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第13話

 母のおふざけにいつまでも付き合うつもりのない文維(ぶんい)は、すぐに難しい顔になった。 「もはや、煜瑾(いくきん)は…、外見も内面も3歳児です。私の『恋人(いくきん)』はどこにもいません」 「…文維…」  恭安楽(きょう・あんらく)にとって、誰よりも抜きん出た、神童と呼ばれる息子だが、実は精神的には脆いところもある。他人のことは冷静に分析し、判断できるのに、自分のこととなると思考停止し、混乱してしまうのだ。  それが特に最愛の恋人のこととなると顕著で、かつて健康を害したことすらある。 「本当に、何があったのか…。救いは、煜瑾ちゃんが幼くて分かっていないせいで、この状況を苦にせずに済むことね」  (いた)ましい息子の様子に、包夫人は深いため息を落とし、静かに眠る天使を見た。 (煜瑾はこのまま、3歳児から人生をやり直してしまうのだろうか)  ふいに文維は不安になる。これから、10年後、15年後、25年後…「本当の」煜瑾の年齢になる頃には、記憶も経験も何もかもが違う、「もう一人の」煜瑾になってしまうだろう。 「煜瑾が今の年齢になる頃には…、あなたはもう50過ぎのオジサンね」  無神経というよりも、現実を突きつけるように包夫人は息子に言い放つ。  この現実をどう受け止め、どう切り抜けるか、今まさに文維は自分の知性を試されていた。  年も違う。経験も違う。…そんな2人が、今と同じように愛し合うことが出来るだろうか。  いや、このまま3歳児の煜瑾は文維への想いさえ忘れ、文維そのものも忘れてしまうかもしれない。  そして、そのまま煜瑾は自分から離れても新しい人生を生きられるかもしれない。  だが自分は?  文維は自問自答した。 (煜瑾無しに、生きていけるはずがない…)

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