたらどう思うか…。 まぎれもなく俺はクズだったな、と思い知る。そういう条件を前提で付き合っていたとはいえ、今までの彼女に悪かったな、と逢見は少し反省していた。 そんな自由―いや、自分勝手―な生き方や恋愛観を持った逢見が好きだと言っていた楓だが、そんな男はもはやいない。 ただ初恋におぼれている、恋の仕方がまだよくわからない男になってしまっていた。

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