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第6話

「煜瑾ちゃ~ん、おかあさまですよ~」  困り切った文維は、唯一子育ての相談に乗ってもらえそうな人物を、文維と煜瑾の2人のための自宅へ招いた。 「でも、一体どういうこと?子供服を買って持って来いなんて。しかも下着から一揃えだなんて」  玄関まで、母である恭安楽(きょう・あんらく)を出迎えた文維だったが、母は息子のパートナーであり、自身のお気に入りである唐煜瑾の顔が早く見たいらしい。文維の疲弊した顔をロクに見ようともせずに、スタスタと奥のリビングを目指した。 「いるんでしょう?煜瑾ちゃん」  誰も居ないリビングの真ん中で、恭安楽は不満そうに息子を振り返った。 「いるのは…いますが…」 「?」  いつもは聡明で打てば響くようなところがある息子が、今朝はなんだか歯切れが悪いことに、恭安楽はようやく気付いた。 「文維?」  母が息子に聞き質そうとした、その時だった。 「!…まあまあ!」  声のトーンが上がり、(とろ)けるように母の表情が緩んだ。 「なんてカワイイ坊やなの?煜瑾ちゃんによく似て…。唐家の親戚の子でも預かっているの?」  寝室からヒョコンと顔を出した小さな子に、相好を崩した恭安楽はいそいそと駆け寄る。 「どうしたの?こんな…煜瑾ちゃんのTシャツみたいなのを着せられて…。裾を引きずって、転んだりしたらどうするの?」  ニコニコと嬉しそうに、恭安楽はカワイイ小さな男の子を抱き上げた。 「あ~ん、本当にカワイイ。煜瑾ちゃんにソックリで、まるで、もう、完璧な天使じゃないの~」  可愛い物が大好きな、いつまでも乙女心を忘れない恭安楽は、小さな天使にもう夢中だ。 「おかあ…しゃま…」 「や~ん、カワイイ!わたくしのことを『おかあしゃま』だなんて!…え?」  ある可能性に気付き、恭安楽はギョッとした 「ま、まさか…、この子…が?」 「おかあしゃま。こんな姿ですが…私は、煜瑾です…」  とにかく小さな体を落とすまいとしっかり抱き締めたまま、文維の母は目を見張り、言葉を失い、表情だけで息子に事の次第を問いかけた。

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